園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

共感性

第194回 顧客に購入してもらう工夫

Posted on 2016-03-10

 「売る」というより購入してもらう。これには大変な努力が必要です。よほど大きな希少価値がある商品でもない限り、消費者の選択は厳しい。その環境下でも商品の販売で利益を出さなければならない。今回は、そのためにいくつかの方法についてふれます。

 

いろいろな工夫

① 比較する対象をタイムリーに置く

 比べてもらって選択に持っていくのもよくやる方法です。自社の商品の価値を、顧客が自ら比較できるようにすることです。

 この方法は自転車の販売店などでよくみられる方法です。沢山置くと顧客が迷う。数台置き、その狭い幅の中から選択して選んでもらいやすくする。また、日用品を最初に3,000円で売り出し、しばらくしてから、少し付加価値をつけた5000円の商品を出す。迷っていた顧客が比較できる対象が出てきた。5000円の商品より安い3000円の商品を選ぶという、比較させる方法です。

 

② 無料を組み合わせ、魅力を出す

 私の年代の人は「半値」の値札がついていると、これにいたく感激して衝動買いしたものです。私のような単純人間は別として、今の顧客は「半値」の値札だけでは、鋭い反応を示さないのではないでしょうか。

 ネットでの購入の経験が長いため、商品は限りなく無料に近づくという潜在意識が高いのか、「半値」だけでは得をした感じを持たない。そのような時に、「無料」商品を上手く組み合わせる方法です。日本酒6パック半値より、6個のパックの購入者に「1カップ無料品進呈」とすれば、顧客の反応も良い、会社も利益が上がる組み合わせ方式です。

 

③ キャッチーなメッセージでひきつける

 メッセージを工夫したり、それを変えるだけで効果が出るものもあります。

 ゴルフのシューズ。「シングルプレーヤーがよく履くこのシューズ!!」とメッセージを入れた宣伝文句。靴だけでゴルフが上手になるとは思わない。しかし、「俺も、シューズを買い替えたら、ひょっとして・・・」という潜在的な思いが、衝動的購買につながることになるかも。普通のレベルのゴルファーに、「もしかしたら」を印象付けるメッセージを入れる方法です。一般の消費者向けの商品で、彼らの目と脳に訴える方法として様々なキャッチが可能です。勿論本体自体が良い品ものである前提です。

 

④ 商品に共感性を抱かせる

 ネット経由の無機質の世界から共感の世界に導くのも方法です。その商品のデザインが気にいっている。手に持った時の商品の感触が良い。それを持つと何となく誇らしく友人に薦めたくなる。友人とこの商品で楽しみたい。発売開始時のiPhoneしかりです。商品から共感性を抱かせる上手い方法です。

 

⑤ 同じ空気を体験させる

 CDをリアルな場で購入するのは、この例です。リアルなコンサートの場でアーティストと触れ合い、共感を味わい、居心地の良い体験を経た後、デジタルの商品を会場で購入する、講演会場で講演内容に賛同、満足して講演録のCDや商品を購入する方式です。

 顧客価値をリアルの環境の中で体験し、商品に表現されている同じ空気感を基に商品を購入する。二段構えで時間がかかりますが、ファン層づくりにもつながる方法です。

 

⑥ 顧客接点をアナログ化する

 ネットで商品を購入するもよし。しかし、皆と逆のことをやる、逆張り方法です。

 敢えて、顧客との接点をアナログ化する。その商品やサービスをリアルの場で購入すると、楽しいとか、魅力的だとかの、アナログな世界に導く方法です。商品にってやり方に違いがあるとしても、デジタル化が進めば進むほど、一部の顧客は、無機質の世界でなく、こういう人間的な接点に興味を覚え、魅力に感じてきます。

 

⑦ 特定層や女性目線を大事にする

 ある軽自動車のボックスシリーズでは、室内を広くし子供用の自転車を搭載可能にする設計に腐心が感じられます。このスペースを確保するために、エンジン部分の設計段階で、その機能についての発想の転換が潜んでいるのではないかと思わせるものです。

 女性目線を大事にしてファッション性を重視し、車の色を多色選択とし、幅寄せがしやすいようにミラーを充実しているのも傑作だと思います。

 

価値を売る

 顧客に購入してもらう方法と同時に、適正な値決めは経営者にとって極めて重要な仕事です。しかし、同時に難しい。

 理想的には、顧客に値段を決めてもらう、商品の顧客価値(カスタマーバリュー)に対してバリューに合う値段をお支払いただく方針を貫きたい。

 特定の商品やサービスが顧客にとってどんな価値を持つかを仮決めし、その顧客価値に合致した値決めをすることになります。私の経験でも顧客にとって価値あるものは高く売れます。ある時期、クオリティ(品質)に顧客が重きを置いている傾向を洞察、徹底してこれを差異化すると、この策が顧客価値に合致し相対的に高い値段で継続して販売できました。逆に、良いと思った商品でも、顧客が使い勝手などの価値を認めないかぎり、高い値段では売れ無いことも体験しました。

 顧客価値を見いだせない時、自社のコストに対して一定の利益を載せて売る「マークアップ」方式にする傾向があります。しかし、最近のデジタル環境下では、深刻な価格下落に見舞われ、マークアップ率の低下傾向に皆悩んでいます。この原因は、顧客価値を真剣に探索せず、プロダクトアウトの発想で商売をやっているからだと早く気づくべきです。