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聴く

第230回 聴く、そして、質問をする

Posted on 2016-12-15

 私のビジネスコラムの中で、以前ふれたことがあるテーマです。「聴く、そして、質問をする」ことが本当に下手な経営者に最近会い、このことを思い出しました。重要なことと思いますので、再度取り上げます。

 相手の話を聴いて、それをもとにして「質問する、問いかけることをすれば、本当の情報が沢山集まり建設的な議論ができ、もっと会社が成長するのに」と、感じた次第です。優秀な経営者の一人ですが、とにかく、一方的に話し続ける、自分の主張しかしないタイプの人です。

 

ある体験

 アメリカのある苦情処理のコンサルタント会社の会長と交渉をしていた時にも同様なことがあったことを、思い起こします。

 その会長は弁護士であったせいもありますが、とにかく、しゃべり続ける人でした。自分の知識の豊富さを披瀝したいのではないかと思うほど、しゃべり続ける人で、こちらが興味を持っていることに、ずばりと答えてくれる人ではありませんでした。

 延々と周辺の知識から話し出す。間合いがないので、音声が私の耳を通るだけ。本論の所に行く時点では、私の興味度が全く薄れてしまっており、当方の聞く姿勢も中途半端になってしまいました。

 聴かない当方にも責めがありますが、数時間を費やして論点を明確にできないまま交渉が時間切れという情けない光景だったことを、今も思い出します。幸い、パートナーの社長がカバーしてくれて、交渉は成功裏にできましたが、精神的に嫌な体験でした。

 

社会構造の変化

 確かにこの社会は、競い合い、知識などをもとに課題を解決するために主張することが評価されるようになってきたことも事実です。そうである限り、自分が知っていることを相手に積極的に話す方向に向いがちです。

 ましてや、知っているのに謙虚さから知識を披瀝しないことが低い評価につながる、アメリカ的価値観が大手を振るっている社会では、聴いていることに我慢がならなくなる背景も分かります。個人の権利が極めて尊重され、保護されるべきだとの発想が根底にあり、謙虚さを持って聴き、質問をする発想と行動が乏しくなっている社会構造があるのも分かります。

 

何が長い目で得か

 しかし、考えてみれば、そのような社会だからこそいろいろな潜在的な問題を抱えていると、私は思います。個人にストレスが溜まる。心の病気になる人が多くなる。結果として、組織にストレスが溜まり、生産性が落ちる。誰も得をしていません。

 それより、良好な人間関係を築いて、その中で一緒に解決策を見つけようと発想する風土や文化の方が、より健全な社会を築くことにつながるのではないでしょうか。

 問いかけ質問をする。このことは、相手の言うことに耳を傾けている証拠です。相手側に話の主導権があることを認めていることになり、同じ目線で会話がスムーズに出来、良い人間関係も作れることになるのです。

 

聴く習慣

 この例は、会社の中、家庭の中、どこでも発生しているはずです。冷静に考えてみれば、どちらの方が長い目で見ればよかったのかは自明なはず。

 どこかの大統領候補が、相手国の主張や過去の経緯を聞く前に、持論をまず主張し続ける。これに相手国が反応し、即反論する。外交関係がぎくしゃくする。誰も得をしていない関係をどう見るのでしょうか。

 聴くこと、その後に本質的なことを婉曲的に質問する。このことは、我々日本人の誇るべき資質のはずです。なんでも主張し続ける文化を良しとするような最近の社会風潮に、我々から警鐘を鳴らしたいものです。

 対話(ダイアログ)とはそもそも聴いて、質問することから成り立つものだと考えているからです。このことを、冒頭の経営者にいつか示唆してあげたいと考えています

 

第201回 話し方の教室

Posted on 2016-05-05

 先般、興味深いことがありました。

 以前私が経営を任されていた会社の幹部社員が、退職の挨拶にきた時の話です。長く営業をやっており実績を挙げてきた彼が、同業種の管理職や営業職でなく、今後ボイストレーニングの修業をして出来れば将来独立をしたい動機を話してくれました。

 会社の経営上はデジタル面アナログ面の両者を充実しないと上手くいかないことが多いが、その中でも「最後の決め手はアナログ面だ」と、過去に私が強調していたことを彼が鮮明に記憶しており、それがきっかけでこれからをアナログ面の仕事に賭けたいとのことでした。

 私も、この元部下の選択にもろ手を挙げて賛成し、併せて、そのようなきっかけをつくったことに嬉しくもなりました。医者、弁護士、ビジネスマン等顧客を相手にする仕事では、自信に満ちた話し方が重要で、その訓練の需要が多くなるとの彼の説明です。

 そういう私自身のことを思い起こしてみると、ボイストレーニングというより話し方自体についても正式な訓練は受けてはいません。

 顧客対応の改善のためにいろいろな本からも少しは学びました。しかし、大部分は仕事の過程で逆に部下から教えていただきました。経営戦略や経営方針が少しでも早く部下に浸透するにはどうしたら良いか、部下の反応を見ながら学び、自分で工夫する中かから習得したことになります。その一部を今回述べさせていただきます。

 

1.最初の30秒で勝負が決まる。

 話は出だしの30秒で勝負が決まります。

 顧客対応の商売をして気づいたのは、クレームになりやすい応対は最初の出だしが上手くいっていないからです。受け側と相手の話がかみ合わない。

 話す側が会話を主導出来る場合には、良い出だしに気を付けることが肝要です。一つか二つの短い文で、言いたいこと、その切り札を素早く切る工夫をすることです。長い文は相手に響きにくいからです。

 出来れば、その文が聞く側の好奇心をそそるハラハラさせるようなものが最初に欲しい。「今まで聞いたことがない!」と思わせるような文を出だしに持ってくれば、話の入り口はまず上手くいくはずです。上記のようなトラブルになる確率はうんと減ります。

 

2.信念をもって「気」を入れて話す。

 実は、これが一番大切なことです。話し方の技法以前に、信念をもって伝えることです。事業戦略を社員に説き、彼らに共感をもってもらうためにいろいろな工夫をしましたが、結局このことの大事さを痛感しました。

 物の本などから仕入れた情報を戦略に焼き直しても、本心で自分が思っていない場合、「気」が入らない話し方になってしまう。美辞麗句が無くても本心で思っていることに信念をもって「気」をいれて説くことの重要性を体験しました。

 特に、「ある意味・・・」や「・・・と思います」等丁寧だが自信がなさそうな言い回しは、このような場合には止める方が良いことにも気づきました。

 自信たっぷりで、この情報は皆にとって、また、会社の発展のために価値があることだとの熱い思いがほとばしり出るような話し方こそ、相手の心に響きます。

 

3.話の内容を少しずつ濃くすること。

 実はこれも戦略や方針を浸透させる過程で気づいたことです。

 一度話しても簡単には浸透をしない。同じことを何度も煮詰めるごとく話す。

 このために10%新しい視点での話を挿入して、内容を煮詰める努力をしました。そのたびに話す内容の風味が強くなる感じが相手に伝わっていくのが、話す自分自身でも分かります。

 前回話した内容を、さらに練り上げて違う角度から話し込む。最初は少し懐疑的に聴いていた社員も内容が腹の底に落ちてくる瞬間がどこかで来る。話す私がその時を感覚的に分かるのは、私にとって最高の幸せ感を抱く時でした。

 

4.テーマをてんこ盛りにしないこと。

 話すテーマは絞ることです。

 話す側は沢山の情報を提供したい思いがある。これをやると話が早口で、内容が薄くなりがちで、むしろ意図とは逆になります。

 そこを我慢すること。主たる話題はせいぜい2くらいに絞る。一般的な話の受け手側にとって脳の片隅に印象に残せるのは、せいぜい2点くらいです。

 

5.自分事としてイメージできるエピソードを話の中で工夫すること。

 伝えたいメッセージをエピソードの形にすると、意外に浸透しやすい。

 聴く人が自分事に思えるように仕立てる。想像力が豊かに巡らせるエピソードを入れ込む工夫が効果的です。優れた小説などは、この手法を上手く使っているのではないかと推察します。

鴨長明の「方丈記」など、個人的には想像力が豊かになる秀例だと思います。

 古の京都の町で大火災が起きた状況などを、ルポルタージュ的に文章で表現している下りがありますが、読む人がその火災の凄まじさと世のはかなさを、あたかも自分事として捉えられる工夫が施してあるのではないかと思わせるストーリー仕立てになっています。相手の想像力をかりたてる工夫が仕掛けてあるのではないかと思うほどです。

 

6.計画的にスピードを遅らせること。

 早口は聞き手を眠くしてしまう。失言の可能性もあります。重要な場面では話すペースを落とす。

 これも沢山の人が集まる社内研修の場などでやりました。話す側は眠くならない。しかし、聞く方は、自分の興味をそそらない部分が長々続くと、つい眠くなるのが当たり前です。

 ここで故意に、話すペースを乱す。車の運転で急に速度を変えると隣の助手席の人の目が覚めるのに似ています。

 話すスピードの緩急は、話す側がコントロールできる部分です。始めから計画してこれを演出することです。

 

7.上手く話題を変えること。

 また、話題を上手く変えるのも工夫の一つです。

 これには一定の訓練が必要です。

 経営をしていると沢山の情報が入ります。その中から重要と思える情報以外は、個人的には捨てる工夫をしていました。捨てた情報を基に議論が進展する場合も出てきます。しかしそれは経営上重要ではないので、相手のメンツを潰さずにいかに話題を早く本論に戻すかの工夫の一環でこれをやりました。

 重要でない話題などでは、さりげなく話題を変えて、会議での会話の主導権を自分が握る工夫です。

 

8.話すより聴くこと。

 双方の会話では、聴くことこそが重要です。

 相手への関心を示すことは、まず聴くことから始まります。この重要性を皆分かっていても、意外に出来ていないリーダーを見ることが多いです。これについては、別途日を改めて述べさせて頂きます。

 

 連休も後半となりました。是非、楽しんでください。