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アナログ

第201回 話し方の教室

Posted on 2016-05-05

 先般、興味深いことがありました。

 以前私が経営を任されていた会社の幹部社員が、退職の挨拶にきた時の話です。長く営業をやっており実績を挙げてきた彼が、同業種の管理職や営業職でなく、今後ボイストレーニングの修業をして出来れば将来独立をしたい動機を話してくれました。

 会社の経営上はデジタル面アナログ面の両者を充実しないと上手くいかないことが多いが、その中でも「最後の決め手はアナログ面だ」と、過去に私が強調していたことを彼が鮮明に記憶しており、それがきっかけでこれからをアナログ面の仕事に賭けたいとのことでした。

 私も、この元部下の選択にもろ手を挙げて賛成し、併せて、そのようなきっかけをつくったことに嬉しくもなりました。医者、弁護士、ビジネスマン等顧客を相手にする仕事では、自信に満ちた話し方が重要で、その訓練の需要が多くなるとの彼の説明です。

 そういう私自身のことを思い起こしてみると、ボイストレーニングというより話し方自体についても正式な訓練は受けてはいません。

 顧客対応の改善のためにいろいろな本からも少しは学びました。しかし、大部分は仕事の過程で逆に部下から教えていただきました。経営戦略や経営方針が少しでも早く部下に浸透するにはどうしたら良いか、部下の反応を見ながら学び、自分で工夫する中かから習得したことになります。その一部を今回述べさせていただきます。

 

1.最初の30秒で勝負が決まる。

 話は出だしの30秒で勝負が決まります。

 顧客対応の商売をして気づいたのは、クレームになりやすい応対は最初の出だしが上手くいっていないからです。受け側と相手の話がかみ合わない。

 話す側が会話を主導出来る場合には、良い出だしに気を付けることが肝要です。一つか二つの短い文で、言いたいこと、その切り札を素早く切る工夫をすることです。長い文は相手に響きにくいからです。

 出来れば、その文が聞く側の好奇心をそそるハラハラさせるようなものが最初に欲しい。「今まで聞いたことがない!」と思わせるような文を出だしに持ってくれば、話の入り口はまず上手くいくはずです。上記のようなトラブルになる確率はうんと減ります。

 

2.信念をもって「気」を入れて話す。

 実は、これが一番大切なことです。話し方の技法以前に、信念をもって伝えることです。事業戦略を社員に説き、彼らに共感をもってもらうためにいろいろな工夫をしましたが、結局このことの大事さを痛感しました。

 物の本などから仕入れた情報を戦略に焼き直しても、本心で自分が思っていない場合、「気」が入らない話し方になってしまう。美辞麗句が無くても本心で思っていることに信念をもって「気」をいれて説くことの重要性を体験しました。

 特に、「ある意味・・・」や「・・・と思います」等丁寧だが自信がなさそうな言い回しは、このような場合には止める方が良いことにも気づきました。

 自信たっぷりで、この情報は皆にとって、また、会社の発展のために価値があることだとの熱い思いがほとばしり出るような話し方こそ、相手の心に響きます。

 

3.話の内容を少しずつ濃くすること。

 実はこれも戦略や方針を浸透させる過程で気づいたことです。

 一度話しても簡単には浸透をしない。同じことを何度も煮詰めるごとく話す。

 このために10%新しい視点での話を挿入して、内容を煮詰める努力をしました。そのたびに話す内容の風味が強くなる感じが相手に伝わっていくのが、話す自分自身でも分かります。

 前回話した内容を、さらに練り上げて違う角度から話し込む。最初は少し懐疑的に聴いていた社員も内容が腹の底に落ちてくる瞬間がどこかで来る。話す私がその時を感覚的に分かるのは、私にとって最高の幸せ感を抱く時でした。

 

4.テーマをてんこ盛りにしないこと。

 話すテーマは絞ることです。

 話す側は沢山の情報を提供したい思いがある。これをやると話が早口で、内容が薄くなりがちで、むしろ意図とは逆になります。

 そこを我慢すること。主たる話題はせいぜい2くらいに絞る。一般的な話の受け手側にとって脳の片隅に印象に残せるのは、せいぜい2点くらいです。

 

5.自分事としてイメージできるエピソードを話の中で工夫すること。

 伝えたいメッセージをエピソードの形にすると、意外に浸透しやすい。

 聴く人が自分事に思えるように仕立てる。想像力が豊かに巡らせるエピソードを入れ込む工夫が効果的です。優れた小説などは、この手法を上手く使っているのではないかと推察します。

鴨長明の「方丈記」など、個人的には想像力が豊かになる秀例だと思います。

 古の京都の町で大火災が起きた状況などを、ルポルタージュ的に文章で表現している下りがありますが、読む人がその火災の凄まじさと世のはかなさを、あたかも自分事として捉えられる工夫が施してあるのではないかと思わせるストーリー仕立てになっています。相手の想像力をかりたてる工夫が仕掛けてあるのではないかと思うほどです。

 

6.計画的にスピードを遅らせること。

 早口は聞き手を眠くしてしまう。失言の可能性もあります。重要な場面では話すペースを落とす。

 これも沢山の人が集まる社内研修の場などでやりました。話す側は眠くならない。しかし、聞く方は、自分の興味をそそらない部分が長々続くと、つい眠くなるのが当たり前です。

 ここで故意に、話すペースを乱す。車の運転で急に速度を変えると隣の助手席の人の目が覚めるのに似ています。

 話すスピードの緩急は、話す側がコントロールできる部分です。始めから計画してこれを演出することです。

 

7.上手く話題を変えること。

 また、話題を上手く変えるのも工夫の一つです。

 これには一定の訓練が必要です。

 経営をしていると沢山の情報が入ります。その中から重要と思える情報以外は、個人的には捨てる工夫をしていました。捨てた情報を基に議論が進展する場合も出てきます。しかしそれは経営上重要ではないので、相手のメンツを潰さずにいかに話題を早く本論に戻すかの工夫の一環でこれをやりました。

 重要でない話題などでは、さりげなく話題を変えて、会議での会話の主導権を自分が握る工夫です。

 

8.話すより聴くこと。

 双方の会話では、聴くことこそが重要です。

 相手への関心を示すことは、まず聴くことから始まります。この重要性を皆分かっていても、意外に出来ていないリーダーを見ることが多いです。これについては、別途日を改めて述べさせて頂きます。

 

 連休も後半となりました。是非、楽しんでください。

 

第194回 顧客に購入してもらう工夫

Posted on 2016-03-10

 「売る」というより購入してもらう。これには大変な努力が必要です。よほど大きな希少価値がある商品でもない限り、消費者の選択は厳しい。その環境下でも商品の販売で利益を出さなければならない。今回は、そのためにいくつかの方法についてふれます。

 

いろいろな工夫

① 比較する対象をタイムリーに置く

 比べてもらって選択に持っていくのもよくやる方法です。自社の商品の価値を、顧客が自ら比較できるようにすることです。

 この方法は自転車の販売店などでよくみられる方法です。沢山置くと顧客が迷う。数台置き、その狭い幅の中から選択して選んでもらいやすくする。また、日用品を最初に3,000円で売り出し、しばらくしてから、少し付加価値をつけた5000円の商品を出す。迷っていた顧客が比較できる対象が出てきた。5000円の商品より安い3000円の商品を選ぶという、比較させる方法です。

 

② 無料を組み合わせ、魅力を出す

 私の年代の人は「半値」の値札がついていると、これにいたく感激して衝動買いしたものです。私のような単純人間は別として、今の顧客は「半値」の値札だけでは、鋭い反応を示さないのではないでしょうか。

 ネットでの購入の経験が長いため、商品は限りなく無料に近づくという潜在意識が高いのか、「半値」だけでは得をした感じを持たない。そのような時に、「無料」商品を上手く組み合わせる方法です。日本酒6パック半値より、6個のパックの購入者に「1カップ無料品進呈」とすれば、顧客の反応も良い、会社も利益が上がる組み合わせ方式です。

 

③ キャッチーなメッセージでひきつける

 メッセージを工夫したり、それを変えるだけで効果が出るものもあります。

 ゴルフのシューズ。「シングルプレーヤーがよく履くこのシューズ!!」とメッセージを入れた宣伝文句。靴だけでゴルフが上手になるとは思わない。しかし、「俺も、シューズを買い替えたら、ひょっとして・・・」という潜在的な思いが、衝動的購買につながることになるかも。普通のレベルのゴルファーに、「もしかしたら」を印象付けるメッセージを入れる方法です。一般の消費者向けの商品で、彼らの目と脳に訴える方法として様々なキャッチが可能です。勿論本体自体が良い品ものである前提です。

 

④ 商品に共感性を抱かせる

 ネット経由の無機質の世界から共感の世界に導くのも方法です。その商品のデザインが気にいっている。手に持った時の商品の感触が良い。それを持つと何となく誇らしく友人に薦めたくなる。友人とこの商品で楽しみたい。発売開始時のiPhoneしかりです。商品から共感性を抱かせる上手い方法です。

 

⑤ 同じ空気を体験させる

 CDをリアルな場で購入するのは、この例です。リアルなコンサートの場でアーティストと触れ合い、共感を味わい、居心地の良い体験を経た後、デジタルの商品を会場で購入する、講演会場で講演内容に賛同、満足して講演録のCDや商品を購入する方式です。

 顧客価値をリアルの環境の中で体験し、商品に表現されている同じ空気感を基に商品を購入する。二段構えで時間がかかりますが、ファン層づくりにもつながる方法です。

 

⑥ 顧客接点をアナログ化する

 ネットで商品を購入するもよし。しかし、皆と逆のことをやる、逆張り方法です。

 敢えて、顧客との接点をアナログ化する。その商品やサービスをリアルの場で購入すると、楽しいとか、魅力的だとかの、アナログな世界に導く方法です。商品にってやり方に違いがあるとしても、デジタル化が進めば進むほど、一部の顧客は、無機質の世界でなく、こういう人間的な接点に興味を覚え、魅力に感じてきます。

 

⑦ 特定層や女性目線を大事にする

 ある軽自動車のボックスシリーズでは、室内を広くし子供用の自転車を搭載可能にする設計に腐心が感じられます。このスペースを確保するために、エンジン部分の設計段階で、その機能についての発想の転換が潜んでいるのではないかと思わせるものです。

 女性目線を大事にしてファッション性を重視し、車の色を多色選択とし、幅寄せがしやすいようにミラーを充実しているのも傑作だと思います。

 

価値を売る

 顧客に購入してもらう方法と同時に、適正な値決めは経営者にとって極めて重要な仕事です。しかし、同時に難しい。

 理想的には、顧客に値段を決めてもらう、商品の顧客価値(カスタマーバリュー)に対してバリューに合う値段をお支払いただく方針を貫きたい。

 特定の商品やサービスが顧客にとってどんな価値を持つかを仮決めし、その顧客価値に合致した値決めをすることになります。私の経験でも顧客にとって価値あるものは高く売れます。ある時期、クオリティ(品質)に顧客が重きを置いている傾向を洞察、徹底してこれを差異化すると、この策が顧客価値に合致し相対的に高い値段で継続して販売できました。逆に、良いと思った商品でも、顧客が使い勝手などの価値を認めないかぎり、高い値段では売れ無いことも体験しました。

 顧客価値を見いだせない時、自社のコストに対して一定の利益を載せて売る「マークアップ」方式にする傾向があります。しかし、最近のデジタル環境下では、深刻な価格下落に見舞われ、マークアップ率の低下傾向に皆悩んでいます。この原因は、顧客価値を真剣に探索せず、プロダクトアウトの発想で商売をやっているからだと早く気づくべきです。