園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

マーケット、全体、村、人材教育

企業の活動場所の選択

Posted on 2014-10-09

 日本企業が事業展開や営業活動をするにあたり、主たる舞台を国内にするか海外にも広げるかの選択についてはいろいろな議論があります。

 傾向としてグローバル化すべしとの意見が多くなってきています。他方、いろいろな事情でグローバル化の進展がはかばかしくなく、国内へ活動の一部を移転すべしとの意見もあります。

 私は、事業活動の舞台については、その企業の目的遂行に照らして最善の選択をすべきだと考えています。

 P.ドラッカー氏を持ち出すまでもなく、全ての企業は顧客の維持開拓をしなければなりません。このことは、民間企業にとって利益を出しつづけねばならないことと深く関係します。顧客開拓を進め優良な顧客を維持していくことで、結果としてその企業が中・長期的に利益を出すことになるからです。

 従って、事業や営業活動の舞台の選択にあたってのポイントは、どうやって利益を出せるかにかかっています。

 

1.まず、顧客を開拓するために、マーケットをどこに探すか

 自社の事業特徴に照らして、今後も国内で大きなマーケットが期待されるなら、その企業は国内で活躍できます。この場合、海外に進出することで新たなリスクを負う必要は無いかもしれません。新興国等海外の市場は成長が著しいことも事実ですが、国内で経験するものとは違うリスクに会うことが多く見られるからです。

 このように、あくまで自社の顧客開拓との関連で判断すべきです。それにも拘わらず、一義的に日本企業はグローバル化をすべしとの議論には賛同できません。

 

2.次に、その選択がトータルなコストの削減につながるか

 中・長期的に利益を確保するため、生産手段に関わるコストを下げるための経営努力をするのは当然のことです。材料の仕入れコスト、人件費の削減など、その企業のコストに占める割合が多い費目に注目し、これを下げるのは経営の責任です。

 しかし、考えなければならないのは、そのような個別のコスト費目の削減がトータルなコストの削減につながっているか否かです。ご存じの通り、顧客に販売する商品やサービスが顧客に届くまでにはいろいろなビジネスシーンが生じます。このシーンとの関連で言えば、顧客への商品などの提供が完了するまでのサービス・デザイニングの考え方を私は重視しています。サービスはその利用者の立場に立ってデザインされるべきだからです。顧客が利用に供するために、すべての個別の部分が繋がっており、且つ適正にデザインされて始めて顧客の評価が得られ、企業の利益に資することになると私は考えています。クォリティーも含めた全体が満足いくものでなければ、顧客は選択してくれません。ノミナルな個別費目がいくら安くても、サービスが繋がらず、クォリティーを加味した全体に顧客が満足していないのであれば、生産性を総合すると、それは低いはずです。結果として、トータルなコストの削減には至らないことになります。最近、一部の生産を海外の工場から国内にシフトする企業が増えてきたのは、この点にも一因があるものと考えます。留意したい点です。

 

3.村的なメンタリティーを全て排除してしまうか

 日本企業は村的なメンタリティーをすべて排除したほうが良いと主張される方もいます。また、村的発想を全て排除しなければ海外での競争に負けてしまうと主張する人もいます。果たして本当にそうでしょうか?

 悪い意味での排除の論理を前面に出した村的メンタリティーは、百害あって一利なしかもしれません。しかし、私は、村の特徴である、助け合うメンタリティーと風土は残すべきと考えています。日本人が誇りとする、助け合い、周囲との調和を保つ風土は、長い目で見れば国内外を問わず企業の利益を創出するためにメリットがあると考えるからです。詳細は、『これからの課長の仕事』(ネットスクール出版)に譲りますが、日本的経営の特徴とされる村的な発想やメンタリティーも十分意義があるものと考えます。

 

4.以上のことを前提として、いずれの選択をするにしても、企業が取り組むべき中心課題は、国際的に活躍できる自律した人材の育成です

 このため言語の課題もクリアすべきですが、やはりその人材の個性を重視して、しかもどこの市場でも活躍できる自律的人材の育成に主眼を置くべきです。何処にいようと自分が関与している事業への貢献は当然のこととして、それに加えて、会社全体への貢献に意欲を燃やせる人材の育成です。

 働く社員は、会社へのロイヤルティーより自分の関与している事業へのロイヤルティーを重視すべきだという考え方もあります。身近なことに全精力を注ぐのは当然のことです。しかし、それが極端になりすぎると、発生する事態からのリスクを、私は危惧します。会社や周囲の同僚よりも、自分の昇進のみを最優先し、結果として、自分のみに光が当たれば良いとの発想をする人材が増えかねないことです。ほとんどの企業では、人材層の点でも20:80の論理が当たると思います。この論理の環境下で先ほどの極端な発想をする人が増えると、20に該当する人は良いとして、80の人をどうするかの解決にはならないからです。むしろ、この80の人材層のレベルアップ、人材教育こそ重要ではないかと考えます。

しかも、人材教育の内容としては、個性豊かな自律的な人をつくることです。海外だろうが国内だろうが、今一番欠けているのは、人材の個性だと思うからです。加えて、まず日本のことを、日本の良い所を徹底的に学ぶことです。言語を先行させるより、日本の伝統、文化、技術背景、歴史等、日本を代表して物が言えるくらいの、人間としての教養と力量を備える人材教育が優先されるべきだと思います。深いレベルで相手の国との違いを明確化でき、且つ、日本的経営の良い部分を相手の国に納得して移植させる力となるはずです。単なるスキルの習得のみでは、海外だろうが国内だろうが、沢山の人の上に立つリーダーとなるのは難しいと考えるからです。

以上、ご参考になったら幸いです。