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リーダーの器 / 折々の言葉

「甘えの構造」の打破と社員の幸せ

Posted on 2013-08-01

「No Pain, No Gain」の風土づくり

 以下の内容はある会社の経営改革の一環として経営者にアドバイスした一部を、このコラムのために一部修正して表したものです。

 経営層の「甘えの構造」は論外ですが、社員大半の「甘えの構造」が見られる時期がどの会社の成長段階でも発生することです。

 この原因は、これまでの経営層によるマネジャー層への指導の在り方と関係があると思われます。改革に少し時間はかかると思いますが、将来の発展のため「甘えの構造」の端緒が認識された段階で至急手を打つべきと考えます。

 これを是正する一つのキーワードはユダヤ教の「タルムード」で教えるといわれるNo Pain, No Gain」の考え方の徹底ではないでしょうか。まず経営層が範を垂れることが前提です。

 「タルムード」とは、ユダヤ人が数千年間民族内で語り継いだ彼らの説話と言われています。「何らかの犠牲の上にはじめて何等かの成果が得られる」ということです。いろいろなことがありながら世界の歴史の中でこの民族が長く注目されている背景は、幼少の時から「No Pain, No Gain」の考え方を一つの思想として教えてこられたからかもしれません。

 当たり前のことですが前段の状況下、良いとこ取りのみのような「甘えの構造」だけでは長く会社の成長発展を維持できないことを、マネジメント陣がいろいろな行動で社員に周知徹底し、第一に経営層の「甘えの構造」を排除することが前提です。

 自己中心的な考え方が社内に蔓延っているとしたら、「タルムード」の言葉の内面の意義を徹底して指導することで少しは修正できそうです。会社によって過去のいろいろな経緯があるとは思いますが、会社の発展のために、以下のような方法が考えられます。

会社の判断や施策への社員の反応

 会社が様々な経営判断をして、それが社内に伝達され浸透する過程で一番気になるのが社員の反応です。

 中でも正論ではないのに声の大きい人や、会社の上位の人の反応が一般に目立つものですが、このような声を取捨選択する風土が大事です。明確に意思を表示してくれる人はもちろん本来ありがたい存在なのです。正論を皆の場で発言する勇気こそ本物の心とみなさねばなりません。

 甘えの部分を除外して考えると、経営陣としては反応が無いことをありがたいと思う風土が問題です。無反応な人は何を考えているのかが不明であるが故に、会社の運営にとってはある意味で怖い存在です。社員の声が爆発する時は会社にとって致命的な段階と見るべきです。

 実は、社員の心が抑圧状態にあるのに、そのことが顕在化しないことが一番の問題です。抑圧された中で自由な発想など生まれるはずがありません。

 経営側としては、そのような心の状態の人がなるべく少なくなるよう、日常の「場」と「対話」を通じて、様々な努力と配慮を本心でしなければなりません。

 まさに経営側の「No Pain, No Gain」の実践と行動です。

社員を幸せにするための一大経営決断の例

 一例です。以前経営を任されていた会社での体験です。

 あまり芳しくない仕事場で、電話秘書代行業務を電話機とメモ帳で対応していた時代がありました。社員の側から人員不足や賃金についての不満が蔓延していました。

 仕組上はCRT画面上にデータベース情報が表示され、その記録情報を見ながら対応するとはるかに深いコミュニケーションができることがわかっていました。今ではこれは当たり前のシステムですが、多少誇張気味に言えば、30年前の当時はこのシステムを利用して仕事ができることがその業務に携わる人にとっては一つの夢でした。

 清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちを持ち、相当な資金を投資してこのシステムをつくり、少しでも現場で働く人たちの夢を実現させる判断をしようとしました。この時期に併せて職場の場所も移転し、近代的な環境の仕事場に変えました。

 このシステムは最初の頃、データベースからCRT画面に情報が出てくるスピードが遅く、投資は必ずしも期待通りにいったとは言えませんが、日本IBMの顧客配布用の資料でも紹介されたほど、音声系とデータ通信系を統合するという意味で当時の日本では画期的なシステムではなかったかと思っていました。この業務に携わる社員にとってもひとつの誇りとなりました。

 正直に言えば秘書代行業務はあまり人気のある業務ではなく、収益のソースの一翼を担う業務であるにも関わらず、担当者の仕事に対する満足度はそう高くありませんでした。

 そのような状況の中で、この部門への投資へのコミットメントをし、最新鋭のシステムを用い、顧客のデータベースに基づいて深いコミュニケーションができるシステム環境をつくることで、少しでも「社員を幸せにする」ことを、会社として本気で考えていることを現場で働くコミュニケータ一人一人に、明確に示すことができました。一つの経営判断です。

仕事場環境の改善、社員優先で自分は我慢する姿勢

「社員を大事に」していくうえで、仕事場の環境改善も重要な仕事の一つです。

 このことは、時には、単純に給与を上げることよりも重要な仕事です。

 それにもかかわらず、会社が中小の段階では投資に回せる資金がなく芳しくない物的環境で社員に仕事を強いていたり、システム化が遅れて人海戦術で仕事が展開している企業を多く見かけます。システム化をすることで仕事の生産性が高まるのみでなく、それを機に彼らの仕事のやり方が大きく変化し、社員の喜びと幸せに通じることが分かります。にもかかわらず、投資決断のタイミングを逸している経営をみるのは残念です。

 経営が本気で「社員を幸せにする」ことを実践する姿勢と具体的アクションが重要です。この時初めて経営に対する社員の信頼を勝ち取ることにつながると思います。

 発展途上なるが故に、サービスのつなぎがうまくいっていない会社があるのも事実です。良い仕組みを作らなければならないとの思いが、やっと緒に就いた段階に来ているかもしれません。しかし、どんなに良い仕組みを作っても、所詮、それを動かすのは人であることを忘れてはなりません。

 人が人へ仕事をつないでいく過程で、顧客を大事にすることの基本理念が社員の体質になるよう、幹部社員がいかに行動で示すかで、その理念が社内に浸透していくスピードが決まります。これは、会社や社員が顧客に近づくことです。顧客に本当に近づけば、顧客は多様な要望を出してきます。会社にも社員にも甘えている暇がないはずです。

 「顧客を大事にする思いが組織の壁に優先する」という意識と行動が浸透するような企業風土をつくる努力は、大事な社員を捨てない幹部自身の姿勢に求めるのが近道だと考えます。これは幹部社員の、日頃の部下との関係がいかに密かにかかっています。

 高度成長時代には、リーダーは夢を語り社員を先頭に立って引っ張ることが責務でありましたが、果たして今は?

 ある学長が「シンガリ型が良い。シンガリは古の時代から、一番つらく状況判断を的確にする必要がある。さもないと、敵に後ろから打たれ槍で刺されて負け戦になるから」とも述べられていました。

 シンガリには違う能力が要求されるようです。この言葉の重さが最近分かるようになってきました。社員のためにリーダーが如何に忍耐力を持つかです。

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