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自由

第155回 ミドルが会社を変える起爆剤

Posted on 2015-05-14

 先週および先々週は、会社の発展状況に応じた経営手法について述べました。

 今週は、その経営を引っ張っていくミドル層について述べます。この層に、自己の置かれた立場を再認識していただき、更に奮起を促したいと思います。

 私は、これまでの経営体験を通じて「農耕型企業風土」づくりを提案しています。この風土を培った日本企業こそが、これまで中・長期的な成長と発展を遂げてきました。今後もその傾向がつづくと考えます。

 しかも、この企業風土こそが我々日本人に一番馴染む企業文化だと考えています。にもかかわらず、国際標準の名の下に日本企業の良い所をないがしろにして、短期的利益追求のみに邁進している一部の企業を見るに残念です。あたかも、特定の風土・風習を持った民族に対して、覇権を目指す特定の国が他国の啓蒙と合理主義の名の下に侵略して、結局失敗した政治の世界のアナロジーと見て、他山の石とすべきです。その部分の詳細については、『これからの課長に仕事』などに譲ります。

 この企業風土を背景とした会社では、社長の仕事は別として、課長、いわゆるミドルの仕事が重要な決定要因となります。ミドルが会社変革の一番良いポジションにいると考えています。成長している日本の伝統的な企業では、この層こそが会社を引っ張っている存在です。

 

経営の要

 過去に私が経営を託されていた時、トップの私は、会社のビジョンと将来像、さらに中期戦略を明確に示すことを、自分の主要な仕事にしていました。そして、その実現に向かって全社員のベクトルを合わせていく努力をしていました。

 他方、現場の第一線で働くフロントの社員は、顧客の要望に応えて日々の業務を全うする責任があります。

 この両者をつなぐ必要があります。トップと第一線たるフロントを蝶番でつなぎ、実質的に会社を動かしていたのが、実はミドル層でした。この層を当時マネージャーと読んでいましたが、1千数百億円のサービス売上を上げるために数百人のマネージャーがいたと記憶しています。このマネージャー層が会社を切り盛りする力となっていたのです。

 

何故、変革のキーか? 

何故、彼らが会社を動かす、変えるキーとなったのかを考えてみました。

 組織の中での彼らの立場が重要でした。私は彼らに多くの権限を付与する組織運営方法を取っていました。業務の執行にあたり、彼らの判断に委ねる部分を意識的に多くし、顧客の要望に対して、マネージャー諸氏があたかも商店主のように臨機応変にマネジメント行動を起こせるようにしていました。

彼らは、

1.文字通りトップとフロントの中間の自由な位置にいます。

 トップの指示は一般的に抽象的です。その指示に対して、その内容を本人の言葉で現場に噛み砕いて落とし込み、トップの方向性を意識しながら何かを実現出来る大きな自由度があります。単に、物理的なことではなく、自分が実現したいことを、自分の言葉で部下に指示できる非常に自由な立場にあることです。

 私の例では、数百人のマネージャーが、この立場で現場の采配を振るっていたことになります。

2.現場の情報に一番近いマネジメントの立場にあります。

 解決が現実的です。根本的な原因は、日常のマネジメントを通じて皆察しがついています。しかし、これを根本的に改革できる立場にあるのは、本来は本社などの権限を持った部門です。ところがそれらの部門に迅速に対応してくれることを期待しても、それがなかなか実現しないのが実態です。しかし、顧客は待てません。

 そこで本社の分析のデータを待つまでもなく、すでに察しがついているので、現場で可能な範囲で現実的な対応をとれます。ミドルはそれを指示出来る立場にいます。

3.実質的に動員できる部下が多数います。

 何かを成し遂げるには、本人をサポートする一定量の人員が必要となります。逆に、一定量の人員の動員なくして大きなことはなかなかできません。

 マネージャーが何かの変革をすべくある方向に動かしたい時、一定量の部下を一番大きな力で動かせるのは、組織の機構の中でもミドル層です。部長や役員の立場になって考えてみると、このことが良く分かると思います。

4.社内の政治力を発揮できる立場にいます。

 ミドル自体が、日常的に他の部門のミドルと公式、非公式に情報交換をしているのが一般的な日本の会社です。案件が発生すると、公式には「課長クラスでまず詰めてくれない?」と、この部門の会合に案件が託されることが多いです。非公式には、夜の飲み会に「今日は、部長を呼ばないで、我々課長クラスだけで飲み、例の案件を詰めようよ」と、なります。やり方如何で、彼らの力は組織の枠を超えて発揮できることになるので、社内変革の起爆剤的存在になるのです。

 私の経験でも、部門や会社全体の経営に対して、この層の政治力を敏感に肌で感じていました。トップとしてその力を良い方に利用することで、会社の成長スピードを更に上げることになりました。

5.他部門のミドルとの交流を通じて、他の部門の知恵を拝借出来ることになります。

 ある知識や知恵が何かの命令や指示で社内に拡散するよりも、はるかにスピ-ド感を持って、しかも実のある拡散の仕方をしていくことを経験しています。「暗黙知」的なものも、違う部門のマネージャーを通じて会社全体にスピード感を持って拡散できる機会が多くありました。

 

DNAを引き継ぐ

 以上のことを述べた背景は、彼らの存在なくして、日本の企業の成長や変革は難しいのでは、と思うことが多くあるからです。

 一部の外国かぶれの経営者が、短期的な利益を計上するために合理化と称してミドル層を削減し、結果として失敗する悪い例をみることがあります。また、すべてをトップの指示に従わせ、ミドル層の自由な発想を止めることで、ミドルが不活性化し、結果として経営に失敗する例も見ます。結局、ミドルの存在意義を過小評価したことで、その企業の変革が大きく遅れてしまうのを見るにつけ、日本の企業が持ち合わせているDNAを、我々はもっと大事にすべきだと、常に思います。