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折々の言葉

第273回 新しい通貨と既存の基軸通貨

Posted on 2018-02-22

 最近、或る仮想通貨取引所からカネ(仮想通貨)が不正に流出したと報じられて、大きな問題になっています。

 株式が発行されその流通や取引の便益として証券取引所が開設されるのと同様に、ビットコインに代表される仮想通貨が発行されると、そのコイン自体の取引の便益のために取引所が開設されるのは当然のことです。

 冒頭の事件は取引所の問題で、その管理がずさんなために取引所から通貨が盗まれた(銀行強盗に入られた)ことで、本来ビットコインの持つ特性とは違う次元の話です。

 

 そこで今回は、デジタル通貨の代表格であるビットコインについて、この本質について述べます。

 昨年、神戸の小麦粉製粉、食品加工業の株式会社三輪の苦瓜裕一郎社長が食事会での説明時に使われた資料も、本コラムの参考にさせていただきました。この分野やデータマイニングに非常に詳しい社長です。氏が作成された資料の利用に関してこの場をお借りして御礼申し上げます。

 

ビットコインの意義

 中央管理者がいない「非中央化(Decentralization)」の世界で成り立っている仕組みで、金融分野でも管理者がいなくて動く仕組みであること、あえて言えば、ネットワークの参加者全員が仕組みを管理していると言える全く新しい概念を通貨の世界に持ち込んだ、ある種の社会革命であると、苦瓜氏はビットコインの意義を資料の中で述べています。

 私自身もビットコインのことを最初にニュースで知った時、青天の霹靂の驚きでした。地域でのみ流通する貨幣は別として、通貨の発行と管理はこれまで中央銀行や国家しかできませんでした。ところが、ビットコインが出てきたのです。

 通貨の発行と管理を牛耳る権力へのある種の挑戦です。通貨の発行権を政府から奪うものになるからです。また、君臨してきたドル基軸体制への挑戦でもあります。

 学生時代に学んだこととは全く真逆のことが現実に起きています。

 全員が管理者であると言われるビットコインの仕組みの根幹は、後述の「ブロックチェーン」と呼ばれる取引の記録で、このすべてが公開されるのが特色です。改ざんが出来ないか、出来るまでのコストが膨大でそれをトライする意味がないことを仕組みの中に持っています。全く新しい概念です。

 

決済方式

 ビットコインはデジタル通貨です。AI時代のコンピュータが作り出したもので、これまでの通貨と異なり、銀行を介さず送金でき、送金の信号は全て暗号化されて犯罪者が入り込む余地がないことや送金コストの安さから、貿易などの決済通貨として商取引に一大革命を引き起こすと予想する人が多いです。

 「ウォレット(Wallet)」と呼ばれる財布をパソコンやスマホにつくることから出発します。

 ビットコインのソフトを使ってダウンロードしたものを「ウォレット」と呼び、ここから送金受け渡しをする。送金の信号は全て暗号化され、一つひとつに電子認証が組み込まれていく。相手はそのまま受け取る。したがって、この取引間に犯罪者が入り込む理論的余地がないものです。

 

秘匿性

 苦瓜氏曰く。「取引所で(法定通貨に)現金化すれば所持者は分かるが、ビットコイン同士での送金などの決済をした場合は、政府をはじめ第三者が詳細を掴むことはできない。

 ビットコインはソフトウェアそのもので、口座番号に相当するアドレスは乱数であるため、決済のたびに基本的には変わる。ビットコインには個人を表すデータはなく、ビットコインアドレスも現実に個人と結びつけられているわけではない。

 但し、過去の取引記録や利用するウォレットや取引所、IPアドレスなどのデータから、個人や組織が推量特定されてしまう可能性は否定できない。」と。

 このようにビットコインは、仕組み自体が秘匿性の極めて高いソフトウェアです。

 

これまでの通貨との違い

 円など政府が発行する通貨を、「フィアット・カレンシー」と呼びます。中央銀行が発行した法定通貨、ドルや円のことで、フィアットの意味は金や銀に兌換できない「不換紙幣」のことです。

 対するビットコインのようなデジタル仮想通貨を欧米などでは「クリプト・カレンシー」と呼びます。クリプトとは「暗号」のことを言います。

 この言葉の意味からしても、ビットコインは全く違う概念の通貨であることがお分かりになると思います。

 簡単に言えば、前者が国家の意図や国策、戦争などの影響を受けるが、後者はその影響を受けない通貨です。

 

クリプト・カレンシーの先駆

 クリプト・カレンシーの先駆は東アフリカのケニア共和国で生まれた「エムペサ(M-PESA)」と言われています。調べてみると、PESAとはスワヒリ語で「お金」のことです。2007年に開発された、携帯電話で送金、出金、支払いまでできるモバイル・マネーサービスで公共料金や教育費の支払い、給料の受け取りまで賄っているとのことです。

 銀行が不要であるので、どこにいてもM-PESAを通じて金を受け取ることができます。

 銀行口座を持たない人から急速に普及し、相手の口座番号を知らなくても送金できるサービスで、現在、ケニアでは人口の約6割強が利用するほか、南アフリカやインドにも利用者が多いという発展ぶりです。

 

ブロックチェーン 

 このM-PESAと違い、ビットコインは「ブロックチェーン」という技術・方式を使っているのが特徴です。

 即ち、その方式は、苦瓜氏によれば

・対になる二つのカギを利用してデータの暗号化、複号を行う暗号方式を使う。

・暗号化に使うカギは他人に公開する「公開鍵」、復号に使うカギは自分しか知らない「秘密鍵」で、それが セットになっている。

・データの送受信の時、送信者は受信者が公開している公開鍵を使いデータの暗号化をおこなう。

・暗号化されたデータは受信者へ送信され、受信者は自分のみが持つ秘密鍵を使いデータを復号する。

・データを復号できるのは受信者のみであるので、第三者にデータを盗まれても復号されない。

・公開鍵は他人に教えても問題ない。秘密鍵は自分以外には分からないようにする必要がある。

・自分しか知らない秘密鍵を使って署名を行うことで、送金者が正しいことを証明する。

・ビットコインはなりすましやデータの改ざんなどの不正行為を防ぐための優れた仕組みを持っているため、秘密鍵の保管を適切に行うことができれば、紛失、盗難、不正資料などの心配はない。

これまでの基軸通貨は通貨という物理的なものを基礎にしていますが、ビットコインは「公開鍵」と「秘密鍵」をセットにした暗号、復号技術を介したソフトウェアそのものなのです。

 

今後の発展性

 ビットコインは世界各地でひろまっていると言われています。熱心な国の一つがスイスです。この国の中部、ツーク市では住民登録料の支払いがビットコインでできるようになり、また、キアッソ市では納税もビットコインでできるとのことです。但し、住民に賛成派、反対派が入交リ、これを世界的に広めることができるかについては紆余曲折ありそうです。

 私の一世代前は、戦後、お金の価値が突然ほとんどなくなった体験をしています。1946年に、政府がそれまで発行していた通貨を一定限度を超えると無効として、新円を発行しました。こうして国民の財産を巻き上げたことがあります。戦争などの契機で各国の政府がやる手段です。

 これに対して、ビットコインは人々が自衛のために編み出した通貨であるとも考えられます。資産としての価値があるかについてはいろいろ議論があると思いますが、私が自分のパソコンでウォレットを動かした仮想通貨は、絶対に誰もこれを複製できず、私のモノであることは間違いありません。政府も誰も介入できないのは、「ブロックチェーン」たる台帳に記録していく暗号技術に大きく依存しています。

 これまで通貨の供給量は国が管理してきました。しかし、考えてみるとそれでも金融政策が上手くいかないことが多い。ビットコインでは、管理する発想がないため、仮想通貨の供給量に対する需要の大きな変動を危惧する人も多いのが事実です。通貨というより資産として投機的対象になってしまうということです。

 しかし、現実に今の基軸通貨も投機的対象と考えているファンドなどの投資家が多数いるのも事実ですので、この批判も如何なものかとも思います。

 2008年に創設されたビットコインの発行数は現在2100万BTC枚と言われています。いろいろな議論と体験を通じて、今後、この技術の発展により、ビットコインの利用が拡大していくと、既存の基軸通貨の管理代理人たる銀行が大きな影響を受け、一部つぶれる可能性がでてきます。さらに、「ブロックチェーン」の仕組みに基づく新しい基軸通貨としての地位を築く素地を持っていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

 

 

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