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経営戦略

第244回 経営戦略の弁証法的考え方

Posted on 2017-04-06

 私は、企業が「勝ち続ける」ために経営戦略を策定する上で、思考ベースが重要であるとの考えを持っています。いろいろな思考ベースがありますが、私は経営戦略の策定時にはヘーゲルの弁証法の考え方を意識することにしています。弁証法にもいろいろな学者が自分の理論で主張をしていますが、私はヘーゲルを主体にした理論を意識しています。

 哲学や論理学の授業で学んだ方が多いと思いますが、ヘーゲル哲学の基本原則は、

 1.ある命題(テーゼ=正)と、

 2.これと矛盾する、もしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ=反)、そして

 3.それらを本質的に統合した新たな高次元の命題(ジンテーゼ=合)

 の三つで構成されています。

 難解な部分は省略して構成内容の意味を簡単に言えば、全てのものは自己内部に矛盾を含み、自己と対立するものを生み出す。それら双方は対立によって互いに結びついている。最終的には、双方がaufheben(止揚)される。否定の否定の二重否定にみえるが、aufhebenにおいては、上記原則の「正」のみならず、正に対立していた「反」もまた保存され、より高い立場で対立の矛盾を統「合」していると、私は理解しています。

 「正」、「反」、「合」に立脚したヘーゲルの弁証法が言う具体的原則が、経営の世界では一見無関係に見えます。しかし、思考の組み立て上経営戦略の策定時にも、以下の通り参考になることが多いと考えています。

 

どこに事業発展のチャンスがあるか

 チャンスやリスクを分析する時に、私はある法則を意識します。「螺旋的発展」の法則です。

 この法則はいろいろな場面で図示説明されることが多いのですが、含蓄のある法則です。「螺旋的発展」の法則は、世の中の事象の成長軌道を、右肩上がりに一直線に進むのではなく、あたかも螺旋階段を上るように成長していくというものです。

 経営計画では会社は、二次元の線上を成長していくように描くことが多いですが、実際その成長は螺旋的な進歩・発展をしているというものです。

 経営に携わった経験からすると、まさにその通りだと思います。したがって、戦略の思考にもこの発想を生かすのが適当ではないかと考えています。

 螺旋階段を横からみると、成長しているようにみえても、真上から下をみると同じステージで停滞しているようにみえることがあります。実はキーはここです。すなわちこの法則は、成長と、古いものの復活といったある種の停滞的現象が同時に起きていることを意味しています。

 このことは経営戦略的には、「強さ」、「弱さ」、「機会」、「脅威」などの事実関係を客観的に分析していく過程で、成長や停滞の根源的理由や根拠を明白にすることと関連します。

 すなわち、「何故そうなのか」という疑問を呈すことがポイントとなります。

 時の経過で何かの事象が発生して、そのような事態になったはずです。以前繁盛していたサービスが「何故なくなってしまったのか?背景は何か?」を問うことになります。その中ですべてがなくなってしまったのではなく、一部のサービスの機能は今も残っている。だとすると、サービス機能が変質した形で復活しているかもしれない。そこで、「何故、それが残っており、もしくは、復活しているのか?」を問う、更に、自社が他社に対して優位性を発揮できる自信があり、政策的に復活させたいサービスが考えられれば、それを「どうしたら復活させられるか?」を真剣に問うことになります。

 上記の自問自答を繰り返す中で、戦略絵図の中に自社の将来の螺旋階段的な成長を左右する大きなヒントが出てくるはずです。

 古くはやっていたサービスが、合理化・効率化の一環で新しいサービスで追いやられた。しかし、螺旋階段の次の周のタイミングで最新の技術を取り込む形で従来のサービスを一段上のサービスとして復活させる。この切り口が他社との大きな差異化につながることも多いはずです。

 自社が蓄積したノウハウがあるにも拘わらず、世の中の流れとしてその利用をあきらめるか、あるいは、この螺旋階段の法則のように、蓄積したノウハウを次の周で新しい切り口として一段上位の形として生まれ変わらせられないかの戦略の議論と関係してきます。

 一見革新的なサービスと見えても、従来のサービスに何か新しいものを付け加え、一段上位のサービスとして衣替えでき付加価値をつけることができるものが沢山あるはずです。

 このためには、制度、環境や技術の変化を予想して、自社のサービスとどう関係づけられそうか、将来を洞察する戦略策定者の力が影響してきます。

 

量と質の関係

 経営戦略策定上もう一つ重視していることは、「物事は量から質への転化により発展する」法則です。

 この法則が明示することは、移行がどの時点で起きる可能性があるかを戦略上どう判断するかに関わってきます。量の水が100度で気体の質になることが、時々例示されます。「量」が増大して一定の水準を超えると、急激に「質」の変化が起きることです。

 市場が量的に飽和状態になると、突然非連続的な劇的変化、質の変化が生じることがありうるということです。自ら劇的な飛躍や進化をその市場に持ち込むことで、量から質への競争上の転化を生じせしめる可能性を秘めています。ビジネスチャンスです。サービス全体の設計のやり方がある時点で大きな変化が生じざるを得ない、これを戦略上生かすことを示唆しています。

 転化の時点を経営者がどう読むか、この議論も成長戦略上のポイントになるかもしれません。

 

矛盾を包摂する

 さらにこれらの法則の根底にある基本原則と言えるものも含蓄があります。それは、「矛盾の止揚による発展」の法則です。

 世の中には矛盾だらけ、むしろ矛盾にこそ意味があるとも言えます。その矛盾を解消することのみに意義を見出すのでなく、弁証法的に止揚した時はじめて物事は発展するとの考え方と理解します。

 経営をしていても、現実は矛盾だらけです。それらを一つずつ個別に解決しても全体が上手くいかないことが多い。

 特定の機能は必要だったからこそそれが存在していたが、今はその機能があることが他の機能との矛盾につながる場合もあります。その時、一方の機能を否定するのでなく、両方の機能を肯定し包括した機能を新たに作ることで、より時限の高いところに解決策を持っていく作戦です。

 このような戦略こそが組織の筋肉を切らず人材という財産を減耗させないで、より次元の高い組織体に成長・発展させていく方法になるかもしれません。

 経営戦略の策定に携わる方々のご参考になれば幸いです。