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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

プロの経営者――リーダー

Posted on 2014-08-21

 私は、日本の経営者、リーダーに、もう少し訓練されたプロの経営者になってもらいたいと常日頃思っている一人です。規模の大小を問わず、もっとプロとしての修練を積んでもらいたいと思うのです。企業の成長の速さと社員の幸せのために、リーダーの果たす役割が本当に重要だからです。

 

リーダーの資質

 まず、リーダーには基本的な資質が必要です。

 資質の内容にはいろいろな意見があると思います。経営体験や世の中の優秀なリーダーを見ると、次のような資質が備わっていると、私は思います。

1.志と勇気(覚悟)があること 

 まず、リーダーとなる人に明確な志があり、しかも、これを実現する勇気(覚悟)が必要です。

 志には、人それぞれの育った時代や環境が反映されるかもしれません。最初から高邁な志を持っている人、経験を重ねるうちにより高い志にレベルを上げていく人と多様ですが、要は、本心で何をやりたいのかが明確に頭の中に描かれていなければなりません。

 加えて、それが単なる願望に留まるのでなく、果敢に実行する勇気というか覚悟が必要です。この勇気、覚悟も、起業の最初の頃は空元気的なものかもしれませんが、時間の経過で沢山の人を巻き込んで行くうちに、大きな勇気、覚悟に変質するものもあります。

2.公平な判断力があること 

 リーダーの仕事の大半は部下を通じて仕事をすることです。従って、結果として部下を巻き込むことになるリーダーによる沢山の判断には公平さが要求されます。100%公平さを保つのは無理としても、出来る限り私心を捨てて志を実現するために、今何をすべきかに軸足を置き、公平に判断をしなければなりません。

 リーダーの判断の公平さに一番気づいているのは、実は部下です。リーダーの判断にブレがないかを知る方法として、部下からの忌憚のない意見が自由に上層部に上がってくる環境や仕掛けを組織の中に持つことが肝心です。一時的でなく、常に判断の公平性を担保できるシステムとするためです。いわゆる下意上達が実現できる民主的な組織です。上意下達に慣れ過ぎたリーダーは、判断にあたって自分こそ常に最善の判断が出来ると自己満足に陥りやすいことになるので、特にこの点に留意が必要です。

3.理論的な説明能力を持つこと

 皆がリーダーの判断に納得するには、リーダーによる判断の理論的なバックグラウンドの説明が不可欠です。部下が納得できる説明力がリーダーの資質として不可欠です。そうしない限り、沢山の人を引っ張るリーダーになることは厳しいと考えます。

 東日本大震災時の不幸な例を引き出して申し訳ありませんが、福島の原子力発電所での爆発事故発生時の日本政府のある政治家の説明を、皆様覚えておられると思います。あれを国民が納得して聞いたか否かです。少なくとも、私は、なんでこんな誤解や混乱を招く説明をするのかと、この国のリーダーの資質に疑問を抱いた一人です。

 事故レベル4として、確か「ただちに人体に甚大な被害を及ぼす危険はありません。」と、国民に発表しましたが、何のことかさっぱり分からない。その後、事故レベルを人体に甚大な被害を及ぼす危険レベル、最高の7というに修正したのですが、修正の背景が全く分からず、我々に更に混乱を引き起こしました。

 故意にわからない説明をしたとすれば、国民の生命と財産を守るべき政府のリーダーが、国民を愚弄したとしか思えません。こんな説明しかできない政治家を、我々がリーダーとして選んだのが不幸だと言われれば、それまでですが。

 危機に瀕した緊急事態においてこそ、リーダーは納得のいく理論的な説明責任を果たさなければなりません。これが出来なければ、民間の企業なら即クビです。しかし、未だに、この時の政治のリーダーが誰も本当の意味で責任を取っていないと、私には映ります。世界中を捜しても、このようなリーダーは法治国家の中に見つからないのではないでしょうか。このような経営者にはなりたくない、なってもらいたくないものです。

4.優秀な部下を育てる環境づくりができること 

 世界で勝負できる企業が持つ企業風土に共通しているのは、自らの頭で「考える」力が社員に備わっていることです。

 戦略の具体化の専門家、ITの専門家、法律の専門家、営業の専門家などなどを使ってリーダーは仕事を具体化するわけですから、彼らを育てる、または、彼らが育つ環境を与えなければなりません。沢山の考えるエンジンをリーダーの下に持つ企業ほど、環境の変化に対しても俊敏に対応できることを、私は見てきました。このような環境では、リーダーの方向性に社員が疑問を感じた場合、「考える」部下からそれなりの修正意見が出てくるはずです。そのためにも、リーダーはHow toでなく Whyで考える専門家が沢山育つ環境を整備する資質を持つことが肝要です。

 

リーダーとしての訓練

 それでは、そのような資質も持ったリーダーをどう訓練するかです。資質には、本来、生まれながらにして持っているものと、訓練により強固になるものとがあると思いますが、先述した資質は訓練で強化できるものと、私は考えています。

 経営者はリーダーです。沢山の部下の生活にも大きな影響を及ぼすことになります。このため、リーダーには競争を通じた訓練が不可欠です。訓練の過程で、いわゆるリーダー適性の「ふるい」にかけるプロセスを経ることになります。

 ポジションは限られた数のシートしかありませんから、合格点以上であってもそのシートを得られるかどうかは分かりません。より優れた人がいれば、そのシートを得られない。過酷な競争のプロセスを経て、リーダー候補は、自己の資質を更に鍛えられことになります。そのシートにつけない場合は、チャンスを待って他のシートを狙うことになります。ただし、シートを得ても、約束の成果を果たせない場合には、沢山の眼がその経営者の能力を見極めることになります。

 欧米など海外の大手の企業には、リサーチ会社に会社のリーダー要件を提示して、彼らにリーダー候補者を捜させる企業も見られます。この場合、リサーチ会社が入ることで、結果としてリーダーに支払う報酬が高くなり過ぎる、そのリーダーが短期的に成果を上げようとして、かえってその企業の潜在的な能力やエネルギーを毀損するリスクがあることを忘れてはなりません。

 日本の経営に合致した手法は無いのでしょうか。

 いろいろな組織態様があり簡単には括れませんが、子会社を利用して訓練をさせるのは一つの方法だと考えます。ただし、単なる渡り歩き的な子会社人事は全く意味を成しません。単なる出向も真剣勝負になりません。日本的な親会社を頂点とした序列で子会社の社長人事をやり、序列を笠に着るような親会社派遣の役員の配置ももってのほかです。

 真剣にリーダー候補に訓練をさせるには、なるべく、尋常でない体験が待っている子会社を彼に任せるのが良いのではないでしょうか。修羅場の体験が一番リーダーとしての資質を開花させる訓練になるのは、私の経営体験でも証明済みです。親会社に頼らず独立自尊、艱難辛苦を自ら克服することが、リーダーとして胆力と競争条件で勝ち抜く力を貯えることになるからです。

 皆様も、ぜひプロの経営者としての修業を積まれることを勧めます。

 

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