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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第251回 戦略の策定の大前提—環境認識(5)

Posted on 2017-08-24

(2) 「人口オーナス期(人口構造の変化が経済にマイナスの効果を及ぼす時期)」に突入してきている事実を認識し、その対応が不可欠です

前回からの続きです。

 

c) 価値を創造する事業しか永く生き残れない

 それでは「人口オーナス期」の到来を戦略にどう生かせばよいでしょうか。

 人口構造の高齢化を新たな事業としてドメインを設定しなおすのも方法です。しかし、続けている事業特性からそれを狙うのが難しい場合、この時代には価値の創造で勝負するのは如何でしょう。量で稼ぐ時代ではないのかもしれません。

 米国発の有名な外食産業のM社と遊園地経営のD社の経営比較が良く例として挙げられます。両社とも日本で成長してきましたが、2000年に入る前後から作戦の差が出てきました。特に、日本が長いデフレ期に入る頃から外食産業の会社は売り上げを上げるため、低単価で顧客を増やす展開をしました。遊園地を経営する会社は、既存設備を更新し、新たなアトラクションの導入をやっていろいろな企画で顧客の魅力を増す展開をしました。

 後者の価値を売る作戦の方が、量を売るコモディティ化作戦より上手くいったという報告があります。

 人口の減少で量的な拡大は難しくなっています。自動車もそうです。量産化してきましたが、人口の減少、若者の車離れで新たな需要が期待できない状態です。完全にコモディティ化してしまい、以前よりは車の価値部分の魅力が薄くなってきたかもしれません。

 これは他山の石としたい一例です。

 人々は「価値の体験」をしたい。できれば同様な体験をその現場で一緒に共感したい。そのためにイベントや遊園地へ出かけその場の雰囲気という価値観を共有することに喜びを感じる時代です。このように価値を求める需要は沢山あると思います。これをどう実践するかが人口オーナス期の潮流ではないでしょうか。

 

d) 大・小の企業の二極分化となる。その中でしか生き残れなくなる

 大きく膨らみそうなビジネスエリアをドメインとして持つ場合は別として、人口オーナス時期には、ビジネス展開をしている大半の経営者にとっては、自社のマ-ケットは相対的に縮小すると読む人が多いかもしれません。

 特に、長年同じビジネスモデルの中で商売をされている経営者には、商売の浮き沈みを自ら体験してきたが故に、余計自社の対象とするマーケットがそのように映ると思います。

 ここで、その観察からどう作戦展開するかが問われます。

 この状況下での一般的なマーケット構図は、大と小の二極化が進みます。需要が供給を満たせない状況が続くからです。

 手段として、合併、提携の加速が見られ、結果として、二極化のパターンとなります。その機会を自社にどう有利に展開するかが戦略上問われることとなります。

 

 例えば、コールセンターの事業です。

 電話系の仕事は、マーケットが以前よりは明らかに縮小気味です。特に、費用対効果の点を考えると、電話系の方法が他の方法に代替されるのは一つの流れとなります。

しかし、IT化の技術が進めば進むほど、逆説的ですが「話す、一緒に解決する」需要は増し、事業全体としてのマーケットは、今後も一定の成長率で伸びると考えます。

 消費者にとっては、自分の意見を言う機会を増やしたい、誰かと対話して早く自分の課題を解決したい。事業者にとってもIT、特にAIによる生のデータの分析のチャンスを増やして競合より優位に立ちたい。双方の必要性があるからです。

 ただし、マーケットが伸びるとしても現存する事業者の全ての成長を賄うに必要な需要があるのかは、疑問です。

 消費者は、「話す、一緒に解決」したいとき、電話以外の違う道具の利用に違和感を持たなくなってきました。顧客自身も変わってきたのです。事業者としては、今のうちから新しいコミュニケーションの道具によって「話す、一緒に解決する」ことにシフトを図る必要性が出てきています。どの道具に特化するのか、小さくても、「専門」性を持つ戦略も選択の一つです。消費者自身が「専門性」を求めてきている今では、「総合」はキーワードではありません。

 その結果、企業も二極化を図らざるを得なくなるのではないでしょうか。

 この期には、大となるか、小として特色を生かして生き残るかの経営戦略を鮮明にし、そのための展開を早期に図ったほうが良いかもしれません。

 

e) 首都圏の一極集中化の速度が増す

 特定地域への集中化にはいろいろな見方がありますが、私は、政府が本腰を入れてこの問題に取り組まない限り、東京を中心とした圏にあらゆるものが集中すると考えます。

 経済原則上も、そのほうが効率的だからです。ITの技術により情報については距離がほとんどなくなりましたが、ITが連動する人やモノの動きには距離が影響します。

 日本の総人口は、2014年に1.26億人が2050年には0.95億人と減ります。日本全国では、空き家が増え、2030年には3家に1家、すなわち、両隣が空き家になるという発表もあるほどです。

 首都圏(8都県)も2015年をピークに人口が減少しますが、減少率では他の圏より一番少なく、この地域に人口も集中(片や高齢化が進む)して、出生以外の方法も考えないと生産人口が不足して経済が成り立たなくなりそうです。

 それでも不動産、カネ、人、ノウハウは確実に首都圏に集中してきます。集中したが、需要が無い場合どうするのでしょうか。政府や一部の企業家」は、一般的に新たな需要を人工的にでも作ろうとします。実需以外の方法でこの場を切り抜けようとすると、追ってしっぺ返しが来て経済の破滅へ向かうのは、他の国の事例で実証済みですので、この方法は長続きしません。そうなると、低い成長率で満足する国民性に変化するのではないでしょうか。過去先進国が円熟期を迎えたパターンです。この時にも特定の企業は伸びるはずです。

 この首都圏一極集中化の傾向に対して、自社のビジネスとの関係でリスクをどう捉えるか、逆にチャンスと捉え戦略にどう活かすかは結構悩ましい問題です。当面は首都圏にとどまり、その間に世界の他の地域の需要を取り込む戦略を立てるなど、中・長期的視点を必要とすることになります。

 

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