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戦略

第246回 戦略というストーリー(物語)を描く

Posted on 2017-04-27

 連絡事項です。この原稿は24日に仕上げ、一昨日より海外に遊びに行っており、このビジネスコラムを6月の初め頃まで原則休稿とさせていただきます。

 

 昨年末に『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)を著した関係上戦略策定についての相談が多いので、皆様にもお役に立つと思い、以前取り上げたこのテーマを再度取り上げます。

 2012年に書いた『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりの「18の定石」の重要性についてふれました。定石を踏むことで、目指す企業風土をつくる、これを実現する過程を通じて企業の成長を早期に実現を目指すものです。

 私自身経営や戦略策定の仕事などで多少の成果をあげた実績をもとに、「仕事にストーリー(物語)性をもたせ、常にイノベーション・マインドをつくる」ことを13番目の定石としました。経営や戦略という仕事を成功裏に導くために、それらをストーリー(物語)、しかもイノベーティブなストーリー(物語)として描くことが不可欠だからです。

 「定石13」を強調した背景は、現状の延長線上で未来を予測して戦略を練り、結果として失敗したり、革新が無いだらだら経営が続いている経営者を沢山見てきたからです。また、戦略も含め魅力的なストーリー(物語)に仕立て上げないと、社員の共感を得られず、スピードが出ない経営も沢山見てきたことも背景にあります。

 未来を同一線上に予測するのでなく変化や革新を自ら洞察し、洞察したことを現状の分析を踏まえてまずキチッと物語として描き、それにマッチした戦略を策定・展開するのが成功のカギではないかと思っています。想像し洞察したことの重点内容を経営戦略として明快にストーリー(物語)として描き、戦術として計画的に遂行することが成功の近道だと感じています。

 ここでストーリー(物語)にするまでの考え方を整理してみます。私の場合、次のようなステップを踏んでいます。これを、通常、無意識にやっている経営者もいます。しかし、再度、ステップを意識して確認してみることで経営のレベルが高まります。意識して行うことをお薦めします。

 

1.経営目標を設定する

 社長のヴィジョンを全社の目標の中に整備して織り込みます。

 社長がいろいろな場面でヴィジョンを語っているはずです。しかし、その発言の文言が統一的でなく、微妙なニュアンスの違いなども含んでいるはずです。そこで一度「やりたいこと、挑戦してみたいこと」を整備してみる。

 整備した後で、自分も納得でき、社員も共感できる形にデザインした「経営目標」を設定します。

この場合、出来れば「経営目標」の中に数字や期限を織り込みたい。単純明快な言葉にまとめたい。この目標の内容に接する人に誤解を生む余地が少なく正確に理解し、自分事として捉え浸透をしやすくするためです。

 

2.課題群をつまびらかにし、重点的に取り組むテーマを設定する

 もちろん、業種や、事業の発展段階で課題の内容には違いがあります。

 顧客が偏りすぎている、エンドの顧客が見えていない、世の中の新メディアや技術に対応しきれていない、人材の育成ができていない、新しい収益モデルが見つからないなど、いろいろな課題が次から次へと見つかるかもしれません。

 私が経営責任を負った頃の或る会社も、難問山済みでありながら課題群がつまびらかにされておらず、課題間の関係も整理しきれていない状態でした。

 

余りにも沢山課題がありすぎて、課題群をパッチワークで個別に対応するより、それらの重要なものを包摂して同時並行的に解決できるものが多いことを発見しました。そこで私の場合、課題群の関係性を整理の上重点的に取り組むべきテーマとして課題群より更に上位のものを設定しました。

 今流に言えば、新しい収益モデルを見つけ、それをテーマに設定したのです。既存のモデルを継続していったのでは課題群の解決に時間がかかりすぎ、社員を含めた全員の努力の成果が予期したほどには期待できないと読んだからです。

 

3.事業展開に必要な事実情報を収集する

環境の変化の洞察

 一つは、環境の変化に関わる情報、二つは、自社の実態に関わる情報を収集分析することです。

 新しい技術が世の中の顧客の行動や一日の利用可能時間の中での利用内容を変えつつあります。

 特に、ビジネスマンの使える時間の中でスマホに費やす時間が相対的に増えています。すなわち、情報入手が簡便になった反面、スマホでの連絡で済ませ、対人の関係の物理的関係の希薄化が発生してきています。対人をベースとする商談の時間も相対的に減ってきていますので、商談のスタイルの変更を迫られています。

 過去、高齢者から若者が得ていたノウハウ的な情報も、ネットで簡単に収集でき、高齢者が尊重される場面が相対的に少なくなってきたという間接的影響も出てきました。

 スマホの利用で、一日の中で他の遊び、勉強、読書などに充てる期間が少なくなってきました。自社の商品やサービスに費やされる時間が絶対的に少なくなってきていることを意味します。これらのことは自社のビジネスの将来に甚大な影響を及ぼす環境変化です。

 片や、この反動で、古いこと、田舎の環境へのあこがれ、失せたことへの郷愁もビジネスマンの心の中で一定割合を占めてきています。これをビジネスの視点を変えるチャンスが来たと捉えるむきもあります。

 自ら関係している事業を取り巻く環境の中で、世の中で発生している政治、経済、社会など環境の変化が自社のビジネスに積極的影響や消極的影響を及ぼすことになります。このトレンドを推察することが不可欠です。

実態分析

 自社の事業の実態の分析をつまびらかにしなければなりません。

 これにはいろいろな手法がありますが、一般的にはSWOT分析やこれを修正した手法が有効に使われています。自社の相対的な強み(Strength)、弱み(Weakness)、ビジネス機会(Opportunity)、いろいろな脅威(Threat)の事実を明示的に把握するプロセスです。

 分析にあたり注意すべきことがあります。

 同じ事実がメンバーによって強みと見えたり、弱みと見えたりします。創業したころのメンバーは、強みと観る。しかし、他の企業での経験を経て入社した人は、同じ事象を弱みと観るかもしれません。

 それをすべて同じテーブル上に開示して議論することが重要です。くれぐれも職位の上下の人の強権で一義的に判断しないことです。この分析内容が以後の戦略策定の思考プロセスに大きな影響を及ぼすからです。

 

4.事業の先行きを支配しそうなドライビングフォース(原動力)を見つける

 環境分析、自社の実態分析を通じて今後も強みとして維持・強化していける因子をなんとか見つけるプロセスです。

 今はそんなに強くないが、それを今後も強化していくことで、競合他社との競争に勝てる因子を見つける、すなわち、ドライビングフォース(原動力)を見つけるのが次のステップとなります。会社の成長・発展を引っ張る力となるものです。

 ドライビングフォース候補は一つしかない見つからない場合、大小、強弱合わせて複数見つけることができる場合等いろいろあります。しかし、欲張って作戦が散漫にならないように、挙がったドライビングフォース群の中から最重要な少数のものに限定するほうが得策です。資源を集中的に有効に使えるからです。

 

5.方向性を決める

 ドライビングフォースをどのマーケットに適用していくか、フィールドの狙い目を定めます。

 マーケットの将来の成長性が高く自社の因子が上手く適用できるフィールドを探した方がよいです。華々しく見えるフィールドには沢山の潜在的競合がいるはずですので、最初の段階では実力相応のフィールドを選びます。

 それでも時には、そのドライビングフォースを使って全く新しいマーケットを造る挑戦もしたい、そこで大きなシェアをとりたい。その方向性も勿論選択できますが、勝負に本当に勝てるかの綿密なリスク分析が不可欠です。

6.成功するストーリー(物語)を戦略として描く

 ドライビングフォースを駆使して決定した方向性のフィールド上で、どうやって稼ぐかの戦略の段階に入ります。この戦略の良し悪しこそ会社の将来の成長を決定づける重要なステップです。しかも、中期的視点でストーリーを描く気持ちを持ちたいものです。

 物語に起承転結がある通り、会社の成長にも力を貯める時、その力を一気に事業拡大につなげる時などのメリハリのある物語が現実てきです。一直線で成長する物語ももちろんありです。しかし、競争激化するマーケットの中でそのような絵図を描くには相当の自信と潜在的力があることが前提です。これも分相応の作戦からの絵図を描かれることをお勧めします。

 物語全体をいわゆる戦略と称するもので、私の場合、これを「中期計画」と称していました。総論倒れにならないよう絞り込みの留意、選択した戦略のリスク分析、投資対効果を最大化できる選択にするために計数以外の項目をどう評価するか、戦略が策定された後、各年度の事業計画の中での戦術展開時、具体的なイメージが全社員に湧き、自分がその実行の主役なのだと思えるストーリー化を目指すこと、上記の1~6がストーリー(物語)全体として矛盾なく遂行できるものかなどなど、書くべきことが沢山ありますので、この詳細は別途の項に述べることにし、当方海外に視察と称した遊びに行ってきます。

 

 

第244回 経営戦略の弁証法的考え方

Posted on 2017-04-06

 私は、企業が「勝ち続ける」ために経営戦略を策定する上で、思考ベースが重要であるとの考えを持っています。いろいろな思考ベースがありますが、私は経営戦略の策定時にはヘーゲルの弁証法の考え方を意識することにしています。弁証法にもいろいろな学者が自分の理論で主張をしていますが、私はヘーゲルを主体にした理論を意識しています。

 哲学や論理学の授業で学んだ方が多いと思いますが、ヘーゲル哲学の基本原則は、

 1.ある命題(テーゼ=正)と、

 2.これと矛盾する、もしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ=反)、そして

 3.それらを本質的に統合した新たな高次元の命題(ジンテーゼ=合)

 の三つで構成されています。

 難解な部分は省略して構成内容の意味を簡単に言えば、全てのものは自己内部に矛盾を含み、自己と対立するものを生み出す。それら双方は対立によって互いに結びついている。最終的には、双方がaufheben(止揚)される。否定の否定の二重否定にみえるが、aufhebenにおいては、上記原則の「正」のみならず、正に対立していた「反」もまた保存され、より高い立場で対立の矛盾を統「合」していると、私は理解しています。

 「正」、「反」、「合」に立脚したヘーゲルの弁証法が言う具体的原則が、経営の世界では一見無関係に見えます。しかし、思考の組み立て上経営戦略の策定時にも、以下の通り参考になることが多いと考えています。

 

どこに事業発展のチャンスがあるか

 チャンスやリスクを分析する時に、私はある法則を意識します。「螺旋的発展」の法則です。

 この法則はいろいろな場面で図示説明されることが多いのですが、含蓄のある法則です。「螺旋的発展」の法則は、世の中の事象の成長軌道を、右肩上がりに一直線に進むのではなく、あたかも螺旋階段を上るように成長していくというものです。

 経営計画では会社は、二次元の線上を成長していくように描くことが多いですが、実際その成長は螺旋的な進歩・発展をしているというものです。

 経営に携わった経験からすると、まさにその通りだと思います。したがって、戦略の思考にもこの発想を生かすのが適当ではないかと考えています。

 螺旋階段を横からみると、成長しているようにみえても、真上から下をみると同じステージで停滞しているようにみえることがあります。実はキーはここです。すなわちこの法則は、成長と、古いものの復活といったある種の停滞的現象が同時に起きていることを意味しています。

 このことは経営戦略的には、「強さ」、「弱さ」、「機会」、「脅威」などの事実関係を客観的に分析していく過程で、成長や停滞の根源的理由や根拠を明白にすることと関連します。

 すなわち、「何故そうなのか」という疑問を呈すことがポイントとなります。

 時の経過で何かの事象が発生して、そのような事態になったはずです。以前繁盛していたサービスが「何故なくなってしまったのか?背景は何か?」を問うことになります。その中ですべてがなくなってしまったのではなく、一部のサービスの機能は今も残っている。だとすると、サービス機能が変質した形で復活しているかもしれない。そこで、「何故、それが残っており、もしくは、復活しているのか?」を問う、更に、自社が他社に対して優位性を発揮できる自信があり、政策的に復活させたいサービスが考えられれば、それを「どうしたら復活させられるか?」を真剣に問うことになります。

 上記の自問自答を繰り返す中で、戦略絵図の中に自社の将来の螺旋階段的な成長を左右する大きなヒントが出てくるはずです。

 古くはやっていたサービスが、合理化・効率化の一環で新しいサービスで追いやられた。しかし、螺旋階段の次の周のタイミングで最新の技術を取り込む形で従来のサービスを一段上のサービスとして復活させる。この切り口が他社との大きな差異化につながることも多いはずです。

 自社が蓄積したノウハウがあるにも拘わらず、世の中の流れとしてその利用をあきらめるか、あるいは、この螺旋階段の法則のように、蓄積したノウハウを次の周で新しい切り口として一段上位の形として生まれ変わらせられないかの戦略の議論と関係してきます。

 一見革新的なサービスと見えても、従来のサービスに何か新しいものを付け加え、一段上位のサービスとして衣替えでき付加価値をつけることができるものが沢山あるはずです。

 このためには、制度、環境や技術の変化を予想して、自社のサービスとどう関係づけられそうか、将来を洞察する戦略策定者の力が影響してきます。

 

量と質の関係

 経営戦略策定上もう一つ重視していることは、「物事は量から質への転化により発展する」法則です。

 この法則が明示することは、移行がどの時点で起きる可能性があるかを戦略上どう判断するかに関わってきます。量の水が100度で気体の質になることが、時々例示されます。「量」が増大して一定の水準を超えると、急激に「質」の変化が起きることです。

 市場が量的に飽和状態になると、突然非連続的な劇的変化、質の変化が生じることがありうるということです。自ら劇的な飛躍や進化をその市場に持ち込むことで、量から質への競争上の転化を生じせしめる可能性を秘めています。ビジネスチャンスです。サービス全体の設計のやり方がある時点で大きな変化が生じざるを得ない、これを戦略上生かすことを示唆しています。

 転化の時点を経営者がどう読むか、この議論も成長戦略上のポイントになるかもしれません。

 

矛盾を包摂する

 さらにこれらの法則の根底にある基本原則と言えるものも含蓄があります。それは、「矛盾の止揚による発展」の法則です。

 世の中には矛盾だらけ、むしろ矛盾にこそ意味があるとも言えます。その矛盾を解消することのみに意義を見出すのでなく、弁証法的に止揚した時はじめて物事は発展するとの考え方と理解します。

 経営をしていても、現実は矛盾だらけです。それらを一つずつ個別に解決しても全体が上手くいかないことが多い。

 特定の機能は必要だったからこそそれが存在していたが、今はその機能があることが他の機能との矛盾につながる場合もあります。その時、一方の機能を否定するのでなく、両方の機能を肯定し包括した機能を新たに作ることで、より時限の高いところに解決策を持っていく作戦です。

 このような戦略こそが組織の筋肉を切らず人材という財産を減耗させないで、より次元の高い組織体に成長・発展させていく方法になるかもしれません。

 経営戦略の策定に携わる方々のご参考になれば幸いです。