


折々の言葉
「農耕型企業風土」に根ざした強靭な組織
私が主張する「農耕型企業風土」づくりの経営は、一旦この企業風土を作り上げると、極めて強固な組織になります。私はこのことを約20年間の経営で実証してきました。詳細は、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)に譲りますが、今回、その背景を一部述べます。
多チャンネル接点を持ち、助け合う補完機能があるから
まず、私が主張する「農耕型企業風土」に根ざした組織は、全体系が人間の心や集団の中で人間が本来あるべき姿を、仕事環境においてもできる限り実現することを基本とした経営組織です。しかも組織は多数の小さいグループで成り立つことを目指して、グループの長に相当な権限と自由度を託し、本人が一定の枠内でグループを自由にマネジメントできる組織です。
この組織はミドル・マネジメントを主軸として、多くのグループ間でお互いにチームとして支え合う、助け合うシステム体系で、ほかのグループとのチャンネル接点の入口が多数用意されていますので、どこかの小組織(グループ)に突然何らかの障害が生じたとしても、類似した経営をしている他のグループからの補助・補完により、そのグループが速やかに再生可能となります。
この補完機能が備わっていることで、全体が非常に強固な組織となります。
「リーダー任せ」の落とし穴にはまらないから
アメリカ流のマネジメントにはたくさん学ぶところがあります。
しかし、このスタイルのマネジメント経営だと、万一、経営リーダー機能が不全になった場合、全組織が多大な影響を被るというネガティブ面のリスクが大きいのではないかと考えます。日本に於いては、私の主張する「農耕型企業風土」づくりの経営のほうが企業の中・長期的な発展には適しているのではないかと確信しています。
極端な例ですが、リーダーは善で「社員はこのリーダーに従え」的な一元的発想による経営の場合、経営においてリーダーの機能に狂いがで出ると、たとえ法規制や諸制度の保護があったとしても、上述のような自主的補完機能がないために、経営上芳しからざる結果を招くことが多いのです。特に、「資本の論理」を全面に出す資本家的経営リーダーが経営者としてアサインされたときは、このリスクを大いに警戒せざるを得ません。
社員の知恵が仕組として生かされる「農耕型企業風土」のような経営組織が、先ほどのようなマネジメントには組み込まれていないからです。「農耕型企業風土」に根差した組織では現場の経験の集積が知恵の塊として存在し、これを生かす仕組があるので、万一の場合にも経営リーダー機能の一部をカバーする力があり、この点でも組織を強固にします。
効率至上の有害性が少ないから
人間が作り出すシステムで利益を追求する組織である以上、「効率」を重視するのは当然のことです。経営システムも然りです。しかし、これが行き過ぎると、経営システム全体が一部の特権的リーダー中心の単純化した仕組になりやすい、と私は考えます。
効率がキーワードであると、この言葉自体に論理的に大義名分があるので、なかなか正面を切って異を唱えるのが難しくなるからです。「効率」をキーワードにどんどん経営が単純化され、いわゆる経営の「遊び」の部分を無くしていくことこそが「良い経営」と株主からは賞讃されることになるかもしれません。
実は、ここに「落とし穴」が潜んでいます。単純であればあるほど、これが上手く作動している場合は良しとしても、何か経営のリーダーシップに狂いが生じた場合、経営システム全体が作動しなくなるリスクが大となる傾向があります。
私は経営に故意に「遊び」や「効率を阻害する」仕掛けを組みこませる努力をしました。それらの仕掛けが「人間の心」や「仕事と生きがい」の観点から本来人間という生命体が持っている自然な姿に近いものであると信じ、「遊び」や「効率を度外視した」仕掛けも併存的に組みこませていました。
組織として生きた状態、活性化した状態を永く維持するには、このことが必要不可欠なことだと約20年間の経営で学びました。
「農耕型企業風土」づくりに根差した組織について、更に詳しくお知りになりたい方は、私が書いた『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)を是非参考にしてください。
起業と環境変化の客観視(2)
前回からの続きです。
環境を客観視したうえで狙いを定めたら起業にあたり次のことをアドバイスします。
起業する人へのアドバイス
ある程度の統計や分析を終えたら、自分のインスピレーションに従うことです。
実は、これがその人がその事業に注ぐ執念の深さに関係してきます。大企業発の新規事業ならたくさんの分析資料がサポートしてくれると思いますが、一般の起業にはこのようなことは望めません。本人が「これだ!!」とインスパイヤーされたことに全精力をつぎ込むことを勧めます。
次に、インスピレーションが湧いたら、そのアイデアを、スピードを持ってまずは行に移すことです。実行してみて、上手くいかない場合には柔軟に計画を変更すればよいのです。考えていくうちに不安になることが沢山あります。「ああなったら、こうする。こうなったら、ああする」と考えているうちに、他の人に先を越されることにもなりかねません。スピードが勝負です。迅速な判断力が問われることになります。
迷う起業家の大半は、自分の置かれた逆境から、その起業のタイミングを悩みます。資金がない、マーケットが明確に見えない、一緒に立ち上げるにあたり人材が不足しているなどなど、数えたらきりがありません。しかし、これが現実です。この逆境を如何に自分に有利に持っていくかで、事業のやり方はいかようにでもなります。
資金がなければ、これを募る方法を考える。マーケットが明確に見えるような分野には大手の企業がすでに食指を伸ばしているはず。一緒の立ち上げる人は、当然企業する人の本気度を見ているので、初めから人材などいるはずもありません。このように置かれた状況を逆手に捉え、逆境を乗りきるという発想に切り替えることです。
起業環境への支援
上記のような起業ができても、海外の起業環境と聞き及ぶに、日本の起業のサポートには未だ環境が不十分だと思います。是非、国を挙げて改善策を打ち出してほしいと思います。
・新しいことへの取り組みの挑戦は、大企業の新規事業部門でもその取り組みは旺盛です。しかし、これらの挑戦の件数でみると、ほとんどは小さな組織から生まれることが多いと考えます。だとすれば、もう少しこれらの小さな組織に焦点をあてた施策や活性化策が政府や地方自治体から出てくることを望みます。
・また、特定の分野以外では規制を大幅に撤廃し、市場の原理にまかせるベンチャー的自由な活動を応援する施策を国として強力に打ち出していただきたいものです。
特定の分野の定義づけは利害関係者によって違い、かつ難しいものです。だからこそ、政府がこの国の将来像を明確に示し、そのために守るべき特定分野を提示の上、国民の議論を重ね決定し、それ以外の分野では自由な競争を促進すべく現在存在する各種規制を撤廃・緩和すべきと考えます。
・税制などの過去の失敗の反省の上に、初期投資資金の出し手が動きやすい投資環境に規制を緩和することも必要です。ベンチャー資金の供給と言いながら、その資金を本当にベンチャー的投資として起業人が使える状況なのかも真剣に考えてみるべき時期です。
・最後に、起業家自体への教育研修、特に、新しい分野への取り組みの周辺応援体制の充実も必要と考えます。
企業は、社員、顧客、株主の順にそのニーズを考えるべきだとすれば、起業家は社員が会社の一員であることに誇りを感じる経営をめざし、あらゆる機会を捉えて社員の話を聴き、最前線の社員に皆が協力し、このために良いチームワーク作りを心がけることなど、起業家に対する基本的な教育研修が不可欠です。
働きにくる社員たちは、それぞれ自分の生活をエンジョイする手段を求めてきているという意識を忘れない、彼らを会社の犠牲にしない高邁な企業マインドを教え込むことが不可欠な段階だと考えます。
バージングループのリチャード・ブランソンの言葉です。「会社は人の集まり以外の何者でもない。人材こそ財産です。」と。
起業と環境変化の客観視(1)
日本の若者にはどんどんイノベーティブなことに挑戦して欲しいと思います。起業もひとつの大きな挑戦です。
私の友人にも今起業を考えている人がいますが、挑戦するにはまず、本人の得手とする分野のノウハウ以外に、マーケット全体がどういう流れになってきているかの潮流を見極める必要があります。安倍政権が「成長戦略」を打ち出してきています。国際環境の変化に対して、国レベルでも政策において新しい取り組みが不可欠だとの認識からですが、実はこれと同様に、環境の変化に対してどのような新規の取り組みに挑戦するかで起業人の力の発揮度が大いに変わってきます。
まずこのマクロの環境変化を私なりに客観視してみます。
マクロ環境変化の客観視
1.日本が過去10年以上デフレに悩んでいる間に成長してきた国々が沢山ありますが、これらの国々、特に中国や南米の一部の国、過去の成長を謳歌していた国々の経済に、一部陰りが出だしてきたことです。
陰りに至る背景は個別の国で違いがありますが、総じていえば根本的な課題解決に向けて国家レベルでのタイムリーな政策の打ち出しが失敗したことかもしれません。中国の金融政策などはこれに属する部分かもしれません。
2.国際決済については未だドル建て、ユーロ建てが多い中で、対ドルと対ユーロの円為替相場が、2013年の春、日銀による円通貨供給増の決断と実行や、海外の景気動向の変化により、円に関係する為替相場の動きに大きな変化が出てきたこと、かつ、この潮流がひとつの流れとして定着しつつあることです。
過去には異常な円高で、貿易立国である日本の輸出産業が大きな痛手を蒙っていましたが、輸出型企業にとっては過去の状況に比較して、より有利な流れになってきました。このことが、先ほど述べた円通貨供給量の増加によって日本全体の景気の底上げに貢献してきています。
3.高付加価値の部品産業が一部日本国内で目を覚ましてきたことです。過去、主要産業とともに海外の安い労働力を求め海外移転した部品産業の一部が、その主要機能の一部を日本に戻し日本国内での事業展開を充実する傾向が出始めたことです。
そうは言っても、この10数年の間に日本国内の設備は老朽化してきています。これを新規の最新設備に更新しない限り競争力が伴いません。幸いなことに、安倍政権がかかる新規投資に対して税務上などの優遇措置を講じるという報道がなされていますので、これが実現すれば、競争力を持った部品産業の、日本国内での展開に新たな動きを見ることにつながります。
結果として、それが日本の国内需要創出につながることになります。
4.新しい商品と新しい消費者が登場しつつあります。経済理論的には当然のことですが、日本が貿易立国だとしても輸出のみでは食っていけません。国内での消費需要が増大しない限り、日本は元気になりません。iPad、iTunes、iPhoneのような新しい商品に対して、新しい企業や消費者が少しづつではありますが国内で登場しつつあり、新しい商品に対するアプリの開発、新しい利用方法の開発、それを利用する新しい消費者の登場が国内の消費需要に貢献する傾向が出てきました。
2007年から5年間で上場企業が50社未満であったのに、ここ最近、新しい名前の企業が新しい事業を株式市場に上場させる流れが出てきたことを株式市場が証明してくれています。起業マインドが少しづつ旺盛になりつつある証拠かもしれません。もちろん、中国や米国での起業の勢いよりは劣ります。しかし過去の傾向が確実に変化し新しいことへの挑戦意欲が出てきつつあります。
また、日本の社会が急速に高齢化してきていることも着目すべき事実です。この高齢化した新しい消費者の登場に対して何を提供できるかは、挑戦し甲斐のあるテーマとなってきつつあります。
5.国内で起業する人も多くなってきましたが、同時に海外で起業を目指す日本人が増えてきています。投資機会、賃金、制度上の自由度などいろいろな理由があります。
海外での起業する傾向の増加は、皮肉なことに投資機会、制度など日本国内でのそれらとの間で一部競争条件が働くことで、日本国内の諸制度の改革に向けて日本政府を動かすことにつながる望みもでてくるかもしれません。
新しいことに挑戦するにしても、どのようなところに狙いを定めればよいかです。
どういうところに狙いを定めるか
それでは、このようなマクロ環境が変化する中で新たに起業するには、どういう分野に狙いを定めれば良いのでしょうか。
私が今起業するなら次のようなことをまず考えます。
a) 「業界」と称されていないような分野や市場を狙うか、あるいは、業界を根底から揺さぶる機会を狙うことを、まず考えます。 市場がある程度飽和状態になると市場の秩序維持のために「○×業界」としてくくり、ここに協会をつくる傾向があります。飽和されていない所に新たな商機があるとすれば、「業界」と称されないところを狙うか、固定観念で固まった業界のビジネスモデルを根底から変革することを考えます。
b) その分野の収益モデルが確立されていないところを狙うことを次に考えます。 一般的に、「業界」と「収益モデル」がリンクされることが多いのですが、リンクしていなくても既存の収益モデルと違うものを持ち込みます。ここに新たな「ビジネスモデル」が生まれることになり、起業メリットが活きるからです。
c) しかも、既存のノウハウのみでなく、新たなノウハウや革新的技術開発を伴う分野を狙うことも考えます。既存のノウハウのみで戦うより、上記のa)やb)を考えればイノベーティブなオペレション、製品、商品やビジネスモデルは、新しいノウハウや技術との組み合わせにより将来展望が大きく変わるはずです。ノウハウは技術の混合から新たな切り口を見出してくれるはずです。この意味で普段からなるべく異分野の人々との接点を持ち、彼らの知恵、ノウハウ、技術との組み合わせを狙うのも大きなチャンスと考えます。
アップルが2011年発売したiPhone4S以降に使用が可能になった「Siri」と呼ばれる音声を利用したアシスト機能がありますが、9月に友人と会ったとき友人のスマホで試してみました。優れものです。「・・・を検索してください」等の指示を音声で端末に発するとSiriで実行してくます。
私の友人の一人もこの分野で会社を設立し頑張っていまが、このArtificial Intelligenceと呼ばれている技術との組み合わせがモバイル・インターネットの分野で極めて重要な分野になると思う一例です。この技術が我々の世界を変えることになるかもしれません。このように革新的な技術は世の中に沢山あると思います。それを何か他のものと融合させることで新しい分野を切り開くことになるかもしれません。
d) 既存の人材群以外の新しい人材層との組み合わせが必要な事業分野を狙うことです。ネットとリアルの融合で、違う人材群の組み合わせが発生します。これまたスマートフォンの登場がこの背景にあります。企業側は、クーポンの発行、電子決済システム、ゲーム性の組み込みなどいろいろな仕掛けで消費者を囲い込む計画を増やしてしていますが、他方それを使う消費者側は、様々なサービスを使って消費生活をエンジョイする志向を持っています。
特に、自宅でネット上で商品を閲覧し、ある程度の選択をした後、実際に店に出向いて、スマホ上で取得するクーポン等を利用して、割引で購入する層が確実に増えてきている傾向を考えると、Webを中心に発想展開している会社は、さらに顧客をファン化するためにもインターネットからリアルに顧客を誘導するOnline-to-Offline戦略を展開せざるを得なくなってきているのが現状です。ネットとリアルの融合です。
私が関係している会社でもこの傾向が出てきています。主としてネットで教育コンテンツを配信していますが、問題はネットとリアルを連動させて学習する人の時間の流れをフローとしてどのようにして全体把握し、如何に顧客に学習の楽しさを体験してもらうかの知恵が必要となっている段階です。キーワードはやはりOnline-to-Offlineです。
人を育てる-営業人材の育て方(2)
営業として必要と考える力についての前回からの続きです。
3.お客様が得をすることを事実で呈示できる力
Aランク入り、すなわち購入の最終段階になったお客様に選択の自由度を与えても、なおかつ決断に至らない場合が沢山あります。当然のことです。購入する商品やサービスが高価で、しかも、会社にとっての重要度が高ければ高いほど、お客様はこれまでの提案内容や営業マンの発言の裏付け事実を望みます。
この営業マンは、その購入をすることによりお客様が得をすることにつながるということを、事実で示さなければなりません。この場合、他社での実績や本人の納得感は何にも代えがたいものです。
「是非、xy会社にご確認ください。」と、まず第三者から実績を証明してもらうことです。「スケールを落として一度トライアルをしてみませんか?上手くいく自信がありますが、万一ダメな場合は一部の費用をご返金しますので。」などお客様の感情に訴えつつも、納得感を持ってもらいトライアル事実で自らの営業行為の正しさをお客様に呈示する力を蓄える訓練を必要とします。
4.何を売るかを考える力
昔、私が関係していた会社でのサービス商品の一つに「xxシズル」の名前を冠した海外向けのある商品を持っていました。事情により海外展開を断念せざるを得なかったので、この商品も発売を止めましましたが、この商品感覚を以後も非常に大事にしていました。
ステーキが「ジュージュー」と音を立てている状態で自分の席に出される場合がありますが、この状態を「シズル」と言います。すなわち、ステーキを出すというより、この「シズル」感を店の売りとしてお客様を魅了することを営業に伝えたいのです。 あらゆる商品にシズル感は隠されていると思います。
このシズル感を営業マンがどうお客様に提供できるのかが、営業の良し悪しに関係あると考えます。業界や業種により商品は違うとしても、その商品自体と伴に、利用にあたっての臨場感をお客様の感性に訴求させる力の有無が営業の勝負ではないでしょうか。
5.一つの事象に他のことを添える力
これも営業指導の中に入れていました。お客様から受けた注文に対して注文の範囲を超えた何かを添えてお客様に応える力です。
杓子定規に注文の範囲を絶対超えない売り方もありますが、注文商品の枠を超え、何かを添えてお客様をひきつけるのもこれまた営業の力です。
注文サービスに添えて、注文の仕様外の分析資料を添えるなど一つの例です。個人の誕生日に「おめでとう!」との声に花束を添えられるとうれしく思うのと同様です。添えるには相手側が「!!」と驚くようなものが望ましいでしょう。添えるものは、先ほどのように分析資料というものであったり、先々のことを見越した参考データであったり、お客様の置かれた状況に即して添えるものを考えたいものです。
6.声の調子に幅をもたせる力
穏やかな調子のいつもの営業トークも、何か決定的な段階では明らかに声のトーンに変化を持たせる工夫です。商品によっては、お客様はごく短期間に購入の決断をします。そのようなタイミングになったとき琴線に触れるフレーズを、声の調子を変えて発することです。
私の例ですと、大きなクレームの処理提案の時でした。お客様が困惑され一緒に何かの解決策を至急見出そうと議論している最中のこと、お客様自身からあるヒントをいただいた時のことです。「それです!それを解決のコンセプトの中心に据えて、処理スキームを至急一緒に練りましょう」と、声のトーンを普段と全く変えて説得し、お客様の決断を得た記憶があります。余り人為的ではまずいのですが、声の調子に幅を持たせ、お客様に訴える力が欲しいものです。
以上、営業人材が身につけるべき力について触れましたが、ご参考になれば幸いです。
人を育てる-営業人材の育て方(1)
私は、残念ながら営業のイロハを最初から体系的に教わったことがありません。現在営業職をされている方々も、大半は私と同様の状況かもしれません。
私自身、いろいろな経験を積み重ねて営業の極意なるものを会得したところがありますが、最初に営業の教育を体系的に受けていれば、もっとスピード感を持って会社の成長に貢献できたかもしれないと、今でも思っています。
営業こそ人材教育がきわめて重要な分野だと私は常日頃考えています。日本の経営者の中には「営業は誰にでもできる」と発想している人が多いかもしれませんが、これは完全に間違いだと思います。
営業の分野で天才的な人は別として、大半の営業マンは教育研修で成長するものだと私は考えています。また、天才的な人々も蔭では相当自己学習に努めて、営業レベルをさらに高める自己努力をしているのだと思います。
私は、CSK(現SCSK)の故大川会長からある会社の経営を託され、この会社を再建、成長・発展させていくため、企画にも専念しました。「顧客満足」、「クレーム対応の理論」や「コールセンター」の概念や、実践手法などを日本に持ちこむ努力をした一人だと自認していますが、会社の業績を上げるに当たり直面したのは、営業のパワー不足でした。
特に気になったのが営業の部下の育成方法です。調べてみると、上司の過去の自己体験でしか指導していないことがわかりました。このことに気づいてからは、営業という仕事に対して特段の力を注いでいきました。
営業のキーとなる人材には、営業同行も含めて自ら指導に当たることもありましたが、時間に制約があります。そこで営業研修の体系化を、営業実績を上げている優秀な部下に委託して作成してもらい、これを毎年レベルアップしていきました。この結果、ある時期になると、その会社の営業マンが競合会社から一目も二目も置かれ、時に、「あなたの会社の営業を一番恐れていました。」と聞き及び、私としては当然の結果だとほくそえんでいたことを記憶しています。
体系化や指導にあたって皆様のお役に立ちそうな部分をここに紹介します。営業として商売をしていくには、以下の力が必要になると考えます。
1. お客様の購入意欲がどの段階かを見極める力
営業活動を一つの流れ(フロー)とみる視点での営業を指導していました。
営業案件をお客様の興味が示した段階から、1月以内に結実しそうなAランク段階まで、A、B、C、Dランクとし、各案件の営業活動を毎月明示させていました。それによってして営業マン本人とその上司が常に状況をリマインドでき、なるべく早くAランク入りを果たし商売を完結するための必要な措置を講じるようにしていました。
個別のお客様が今どの段階にいるかを見極めて、必要な措置を必要なタイミングで講じるためです。この詳細内容は省きますが、ポイントはたくさんの営業案件を持ちながら、なかなか受注までこぎつけない営業マンの存在でした。本人にお客様の購入意欲が今どの段階にあるかを常にウォッチし、購入意欲の段階を見極めるクセが身についていないからです。
一般的に我々は、食・衣に始まって身を守るための住が満足した後、レジャーや観光旅行などに移る習慣が本能的にあります。この習慣に合わせて販売する商品をマッチさせなければならないのと同様です。
上記の場合は、営業マンという売り手の売りたい気持ちのみで、相手側の買いたい意欲度の段階を見極める力を訓練などで教えてもらわなかったのが一因です。
2.お客様に選択をしてもらう力
お客様の購入意欲が高い段階まで来た時に、先ほどの営業マンは受注を急ぐあまり顧客に迫るクセがありました。
言葉こそ厳しくはないのですが、お客様が買うか買わないかを婉曲的に聞く話し方をしているのです。相手からすると迫られている印象をもたれかねません。さらに、今買うべきと、購入を自分の都合で半ば強要するように聞こえることがありました。
非常にまずい営業のやり方です。自分が顧客の立場であれば、自分で選択したいのが一般的です。自らが合理的な判断で決断をしたことを、誰でも自分に納得させたいからです。にもかかわらず、売り手から買うことを強要されたのでは、逆に、お客様は引いてしまいます。
お客様に選択をさせるのです。「このサービスのうちのどれが気に入りましたか?」「業務の開始時期をいつからにしましょうか?来月ならセンターに無理を言って枠を取らせますが、いかがいたしましょうか?」「どのような対応方法を望まれますか?ネット系での対応も同時にしますか?」と、これまでの提案の中からお客様に選択してもらう質問を出すことです。
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