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挫折

第245回 挫折から立ち上がるには

Posted on 2017-04-13

 私は、これまで沢山の周囲の人たちに支えられて今日まできたことを、本当に感謝しています。

 B社の経営者として少しは実績を残せたのも、沢山の社員のサポートのお陰と、心底から思っています。

 その過程で、ビジネスマンとして幾度と挫折も味わってきました。最大のものは、B社の再建を託された矢先に数千万円の支払手形の存在が発覚し、それが毎月末呈示され続け、資金難と過去の経営からの累損に耐えられず文字通り会社倒産の危機に直面した時、親会社の新経営陣との経営方針の違いからくる経営摩擦に直面した時、ファンド株主側等がB社の株式を金融操作に利用した事件に巻き込まれ、従前に描いていた経営戦略の前提条件が一気に崩れてしまったために経営の防御態勢を敷かざるをえなかった時など、困難や挫折を数えれば枚挙にいとまがありません。

 それでも、私はこれらの挫折から何とか立ち上がろうと努力してきました。

 これらの体験を踏まえると同時に、他の経営者が失敗や挫折から立ち直った実体験を聞き及ぶに、彼らは共通の要素を持ち合わせているのではないかと思います。それを時にレジリエンス、すなわち、挫折や失敗から立ち上がり、目標を達成するまで粘り強く挑戦を続ける力と呼ぶことがありますが、失敗や挫折から立ち上がるには、次のようなことが要素として挙げられると考えます。

 

1.強い目標を持つこと

 前述の通り薄氷を踏む思いの、手形金額の支払いに関する裁判や交渉、経営戦略の違いからくる親会社の新経営陣との摩擦、カネの論理の跋扈に対して日本的経営を貫く姿勢に対するファンドの抵抗など、次から次に挫折や逆境の原因が時間差を経て私を襲ってきました。

 しかし、私はあきらめませんでした。いつかは「このような形の会社を造って社員を今より幸せにしたい」、そのためには「こういう戦略を打ち出したい」という強い目的意識を持って行動し続けました。このことが挫折克服に影響したのではないかと思います。

 すなわち、直面する日常的諸課題があっても、それを止揚した一段上に中期的指針(目標)を掲げ、この目標実現に向けてあらゆるエネルギーを結集させたのです。比較的下位の原因による摩擦や挫折も、より上位の強い目標の前では、克服しなければならない諸課題の一つくらいに精神的負担の重さが軽くなってくるように感じます。これが、私がいろいろな挫折を克服できた一つの要素と見ています。

 人生における失敗や挫折の多くは、成功や解決に近づいていることに本人が気づかず、あきらめてしまうことだと、よく言われます。なるほどと思うこともありますが、これはなんとなく後付けに映ります。

 当時の私には「成功や解決に近づいている」意識を感じる余裕もありませんでした。とにかく一段上の「目標の実現に向かって頑張るしかない」という根負けしない意識を持ち続けたというのが実感で、これが挫折を克服できた要素だと思っています。

 1939年、ナチスドイツ軍がポーランドに侵攻し第二次世界大戦がはじまり、イギリスもドイツに宣戦布告しました。しかし、イギリスはフランスのダンケルクから撤退。1941年、ナチスドイツ軍は、ついにヨーロッパを制圧しました。それにも拘わらず、イギリス首相チャーチルは粘り強く我慢し、自由を守る大義の下、イギリスだけは市民の自由を蹂躙するドイナチスドイツに屈しませんでした。ドイツは彼らの抵抗に根負けしたという大きな歴史的事実も、強い目標を持つことが挫折の克服に果たしたことを裏付けているのではないでしょうか。

 

2.私心に勝る公的考えの道徳的支柱をもつこと

 誰でも私心はある。時には、これが挑戦意欲の源泉となります。しかし、挫折を打ち砕くには、もしくは、それを凌駕するには公的考え方を根底にした何らかの道徳的支柱が必要なのではないでしょうか。

 私の場合、実質倒産状態の会社を放置する選択肢も、理論上はありました。けれども私は、その選択肢は選びませんでした。「経営者が何とかしなければ会社が倒産して社員が路頭に迷う。これは絶対回避しなければならない。戦略を練り何とか倒産を回避しよう」という発想が、脳裏にすでに焼き付いていたからです。この時、私心に勝るある種の道徳的支柱があったからこそ、踏ん張り困難を克服できその後の成長・発展を実現できたと今でも思っています。

 正直さ、高潔さ、誠実さなどを包含した道徳的な支柱があれば、周囲からの信頼を勝ち取ることができる。これを踏まえて難しい状況でもそれを乗り越えることができる大きな要素と考えます。

 

3.楽観する、俊敏に決断する力

 私は、幸いCSKの故大川功氏の側で学ばせていただきました。数々の失敗を超える成功体験をしたこの方を、近くで観察できる機会に恵まれました。失敗しても物事をとにかく前向きに楽観的に捉え決断する卓越した経営の瞬間も観察できました。

 その楽観主義が本心から出たものか、あるいは一種の空元気から出たものかは、私には正直分からなかった部分もあります。

 しかし、とにかく次の俊敏な経営の動きに繋げる、彼の楽観主義を観たことは間違いありません。楽観して素早く決断することでチャンスを生かせる、それは危機に直面した時にとる、彼の決断する瞬間で分かりました。何かに挫折してもそれを楽観的に活かす経営姿勢を如実にあらわす俊敏な決断力です。

 この体験や勉強からすれば、私が当時直面した挫折などたいしたことではないと思える習性が私の中で育っていたと思います。直面した重篤な課題をどう楽観的に解決するかに、大川氏の側で学ばせていただいたことが役に立ち、私にも迷いは生じなかったと記憶しています。

 「次の戦略を俊敏に打ち出せば、会社は必ずこうなる」というシナリオに自信がありました。それで良い方向に会社を持っていけるという自信もありました。社員の共感を得るために相当努力もしました。戦略を実行したある段階で、「社長の汗に感謝します!!」と社員から寄せ書きの色紙をもらい感激し、戦略路線の楽観的自信が倍増しました。この楽観主義と決断力があったからこそ会社を再建できたと思います。

 このような楽観主義を身につけるには、自ら成功や失敗体験を重ねることが肝要だと考えます。ビジネスマン人生を無難に過すより、火の中の栗をあえて拾う役目も時に必要です。また、体験できない場合、目標を達成した人を近くで観察することなども有益と思います。楽観的で前向きで俊敏な決断を下す経営姿勢を近くで学ぶ努力も必要となるのではないでしょうか。