価値
第279回 価値の評価とリスク
経営者ならずとも、我々は毎日、人生でいろいろの判断を下しています。この判断は、事象に対して、なんらかの価値の評価をしていることになります。だとすると、判断にするに当たっては、できる限り本当の価値を基に適切な評価したいと思うのは私だけでしょうか。
企業の経営においていろいろな事業候補群のどれを選択するか、これも評価の範疇にはいります。特に、新規事業の成否は戦略判断に関係しますが、そこにおいてそれぞれの戦略オプションの評価がベースとなります。ある意味で「値打ち」を正しく評価する、見抜く力です。
評価の基準と価値
問題はこの評価の基準です。
いろいろな評価基準があり、単純ではありません。
我々が買い物などで商品を購入する場合は、評価の大切な基準として価格を選択しているのではないでしょうか?
ところが真面目に考えてみると、これは本当に適切な方法か疑問です。価格は売る側の事情で付けたもの、売る側の原価や競合各社の値段などを参考にしてつけたもので、購入する人にとっての価値とは直接関係ないこともありうるからです。
購入商品の値付けに、価値という考え方が明確な比較基準として織り込まれていない、若しくは、不足している考え方です。選択肢の評価基準の中で、価値に重点を置いた位置付けも考慮すべきではないかと思います。
評価の方法
次に問題となるのは、価値の評価の方法です。
企業の内部でよく議論になるところです。
価値の評価方法として、原価からアプローチする方法や取引事例比較による方法があります。価格に価値が表現されている前提です。
原価ベースの方法は、原価を算出し、一定のマージン率を加算して価格とする方法です。この方法のメリットは、もしその通りの値付けが通れば一定の利益を企業として確保できることです。しかし、競争要因が働く場合は、その限りではありません。
一方、取引事例比較のやり方は、競合に対して勝つことはできても、自社の一定の利益の確保は概念上、担保されない欠点を持っています。
会社内で、この二つの議論が行われて営業部門と他の部門でもめることがよくあります。先述の通り、これらはあくまで価格と価格の比較です。しかし、価値を前面にして考えると、価値の源泉は、人間や機械のコストも大事な因子だが、目に見えないもの、顧客がベネフィットを感じるものも考慮しなければならないのではないということになります。
そこで、もう一つの評価方法は、顧客にとって役立つことを評価する方法です。「役立つこと」とは、「価格意外のモノ」も加味して表現されることもあります。
ビジネスのプロセスから顧客が得るメリット、ブランド、優れた人材による対応、集客力、雰囲気などなどが顧客にいかに評価されるかなど、目に見えないモノも含めた総体です。蛇足ですが、アンケート調査などを行う本来の趣旨は、顧客が自社の何を評価しているかを知ること、それを価値に引き直す作業に活かすためです。
ここでいろいろな価値をお金に換算しなおす作業が必要となります。この価値を生み出すお金の総量で決めることになります。利益が増えてもキャッシュフローが増えないと、会社の価値は増えない。値引きで直近の売り上げがたっても将来のキャッシュフローを見ると大きくならない場合、この判断は間違いとなります。
このアプローチは将来の稼ぎも現時点に割り戻して計算しますので、金利がポイントです。
金利とはリスクへの見返りです。投資判断の計算では内部収益率(IRR)に相当します。
ここで評価とリスクとの関係が出てきます。
リスク
どの判断方法をとるにしても、リスクを伴います。
ここでいうリスクとは、危険のことではありません。金利はリスクへの見返りですが、一般の議論で勘違いがあります。事象の変動が不確実なことをリスクといいます。
危険が起こる可能性を指しているわけではないことです。この可能性に対して最大限事前に防止策をとっても、前提の事象が変動するかわからないことを言います。したがって、望ましいリスク(アップサイド)や望ましくないリスク(ダウンサイド)もあることを勘案して選択しなければなりません。経営戦略上の投資評価でアップサイドとダウンサイドを必ず吟味するのはこのためです。
参考になりましたでしょうか。
第276回 私が考えるリーダーの仕事の仕方
会社に優秀な人が沢山いても、生産性は結構低いのをよく見かけます。
何故か?仕事の仕方を軽んじているからです。リーダー層に私が強調したい仕事の仕方を、以下に悪い例を挙げて浮き彫りにします。
1.リーダーに「考える」習慣が少なく、仕事を捌く姿勢が見られる
「考える」習慣が衰え、目の前の課題に対して「如何に早く捌くか」に忙殺されてしまう傾向が強くなる。
その結果、毎日遅くまで残業し、大量の仕事をこなす人が優秀とされたり、結論が早く、自分が決めた方向にぐいぐいと部下を引っ張っていく人が評価される傾向が強くなります。
加えて、何か不具合が起きても、根源のところを議論するよりも、とりあえず早く丸く収める調整力のある人が評価されることになります。
結果として、新たな価値を生むことにリーダーの考えが至らなくなってしまいます。
その仕事の意味や、仕事を通じてどんな価値を目指すかなど課題の本質まで考え抜く習慣がなくなってしまう。そうなると、ますます「考える力」が弱くなる悪循環が日常的に発生し、「はい、わかりました」と言われる通りの行動をする人間が多数派になってしまいます。
そうなると、企業風土として、新規性、革新という言葉があったとしても、実態を伴わない上滑りのモノとして形骸化してしまう傾向が強くなります。
2.リーダーが、先入観ですぐに結論を出す姿勢が見られる
過去の成功体験ですぐ安易に結論を出してしまう癖がついてしまう。
このやり方だと、環境が変化している場合などには間違った結論になるかもしれない。また、部下との意見の交換を怠ることになり部下と一緒に答えをつくらないので、リーダーが結果責任のみを部下に押し付ける傾向がでてきて、組織のモラールを著しく下げてしまいかねない。
今度もこの方法で行くことが正解であるかの議論が組織の中に蔓延ってしまう傾向が見られます。
本来は、部下とのコミュニケーションを大事にし、答えを押し付けるのではなく、一緒に考える習慣をつけるべきです。しかも、事実やデータに基づいた結論を出すべきです。
3.リーダーが自部門のみのエキスパートになりやすい
一つの部門に長くいすぎると、会社全体や他の部門の利益に無関心となりやすい。視野を広くして自分のミッションを再定義し、新たな視点で物事を見る癖がなくなってしまう。
自部門のみのエキスパートのみになると、かえって組織が不活発になりやすい。
従って、リーダーにも異部門へのローテーションが必要です。専門家になる以前に、いろいろな部門を経験して、全社的視点で物事を見られる人材に育てていく方が、会社全体としてもはるかに有益です。
4.リーダーが調整力のみが巧みな人になりやすい
関係部署との無用な摩擦を回避することに努力をする人が多くなる。これでは問題の隠蔽や先送りにつながる可能性を秘めている。いずれ不正や不祥事となって現れる。
リーダーはきちっと事実にぶつかる力を身につけなければならない。革新的なことにも挑戦して、全社として目指すものを実現させる先兵となるくらいの気概を持たなければならない。
勿論、多くの人と意見を出し合い、議論して解決策を導き出す必要があるが、単に調整力のみに巧みな人材層だけでは、その会社の先行きが心配になります。
以上、リーダーとしての仕事の仕方で真似をしたくない例を4点あげました。ご参考まで。
第229回 事業の優位性を取り戻す
今苦戦している企業はどうするか。過去実績を出していた頃の優位性を取り戻すには、これまでの考え方を捨てて、自社が抱えている課題をあぶりだし、これを解決しなければなりません。
残念ながらそのような企業は、以下のような課題を抱えているのではないでしょうか。
1.自社の商品や事業価値を顧客に明確に示せていない
自社の「売り」たるノウハウが社内で整理不十分か明文化されていないので、商品や事業の価値を明確に顧客に示せていない。商品や事業の特色がだせていないのではないでしょうか。
顧客からすれば、その商品と他の会社の商品との差異をほとんど感じておらず、この会社も全体の中の一つくらいの位置づけにしか映らない場合が多いです。
2.マーケットの変化を統合的に把握する情報収集力に弱くなっている
今マーケットの中での自社が置かれている現状と、顧客の支持を得ていない事業のリスクの全体像をまとめて把握しきれていない。そのリスクを早期に解消、もしくは、分散する役割を果たす情報収集力が弱まっているはずです。情報を収集しているつもりになっているのではないでしょうか。
会社が小規模な場合は、この役目を社長が担っていることが多いのですが、事業の拡大に伴い情報を統合的に把握してリスク管理をする機能が組織として衰えていると思います。
従って、競合の進出に対しても感度が鈍って、対応が後手になってしまいます。
3.自前主義の事業展開に固執している
自社の技術や製品の性能に自信があると、どうしてもそこにのみ目が行きやすく、顧客を忘れがちになってしまっています。
すなわち、顧客にとっての価値は何かに気づけば、それを自社の力のみでは機動的に充実できず、他の会社との協力関係(パートナーシップ)を築く必要性が分かるはずですが、これをしない。
マーケットは、その製品の性能のみならず、その製品の保守、運用サービスなどの全体を評価する傾向にあります。そのサービスを機動的に充実するためには、他社との協力関係やアライアンスを築く必要があるにも拘わらず、それに気づくのが遅く、結果として、顧客の支持を逃してしまっているはずです。
4.リスクの回避、もしくは、分散する戦略修正や重要な意思決定のスピードが遅い
マーケットの変化に対する感度が鈍くなっていると、戦略の修正などの意思決定が当然遅くなってしまいます。
俊敏性が劣っている。しかも、それに気づいた時には、競合にマーケットを食われている。そうならないためにも、「まずやってみろ」という企業風土が必要です。
やりたい人に、集団を形成してもらいやってもらう、組織も垂直型でなく、ネットワーク型でその案件に適した人がリーダーになる。皆、平等で革新に邁進する部隊がどこにも見当たらない状況にあるのではないでしょうか。
5.人材の育成が遅れている
差異化を図る担当者、情報を分析して作戦展開に活かす担当者、世の中の広い知識やノウハウと協力する幅広い人脈を築く担当者、戦略策定の担当者、意思決定を速やかにできる組織の運営担当者などの人材がいそうで意外にいない。育成されていないからです。
特に、ミドルの人材が育成されておらず、トップと現場の担当者のみで会社が回っている。不安定で複雑な環境の変化に対する俊敏な対応の警鐘を鳴らし、機動的に行動に移せる人材が育成されていないのです。
6.マーケットの不安定さ、複雑さが常態化している今の環境下での対応
まず、顧客価値を本気で訴求し、自社の製品やサービスと市場ニーズを速やかに結びつける対策を練ることです。
これが絵に描いた餅にならないように、製品が工場から出て、消費者が手に取るまでのシーンを再度描きなおしてみる、顧客がどこに価値を感じているのかを明確にして、それに対応する商品・製品仕立てに修正する。不足資源はパートナーの力を借りてでも早期に対応する。
この場合、製品のハードのみならず保守サービスなどのソフトもまとめた顧客価値を洗いざらい追求しなおすことになります。
他社との比較もでき、収益獲得のビジネスモデルの修正を速やかに構築する力が試されることになります。製品の魅力を単品で出すのでなく、保守サービスなどの運用技術など、他の切り口との組み合わせた事業開発や展開を試みては如何でしょう。
次に、自社が目指すターゲット市場の近場で研究開発投資を旺盛にして、市場を自ら創造していく戦略展開を試みる。
顧客が望んでいる便益(ベネフィット)と自社の商品価値がどう関係しているかを明確化することから始めることになりますが、情報の収集力、自前主義からの脱却、意思決定のスピードアップなどこれまでの課題に挑む企業風土改革につながります。
さらに、組織の敏捷性、機動力を高める努力をすることです。
意思決定権を分散し、例えば、仕入れ権限を本社レベルでなく現場のリーダーに発注権をあたえるなどです。
どこの会社でも創業時には持っていた、並外れた敏捷性、柔軟性、創造性を取り戻すことです。実践や行動を重視し、「まずやってみろ」という基本スタンスで新しいことに挑戦させる組織にすることです。
時間軸を短期で遂行する部隊と、長い時間で収益を上げるモデルを構築する人材に分けるとすれば、後者の育成することが肝心です。
日時の収益のみでなく、ある程度中期的なスパンでの収益の源泉に手を打つ人材の育成と、彼らが思い切って革新的なことに挑戦できる環境作りが急務となります。
このためには、既存の階層的組織の枠を超えたネットワーク形成型の組織の方が大きい効果を出せると考えます。
情報の価値を重んじ、俊敏に動ける体制の強化を図ることです。今や「知」の時代です。シグナルを感知し、素早く適応する。「知」と情報が上手くリンクするときに事業戦略としての差が出てきて、あなたの会社も往年の優位性を取り戻せると確信しています。
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