園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

物語

第267回 プレゼンテーション

Posted on 2017-12-28

 いろいろな会社の経営者にアドバイスをしている立場上、社長のスピーチやプレゼンテーションを聴く機会が多いです。

 上手くて拍手を送りたいものも多い。しかし残念ながらその中には、話を長時間聞いていても「何を言いたかったのだろうか?」と心配になるものもあります。

 人を惹きつけないスピーチやプレゼンテーションの場面として、何を伝えたいかの目的、テーマが不明確(それで何を言いたいの?)で一貫性が無く、意外性が無くありきたりで、聴く人の好奇心を掻き立てることがらが話に盛り込まれていない、話の全体の流れに起承転結が工夫されていない場合などです。

 一般的に人の話を10分以上集中して聞ける人は少ないと言われています。

 このことは私も経営をしていてよく分かりました。経営を引き受けた直後の私も、社員に伝えたいことが沢山ありすぎて、盛沢山の内容を入れたために、かえって浸透に失敗して冷や汗を流した記憶があります。

 しかし、回を重ねるうちに、いろいろ気づきました。

 

複数トーク路線の工夫

 トーク内容を一字一句完全な原稿に書き起こすか、ポイントのみをメモしてその瞬間に湧いた言葉で話すか、場面に応じて方法もいろいろ考えました。

 どれをとるにしてもトークの進路を複数用意するほうが良い。何故なら、本筋は同じでも、「場」の状況に則して違うアプローチで話せるという、話し手の自由度が出てくるからです。また、頭の中が急に真っ白になった時、戻れるルートが複数あるほうが戻りやすいことにも気づきました。

 

「場」の工夫

 「場」と「内容伝達の方法」の工夫も重要です。

・まず、物理的な「場の環境」です。

 どれくらい収容できるか、部屋の響きはどうか、レイアウトはどうかなど、物理的な環境が、話す内容に則しているかを必ず事前にチェックします。

 大きな部屋に少人数しかいない、部屋の周囲が騒々しく集中できない、対談するような内容なのにスクール的環境であったりすると、たとえ良い内容でもそれが相手に伝わるレベルがどうしても低くなります。

・次に、「場の雰囲気」です。

 テーマや参加者に適した登場の仕方を工夫する。

 聴き手にとって感度が良いスタートモードをとれるために、笑顔、立ち居振る舞いなどで緊張感を無くす工夫をする。

 要は、スピーチやプレゼンテーションのイントロで、話し手自らが話を聴いてもらいやすい環境を作ることです。

 

出だしが肝心

 トークは「はじめ」と「終わり」が肝心です。出だしの一分で聴き手の興味をひかなければなりません。そして最後に何を言うかが、一番聴き手の記憶に残る言葉が必要です。

 まず出だしです。

 話し手が最初にすべきことは、聴き手が自分から喜んで話を聞いてくれるようにすることです。

 そのために聴き手と目を合わせてほほ笑む。ステージを堂々と歩き、2~3人と目を合わせる。

 緊張して言葉が出ないときは、素直にそれを認める。言葉が出てこないと水を飲み「少々お待ちください。ちょっと緊張しているんで。すぐに正常運転に戻りますので、水を一杯」などと工夫すると、聴き手が暖かい拍手を送ってくれるはずです。

 これで出だしを切り抜けられます。

 

「伝達内容」の工夫

・優れたトークは、「物語」風に仕立て上げる。

 「物語」ならだれでも身近に感じられ共感しやすいからです。

 しかも、20文字以内を目安に最初の文章から「物語」として始めるとよいです。

 例えば、経営戦略の目標の重要な話をするときに、長い文章の連続で「物語」を始めると、主旨がなかなか伝わらない。全く聴き手の印象に残らない。

 「今後3年xxxを目指します。」と短い言葉で切り出し、その後「物語」を展開する伝達の工夫が肝要です。

・聴き手が共感できるような登場人物を入れる。

 「私が43歳の時、CSKの故大川功氏からxx会社の再建を託され、決意を新たに経営に取り組みました。ところが、着任直後に判明したxxのことで…」などと、大経営者の故大川氏との出会いから始め、以後必死で社員とともに頑張ったくだりで聴き手の共感を呼ぶ。一例です。

 ビジネスに興味ある聴き手なら、このように実績をあげた大経営者を登場させ、聴き手の好奇心や社会的な関心、さらに、直面した実際の危機体験を通じて緊張感を高めるのも方法です。

・適度な量のディテールを盛り込む

事業計画の策定にあたっての内容の説明の時、重要なある部分については詳細説明をし、内容が深いことを聴き手に悟らせる工夫も大事です。

メリハリをつけていくことです。

・最後に笑いや感動や驚きで締めくくる。

 例えば事業計画キックオフの場面では、「成長拡大する要因の総括は、3つです。3つですよ。経営者の覚悟、経営戦略を踏まえた事業計画、それと社員の心を結集できる幹部のリーダーシップです」と話し、直後に「xxさん、リーダ-シップに自信があるので大丈夫ですね!!」と、社員皆が、リーダーシップが欠如していると思っている人の名前をあえて出して彼に目線を送り、締めの笑いを誘うなど。あくまで一例です。

 

この一年ご愛読いただきありがとうございます。

良い正月をお迎えください。 園山 征夫

 

第246回 戦略というストーリー(物語)を描く

Posted on 2017-04-27

 連絡事項です。この原稿は24日に仕上げ、一昨日より海外に遊びに行っており、このビジネスコラムを6月の初め頃まで原則休稿とさせていただきます。

 

 昨年末に『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)を著した関係上戦略策定についての相談が多いので、皆様にもお役に立つと思い、以前取り上げたこのテーマを再度取り上げます。

 2012年に書いた『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりの「18の定石」の重要性についてふれました。定石を踏むことで、目指す企業風土をつくる、これを実現する過程を通じて企業の成長を早期に実現を目指すものです。

 私自身経営や戦略策定の仕事などで多少の成果をあげた実績をもとに、「仕事にストーリー(物語)性をもたせ、常にイノベーション・マインドをつくる」ことを13番目の定石としました。経営や戦略という仕事を成功裏に導くために、それらをストーリー(物語)、しかもイノベーティブなストーリー(物語)として描くことが不可欠だからです。

 「定石13」を強調した背景は、現状の延長線上で未来を予測して戦略を練り、結果として失敗したり、革新が無いだらだら経営が続いている経営者を沢山見てきたからです。また、戦略も含め魅力的なストーリー(物語)に仕立て上げないと、社員の共感を得られず、スピードが出ない経営も沢山見てきたことも背景にあります。

 未来を同一線上に予測するのでなく変化や革新を自ら洞察し、洞察したことを現状の分析を踏まえてまずキチッと物語として描き、それにマッチした戦略を策定・展開するのが成功のカギではないかと思っています。想像し洞察したことの重点内容を経営戦略として明快にストーリー(物語)として描き、戦術として計画的に遂行することが成功の近道だと感じています。

 ここでストーリー(物語)にするまでの考え方を整理してみます。私の場合、次のようなステップを踏んでいます。これを、通常、無意識にやっている経営者もいます。しかし、再度、ステップを意識して確認してみることで経営のレベルが高まります。意識して行うことをお薦めします。

 

1.経営目標を設定する

 社長のヴィジョンを全社の目標の中に整備して織り込みます。

 社長がいろいろな場面でヴィジョンを語っているはずです。しかし、その発言の文言が統一的でなく、微妙なニュアンスの違いなども含んでいるはずです。そこで一度「やりたいこと、挑戦してみたいこと」を整備してみる。

 整備した後で、自分も納得でき、社員も共感できる形にデザインした「経営目標」を設定します。

この場合、出来れば「経営目標」の中に数字や期限を織り込みたい。単純明快な言葉にまとめたい。この目標の内容に接する人に誤解を生む余地が少なく正確に理解し、自分事として捉え浸透をしやすくするためです。

 

2.課題群をつまびらかにし、重点的に取り組むテーマを設定する

 もちろん、業種や、事業の発展段階で課題の内容には違いがあります。

 顧客が偏りすぎている、エンドの顧客が見えていない、世の中の新メディアや技術に対応しきれていない、人材の育成ができていない、新しい収益モデルが見つからないなど、いろいろな課題が次から次へと見つかるかもしれません。

 私が経営責任を負った頃の或る会社も、難問山済みでありながら課題群がつまびらかにされておらず、課題間の関係も整理しきれていない状態でした。

 

余りにも沢山課題がありすぎて、課題群をパッチワークで個別に対応するより、それらの重要なものを包摂して同時並行的に解決できるものが多いことを発見しました。そこで私の場合、課題群の関係性を整理の上重点的に取り組むべきテーマとして課題群より更に上位のものを設定しました。

 今流に言えば、新しい収益モデルを見つけ、それをテーマに設定したのです。既存のモデルを継続していったのでは課題群の解決に時間がかかりすぎ、社員を含めた全員の努力の成果が予期したほどには期待できないと読んだからです。

 

3.事業展開に必要な事実情報を収集する

環境の変化の洞察

 一つは、環境の変化に関わる情報、二つは、自社の実態に関わる情報を収集分析することです。

 新しい技術が世の中の顧客の行動や一日の利用可能時間の中での利用内容を変えつつあります。

 特に、ビジネスマンの使える時間の中でスマホに費やす時間が相対的に増えています。すなわち、情報入手が簡便になった反面、スマホでの連絡で済ませ、対人の関係の物理的関係の希薄化が発生してきています。対人をベースとする商談の時間も相対的に減ってきていますので、商談のスタイルの変更を迫られています。

 過去、高齢者から若者が得ていたノウハウ的な情報も、ネットで簡単に収集でき、高齢者が尊重される場面が相対的に少なくなってきたという間接的影響も出てきました。

 スマホの利用で、一日の中で他の遊び、勉強、読書などに充てる期間が少なくなってきました。自社の商品やサービスに費やされる時間が絶対的に少なくなってきていることを意味します。これらのことは自社のビジネスの将来に甚大な影響を及ぼす環境変化です。

 片や、この反動で、古いこと、田舎の環境へのあこがれ、失せたことへの郷愁もビジネスマンの心の中で一定割合を占めてきています。これをビジネスの視点を変えるチャンスが来たと捉えるむきもあります。

 自ら関係している事業を取り巻く環境の中で、世の中で発生している政治、経済、社会など環境の変化が自社のビジネスに積極的影響や消極的影響を及ぼすことになります。このトレンドを推察することが不可欠です。

実態分析

 自社の事業の実態の分析をつまびらかにしなければなりません。

 これにはいろいろな手法がありますが、一般的にはSWOT分析やこれを修正した手法が有効に使われています。自社の相対的な強み(Strength)、弱み(Weakness)、ビジネス機会(Opportunity)、いろいろな脅威(Threat)の事実を明示的に把握するプロセスです。

 分析にあたり注意すべきことがあります。

 同じ事実がメンバーによって強みと見えたり、弱みと見えたりします。創業したころのメンバーは、強みと観る。しかし、他の企業での経験を経て入社した人は、同じ事象を弱みと観るかもしれません。

 それをすべて同じテーブル上に開示して議論することが重要です。くれぐれも職位の上下の人の強権で一義的に判断しないことです。この分析内容が以後の戦略策定の思考プロセスに大きな影響を及ぼすからです。

 

4.事業の先行きを支配しそうなドライビングフォース(原動力)を見つける

 環境分析、自社の実態分析を通じて今後も強みとして維持・強化していける因子をなんとか見つけるプロセスです。

 今はそんなに強くないが、それを今後も強化していくことで、競合他社との競争に勝てる因子を見つける、すなわち、ドライビングフォース(原動力)を見つけるのが次のステップとなります。会社の成長・発展を引っ張る力となるものです。

 ドライビングフォース候補は一つしかない見つからない場合、大小、強弱合わせて複数見つけることができる場合等いろいろあります。しかし、欲張って作戦が散漫にならないように、挙がったドライビングフォース群の中から最重要な少数のものに限定するほうが得策です。資源を集中的に有効に使えるからです。

 

5.方向性を決める

 ドライビングフォースをどのマーケットに適用していくか、フィールドの狙い目を定めます。

 マーケットの将来の成長性が高く自社の因子が上手く適用できるフィールドを探した方がよいです。華々しく見えるフィールドには沢山の潜在的競合がいるはずですので、最初の段階では実力相応のフィールドを選びます。

 それでも時には、そのドライビングフォースを使って全く新しいマーケットを造る挑戦もしたい、そこで大きなシェアをとりたい。その方向性も勿論選択できますが、勝負に本当に勝てるかの綿密なリスク分析が不可欠です。

6.成功するストーリー(物語)を戦略として描く

 ドライビングフォースを駆使して決定した方向性のフィールド上で、どうやって稼ぐかの戦略の段階に入ります。この戦略の良し悪しこそ会社の将来の成長を決定づける重要なステップです。しかも、中期的視点でストーリーを描く気持ちを持ちたいものです。

 物語に起承転結がある通り、会社の成長にも力を貯める時、その力を一気に事業拡大につなげる時などのメリハリのある物語が現実てきです。一直線で成長する物語ももちろんありです。しかし、競争激化するマーケットの中でそのような絵図を描くには相当の自信と潜在的力があることが前提です。これも分相応の作戦からの絵図を描かれることをお勧めします。

 物語全体をいわゆる戦略と称するもので、私の場合、これを「中期計画」と称していました。総論倒れにならないよう絞り込みの留意、選択した戦略のリスク分析、投資対効果を最大化できる選択にするために計数以外の項目をどう評価するか、戦略が策定された後、各年度の事業計画の中での戦術展開時、具体的なイメージが全社員に湧き、自分がその実行の主役なのだと思えるストーリー化を目指すこと、上記の1~6がストーリー(物語)全体として矛盾なく遂行できるものかなどなど、書くべきことが沢山ありますので、この詳細は別途の項に述べることにし、当方海外に視察と称した遊びに行ってきます。

 

 

第215回 物語を語る経営

Posted on 2016-08-18

相手に通じてナンボ

 私は、経営方針を社員に説くときに、計数だけでなく、できるだけ物語を語ることに気をつけていました。

 事業の計画の期初のスタート時点から期末までの間の諸政策には、一貫した物語があるはずです。方針が社員の「腹の底に落ちて初めてナンボだ!」と口を酸っぱく言っていたのは、計数のみでは無機質で社員の心に刺さらないので自分自身もこれに努力をしていたからです。

 腹の底に落ちるには、本心で、相手のペースに合わせて、同じことを何回も、しかも少し角度を変えながら説くことが大切ですが、これを物語として説くことが肝心です。

 物語(ストーリー)は、自分の過去の出来事、失敗などの経験、顧客との真剣勝負の間合いなどですが、これらが物語としての話し方によって、聞く人にとって感銘を与えることになります。

 この重要性を認識してもらうべく、私の主張する「農耕型企業風土づくりの経営」を推進するための経営の【定石】の13番目に、これを入れています。

 

若手の経営者の指導―教科書にないこと

 最近若手の経営者の経営指導をしながら彼らの育成の努力をしていますが、その指導に当たり教科書的で一般的な内容は彼らにほとんど響かないことに身をもって体験しています。

 むしろ、私の身近に起きたストーリー、私の過去の反骨的経営ストーリーなどを内包した一つの物語として語るほうが、はるかに彼らの心に刺さることを知りました。自慢話になりそうなリスクがあるので、これまではあえてこの指導方法を避けていましたが、最近は一部軌道修正をしています。

 ある意味で波乱万丈の経営人生、既存の体制に対して常に疑問を呈し、現状を打破して局面を打開して次の成長の活路を求めていった私の経営体験が、彼らの生きた勉強・研修になるようです。

 具体的には、破産寸前での再建決意とその裏での綿密な戦略と遂行物語、経営路線をめぐる親会社との対立と克服の手段選択、大仕掛けな経営主張の裁判での決着など、若手の経営者が、規模の大小は別としても、現実に直面する事態に対して、「トップが経営上どんな物語を描いて、どんな選択肢を選んだのか」が教科書には載らない生の体験を物語として語るのです。

 

物語を語るメリット

 お陰で、このことを聞きつけた紹介された他の経営者が興味を示してきました。彼らも指導を実践して確実に実績をつけてきました。

 このように、

・人から人への話は広がりやすいのです。良い口コミです。指導がストーリー仕立てになっているので、彼らの脳の中に入りやすく、覚えやすい。心理学的にはストーリーを入れることで聞き手の吸収力に数十倍の効果があるのではないかと思っています。

・自慢話に仕立て上げてはなりませんが、実際に起きたことを経営的視点から物語ることで、若手の経営者が学ぶ気持ちを自然に起こさせることができます。

 最初は少し拒絶反応がある人がいても、実体験の物語が経営を変えていくためのものであることが分かると、彼らも自然に態度を変えてきます。物語を話す私に敬意を示し、さらに学びたい真摯な姿勢が如実にでてきます。

 これの例外は、自分だけの考え方に凝り固まっている経営者で、他の人の意見を聞こうとするマインドがない人です。経営のスピードを加速させ、結果として、社員全体の支持を受けることができるのに、自分だけの考え方に凝り固まっていることが、明らかにマイナスになっていることに気づいていない人です。

 残念ですが、このような人は経営資質の限界があります。経営することが仕事であることを理解できていない人です。

・生の物語は、彼らの心に響きやすく、人を奮い立たせる力があります。

 「俺も挑んでみよう!!」という気持ちにさせる機会をつくるのが、この手法の最大の効果です。彼らの心のギアが回転しだすと、後は、経営の路線を踏み外さないように、その時点で必要な経営施策をしっかりアドバイスするだけで上手くいきます。結果として、確実に会社の成長のスピードを更に高めることにつながります。

 もちろん経営層のみならず、一般社員の育成にあたっても、物語を語る方式を研修に取り入れることも可能ですが、今のところ私の興味は、日本に日本の文化風土を反映したプロの経営者を育てることですので、ここは経営層に限定して言及しました。

 蛇足ながら、アメリカの大統領予備選挙の候補者の演説を聞くと、アメリカという国の経営のためにどういうストーリーで臨むのかについて物語が、この半年全くありません。

 単なるイベントのショウに成り下がっており、この間の時間と金を費やすに値するプロセスか否か個人的には疑問に感じる制度です。

 もし、経営者候補がこのような短絡的、人気取り的な演説のみを行ったとすると、まず経営者として選任に値しないと皆が見做すでしょう。

 ご参考になりましたでしょうか。