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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第252回 戦略の策定の大前提—環境認識(6)

Posted on 2017-08-31

前回からの続きです。

(3) 世界の経済をかく乱する要因が多くなる、その中でのビジネス展開には、自社のみではコントロールが難しいリスクがあるとの認識が不可欠です

 今や世界経済のかく乱要因が多様化しています。事業戦略上これらから生じるいろいろな地政学上のリスクを最大限斟酌したものに仕立て上げなければなりません。特に事業活動を行う上で、自社の力でそれがコントロールできるものか否かの判断が重要です。

 

a) リスクの根底には経済問題がある

 ヨーロッパや中東の一部で見られるイスラム教徒への差別待遇や彼らの貧困が、テロなどの原因を作っていると言われています。その一方で、最大規模のイスラム教徒を擁するインドネシアではキリスト教諸国と反目していないという事実からすると、上の主張に疑問を抱きます。

 そうだとすると欧州や中東のキリスト教とイスラム教の宗教問題の根源は何でしょうか。我々にニュースで紹介される現象の本質は、実は、経済格差ではないかと思われます。

 1968年、チェコスロバキアの民主化運動(プラハの春の推進)の際、急速な自由化を危惧したソ連や東ドイツなど当時のワルシャワ機構軍の5カ国軍が首都プラハに侵攻し戦車で踏みにじり、民主化路線がとん挫した事件が我々に鮮明に残っていますが、政治的に複雑な事情はあったとしても、これも原点は経済問題ではないかと主張する人もいます。

 ノーベル賞の受賞者が実質幽閉されるのをみるに、今の中国でも沢山の人民が地下で民主化の活動しているのではないかと憶測されます。政治を背景に経済が停滞すると国民の不満が民主化の運動につながりやすいリスクを潜在的に抱えていることになります。若干持ち直したとはいえ経済の停滞で国民の不満が蓄積、万一これが爆発すると権力の集中に努力している習近平政権も大きな潜在的リスクを抱えています。不平等尺度のジニ係数は2004年以降ずっと0.4以上が続き、2008年には0.47と世界銀行が発表しています。2010年には0.61との報告もあるほどです。0.4を超えると社会騒乱が起きる警戒ラインだとすれば、政権の維持も大変になります。

 また、ロシアもウクライナ問題からの経済制裁で経済が停滞気味で、プーチン大統領の失脚リスクもでてきていると言われるほどです。

 巨額の石油収入を各領主に分配する方法で地位の安泰を保ってきたサウジ王家は、石油開発国の供給をめぐる結束の乱れやシェールオイル等の代替エネルギーの開発などで原油価格の下落を招き、石油収入の減少から分配ができなくなり、各領主の経済的不満が爆発しかねない状態と一部で議論されており、国自体もリスクの真っただ中にいます。

 これらは現象的にはそれぞれ違う態様を示しています。しかし、根源的には経済問題、経済格差ではないでしょうか。これから来るリスクは、ビジネス戦略上、計り知れないほど大きな不安定要因です。しかも、事業経営上、自社でのコントロールが難しい部分です。

 その一つ、中国を例にとりあげます。

 

b) 成長はするが、中国などでのビジネスは大丈夫か?

 中国やインドの経済成長率が以前ほどではないにしても、まだ他の諸国と比較して相当高い水準を維持しています。国内の消費需要も旺盛です。かつて日本でも実現したように、中間層が増えて以前のような富裕層と低所得層の二重構造という図式が様変わりしつつあると言われています。貧困から脱出した層が中間層となり、消費を押し上げているパターンとみられ、この層が大きなマーケットを形成しているからです。

 また、いわゆる生産人口が2030年までは低下傾向を示さないと言われ、中国の人口構造もしばらくは人口ボーナス期で大丈夫のようです。「一帯一路」の戦略も、インドなどの周辺国との軋轢がありながらも、アジアとアフリカ、欧州を結ぶ広大な発想も一見魅力的に映ります。

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