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語り継ぐ経営

第284回 忖度と責任

Posted on 2018-05-24

 忖度とは、相手の人の心情を推し量ることです。本来、事の善悪にはふれていない言葉のはずです。

 ところが最近の解釈は、一定の権力を持つ側の圧力が明示的になくても、その権力の及ぼす影響を恐れる側が自分の行動をセーブしたり、権力を持つ側に有利になるよう事を進めたりすることを言うようになってきています。

 

日本の良き伝統

 相手の気持ちや立場に配慮して日常を円満に過ごすという意味では、忖度は日本人の誇りとすべきことです。狭い土地に沢山の人口を抱え稲作農業を営んでいた日本では、水争いを無くし、コメの収穫を皆で祝い、平和な日常を送るための大事な日本的コミュニケーションの筈でした。現在もそうです。

 言葉を重視する海外、特に西欧社会との比較で、日本人は明らかにコミュニケーションのやり方に特徴があります。

 本来、コミュニケーションを上手にするには会話の前後の文脈を踏まえた対応が不可欠ですが、日本人はこの部分が非常に優れている国民であると思います。

 言語ではっきり伝えなくても、前後の文脈を踏まえて「察してくれる」国民です。

 ところが部下を観ていると、最近の若い世代ではこれが少し変わってきていると感じます。

 デジタル機器の利用で、察することが不得手になってしまったように感じます。学校での先生と生徒の関係性がフラットに変容し、生徒が察する必要性が少なくなってきたことも関係していると思われます。

また、最近政治の世界で、時の権力者に有利に物事を運ぶための道具として忖度という言葉が脚光を浴び、この言葉が悪者扱いされてから一層、本来の良き伝統的風土を著わす言葉が違う方向に解釈されるようになってきたのは実に残念です。

 

上司が留意すべきこと

 そこで、あらぬ方向に物事が進まないよう、上司の我々がビジネス上留意しなければならないことを、私の経験も踏まえて以下に列記します。

 

・部下と自由に会話ができる「場」や雰囲気を設ける。

 この点は私も常に意識しています。

 上司の考えと違う動きをするかもしれないと悩む部下のためにも、このような「場」があれば望ましいです。

 この「場」を作っても上司と部下の関係は変わらないとしても、部下が上司の考えを確認してそれに沿う動きを迅速にとれることにつながります。

 

・「察する力」がない部下に、時には自ら言葉で知らせる努力をする。

 上司にとって努力が必要なことですが、やはり重要な仕事の一部になります。

 察しの悪い部下はどこにでもいます。彼らは手順を踏んで仕事をしており、手順をジャンプしたり、そこから離れて考えることに慣れていないだけなのです。このような部下には言葉でカバーします。

 

・特定の部下に対する特定の思い込みを捨てる。

 殆どの部下はいろいろな局面で違う表現をします。価値観も違うので上司が求めていることとは、違った解釈をすることもあります。

 そこで部下に違う忖度をされる前に、部下の反応を読んで自分の評価などが外れていると思う場合、上司が自らその部下への特定の思い込みを修正する努力をするのもひとつの方法です。

 即ち、部下の正しい把握のため、確認のステップを一枚も二枚も多くすることです。

 

・上司自信が、忖度される立場にいることを常に自覚して動く。

 上司はそれなりの権限を持っているので、部下はそれをくみ取って案件の成果のために先回りして動く傾向があります。むしろ、そのような部下が本来優秀な部下です。

 もし歯車が違う回転をして様々な問題を引き起こすリスクがあるとすれば、それを回避する一番の方法は、上司自身が自らの立場を自覚して、少しでもリスクを回避するよう自覚した上で、必要な動きをすることです。

 政治の世界で昨今疑惑を招いて泥沼化している複数の事案等は、もしかしたら、上司たる責任ある政治家トップが部下たる官僚に忖度を強要した、忖度をせざるを得ないような状況に追い込み、彼らが不正や偽りの言動や行為に及んだと見るべきではないでしょうか。

 すなわち、上司たる政治家トップの責任が極めて大と理解すべきです。

 ビジネスリーダーたる皆さまとしても、留意すべきことだと考えます。

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第281回 経営戦略策定での基本考慮事項

Posted on 2018-05-03

 ビジネスにおいて、日常の業務の大半は予測可能です。いろいろなミスが生じても、原因さえ特定できれば修復可能なことが多い。修復の程度も測定可能です。

 ところが戦略、特に一定期間の長い戦略では、環境の変化、競合の進出も含めて多くの事象がランダムに発生し、しかも予測不能なことが多い。それまでの延長線上で事象が動く確率はかなり低いです。

 戦略を策定してみるとよく分かりますが、事象の構造を予測するのが極めて難しいです。

 

戦略策定の基本任務

 それでは何を目指して戦略を策定すればよいのでしょうか。

 私は1) 可能な限り予測ミスによる失敗を最小化し、且つ、2) リスクを考慮しながらチャレンジして、利益を最大化する作戦を考えることを戦略策定の基本任務と心得ています。

 

予測のミス

 まず、予測ミスを最小化する。

 変化が確実に起きる事象は、戦略展開の上で絶対に外せない。非常に重要なことです。

 日本で少子高齢化が起きている、更にこれが進むことは確実です。この事象を自社のビジネスとの関係でどう捉えるかは極めて重要です。このように確実性の高い事象は他にも沢山あり、しかも戦略に大きな影響を及ぼすので、予測から失念するミスは犯さないこと。

 誰でも、そんなミスを犯すはずがないと思っています。しかし、現実に戦略を策定してみると、動態変化の当たり前のことが当たり前なるがゆえに意外に無視され、結果、戦略全体の建付けに問題が発生し、やり直しになることが多いのです。

 少子高齢化の傾向と違い、蓋然性は高いが、その事象の発生自体を現状ではコントロールできないことも多いです。

 この場合も、その事象が発生したらどう対応するかの戦略を考えておくことも予測のミスを犯さない部類に入ります。

 具体的な例として、見えない競合会社が、もし自社の強みたるxxの領域に進出してきたらどうするかという対策を練っておく、これは予測の中に当然いれておかなければなりません。

 

リスクを取り、チャレンジする

 更に、戦略策定時には、一定のリスクをとり利益を最大化するにはどうするかを常に頭に入れておきます。

 利益を最大化するにあたり、既存のビジネスを強靭化する、また、特定の新規事業に挑戦することに焦点を当てることになります。

 それが上手く展開すれば、大きなメリットを受ける。しかし、失敗するリスクもある。

 ここにリスクとは危険のことではありません。事象の変動が不確実なことですが、いずれにしろ、事業リスクが発生します。

 リスクにより予期せぬ失敗をすることも計算に入れなければなりません。しかも、連携する戦略群の中でどれかの戦略が失敗しても全体が崩壊しない戦略を築くことが肝要です。成長の可能性と失敗して一部が崩れても全体が崩壊しない戦略を狙うことです。

 まず企業として最小限生き残ることを考えなければならないからです。

 リスク自体は企業の進化に不可欠なことです。マクロ経済的に考えると、個々の企業が破たんの可能性を持っていること自体も、進化にとって欠かせないことです。生物が死滅し別の生物に置き換えられることで世の中全体が進歩するからです。

 新規事業への投資も、ある種企業の進化の過程です。会社が進化発展するために、安定軌道だけではなく挑戦のリスクもとる。

 しかし戦略を策定するうえで、忘れてならないことは、戦略全体が崩壊すれば、それまで改善や効率化の努力をいくらやっていても、崩壊のリスクによってみんな無意味になることです。従って、戦略ではまずもって全体崩壊のリスクを抑えるボトムを絶対考えておかなければなりません。

 

全体崩壊しないために、いろいろな失敗から学ぶ

 どうすれば全体が崩壊しない戦略が策定できるのでしょうか。

 頭の中でいろいろなシミュレーションをする、案件によりベンチスケールの実験をすることは当然のことですが、過去の失敗事例を活かす、そこから学ぶことです。

 ビジネスの分野とは違う安全性の分野の例です。飛行機の墜落などの事故データを思い描いてください。残念な失敗の事実から学んでいます。将来の飛行が少しでも安全になる仕組みを組み込んでいます。不謹慎な言い方ですが、どれかの飛行機に不具合が発生しても、他の顧客は巻き添えにならない。ある種、互いが独立して同時に崩壊しない仕組みです。分野は違いますが、このような戦略です。

 また、我々は過去に、津波への対応で沢山の失敗をしてきました。今後も発生する確率は極めて高い。こんなに科学技術が発展しても予測は難しい。しかし、過去の失敗からは学ぶことはできます。

 波のパワーと高さが決定的に問題ですが、逃げる時間的猶予はある程度あります。人間が早く到達できる高台をつくる、逃げ道をつくることで、少なくとも生命の安全は対応できる部分が多い。一部は被害を被っても、全体(人間)が壊れない仕組みです。

 「どうしてこんな全体が壊れやすい戦略を作ってしまったのだ!」と、叱責されないために、競合会社も含めた失敗の事例からも学びます。

 ビジネスの世界では、これを事例として開示しているところは多くはありません。したがって、いろいろなところからの情報に頼るしかありませんが、努力次第で入手可能なものも多いです。

 是非、全体が崩壊しない戦略の策定に、皆さん努力して下さい。

 

 

 

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第280回 マインドの問題

Posted on 2018-04-26

 ビジネスマンの世界で「結果を重視せよ!」という指示が飛ぶのをよく見ます。しかし、経営上それが本当に得かを考えてみた上のことでしょうか?

 確かに「結果は行動で決まる」という経営の考え方もあります。これを強調するあまり、特定の人物の行動パターンを見習えといったやり方を押し付けるなど、極端な経営者も稀にいます。

 

マインドセットが行動に影響する

 しかし、それでは上手くいかないケースを沢山の経営者が体験してきています。何故でしょうか?

 結果には行動でなく、社員のマインドセットが大きく影響することが原因です。

 私もこのことを、経営上体験してきました。

 疲弊しきった社員の心に結果のみ押し付けても上手くいかない。むしろ、行動に反映できない心の部分に何か問題が潜んでいる、このことを経営側が分かって社員に手を差し伸べる手段を講ずるほうが行動に影響を及ぼし、経営上はるかに良い結果につながることを、学びました。

 社員のマインドを変えない限り、事象が一瞬良くなったとしても、マインドが定まっていないので行動パターンは一般的には長続きしない。カンフル的措置で一瞬経営回復したように見えても、中期的には成長軌道に乗らない会社を多く見るのはこれが一因です。

 戦略の妥当性などを除けば、経営が上手くいかないのは大半社員のマインドが原因です。マインドの持ち方が正常にセットされていない社員で構成されているからです。その背景にはいろいろな事情や壁があります。

 職場の人間関係などの壁もこの一例です。行動の変化を双方に指導しても効果がでない。良くなったようにカモフラージュして双方一時避難する。双方のマインドの部分に原因があるので、行動より更に深いところで人間関係がギクシャクしているので、解決しません。

 双方の一方的な思いの部分を変えてもらわない限り、カモフラージュが剥がれ心理的対立が残ったままになり、組織の効果的運営に支障をきたすことになります。

 

マインドセット—心の持ちよう

 ここにマインドセットとは、心の持ちようです。「志」、「信条」、物事をどう観るかの「捉え方」、「視点」ということ、人や周囲との関りでの人間関係、直面する課題、環境、チャンス、責任などをどう捉えるかの心の姿勢です。

 従って、本来は個人の問題です。

 ところが、集団で仕事をする、集団で何かを追求する場合、個々人のマインドが上手くセットされていないと集団がまず機能しない。同じ目標に向かって一致団結してその目標を達成しようとするマインドが少ないと、たとえ優秀な社員を揃えても、組織としてのエネルギーが高揚されません。

 

入り口の重要性

 ビジネスマンのマインドを形成するためには、ビジネスマンとしての入り口が大切です。

 入社時の研修は、たとえ上手くなくてもとにかく自社で対応する。自社の社員の中で鏡と見做す人が運営すべきことを、私が主張するのは、入り口のところで良いマインドをセットさせるためです。

 ビジネスの世界で一番重要なことは社員が最初に入社した時の環境、最初の上司です。新しい世界に入った時の第一印象が、ビジネスマンとしてのマインド形成の入り口です。

 従って、会社内のピカ一の人を上司として当てる。マインドのレベルが低い人は絶対に充てない方針を貫いています。

 

自分事の視点で捉えるマインドをセットする

 マインドのセットで最初に重要なことは、人の働く環境、直面している問題を、自分事の視点で捉えられる姿勢を植え付けることです。

 研修などでビジネスマンに最初に基本的なことは教え込む。咀嚼した段階で評論家風でなく自分事として捉えるマインドを植え付ける。知識を植え付けるステージから物事を真剣に自分事として捉え、その課題をどう解決するかのマインドをワークショップなどの体験を通じて会得させる事が肝要です。

 

組織を経営できるため周囲の環境を察知して対応するマインドをセットする

 次に、「自分のために」を優先するのでなく、集団の成果につなげるにはどうするかの視点を身に着けさせることが重要です。組織を経営するには必要不可欠なマインドです。

 私は、経営のために必要なマインドをセットさせる一環で、会社のマネジメント方法にグループ制を薦めています。組織を小グループに分けて、一定の範囲内で本人に経営を任せマネジメントさせる方法です。グループをまとめて経営する体験から、自分の立ち位置と周囲の目標との関係を考えることにより、経営にとって必要なマインドセットの仕方を学ばせるためです。

 自分のグループのことのみを考え、自分のグループのための利益のみを考えるマインドでは、追って行き詰ることを、グループ経営の体験で学びます。

 修正するための術も身に付いてきます。隣の部門や相手のニーズ、目的、課題にしっかりと目を向け、自分の仕事が相手に与える結果を想定し、隣の部門にも役に立つように自ら努力する術です。

 例えば、全社のコスト削減の指示が出たとします。これに対して自グループのことのみ考慮した策を講じたとすると、他のグループや会社の事業全体のエキスの部分に損害を与えることにもなりえない。部門の機能は皆つながっているからです。結果、全社の人的資源の一律カットのところまで行きついたとしたら、自分のグループは生き残れたとしても会社全体がおかしくなり、自グループの存在も危うくなります。当然、皆が損をすることも分かります。

 相手の仕事を知らないと組織の経営できなくなる、互いに相手の仕事内容を知ることでそれぞれが相手の仕事と自分の仕事のつながりをよく理解できるようになり、全体効果を上げるために、自分に何ができるかを考える習慣がグループ制下で芽生え、セットされていきます。

 逆に、壁の厚い組織では、これが出来ていません。隣の部門がどのような仕事をして、今何に困っているかを知ろうとしません。これでは組織全体は効率的に回るはずもありません。自分のグループのことだけを考えて、結局自分が損をすることになります。マインドが関係します。

 詳細は省きますが、私自身この弊害を除去するために、「農耕型企業風土つくり」の経営と称して、この経営手法を提唱しています。この経営を進めると、隣の部門の苦痛を肌感覚で察し、必要なタイミングで隣の部門に手を差し伸べる互助のマインドが醸成されます。結果、組織の経営にも役立ちます。

 債権回収の仕事で実績を上げる社員が相手が何に困っているのかを察知し、それをサポートする姿勢と具体策を通じて自社の債権の早期回収に成功するパターンとよく似ています。

 

マインドセットで変わること

 最初の入り口で、良いマインドをセットする。経営的マインドをセットさせる。このような社員の塊が増えると、マネジメントのやり方さえ軌道に乗せれば、管理をしなくてもよい職場になりやすいです。マインドセットが変わると社員がおのずと行動を起こすようになるので、「行動を変えろ」と指示する必要はなくなります。こういう社風の職場をつくると企業の成長が早いのではないでしょうか。

 

 

 

第279回 価値の評価とリスク

Posted on 2018-04-19

 経営者ならずとも、我々は毎日、人生でいろいろの判断を下しています。この判断は、事象に対して、なんらかの価値の評価をしていることになります。だとすると、判断にするに当たっては、できる限り本当の価値を基に適切な評価したいと思うのは私だけでしょうか。

 企業の経営においていろいろな事業候補群のどれを選択するか、これも評価の範疇にはいります。特に、新規事業の成否は戦略判断に関係しますが、そこにおいてそれぞれの戦略オプションの評価がベースとなります。ある意味で「値打ち」を正しく評価する、見抜く力です。

 

評価の基準と価値

 問題はこの評価の基準です。

 いろいろな評価基準があり、単純ではありません。

 我々が買い物などで商品を購入する場合は、評価の大切な基準として価格を選択しているのではないでしょうか?

 ところが真面目に考えてみると、これは本当に適切な方法か疑問です。価格は売る側の事情で付けたもの、売る側の原価や競合各社の値段などを参考にしてつけたもので、購入する人にとっての価値とは直接関係ないこともありうるからです。

 購入商品の値付けに、価値という考え方が明確な比較基準として織り込まれていない、若しくは、不足している考え方です。選択肢の評価基準の中で、価値に重点を置いた位置付けも考慮すべきではないかと思います。

 

評価の方法

 次に問題となるのは、価値の評価の方法です。

 企業の内部でよく議論になるところです。

 価値の評価方法として、原価からアプローチする方法や取引事例比較による方法があります。価格に価値が表現されている前提です。

 原価ベースの方法は、原価を算出し、一定のマージン率を加算して価格とする方法です。この方法のメリットは、もしその通りの値付けが通れば一定の利益を企業として確保できることです。しかし、競争要因が働く場合は、その限りではありません。

 一方、取引事例比較のやり方は、競合に対して勝つことはできても、自社の一定の利益の確保は概念上、担保されない欠点を持っています。

 会社内で、この二つの議論が行われて営業部門と他の部門でもめることがよくあります。先述の通り、これらはあくまで価格と価格の比較です。しかし、価値を前面にして考えると、価値の源泉は、人間や機械のコストも大事な因子だが、目に見えないもの、顧客がベネフィットを感じるものも考慮しなければならないのではないということになります。

 そこで、もう一つの評価方法は、顧客にとって役立つことを評価する方法です。「役立つこと」とは、「価格意外のモノ」も加味して表現されることもあります。

 ビジネスのプロセスから顧客が得るメリット、ブランド、優れた人材による対応、集客力、雰囲気などなどが顧客にいかに評価されるかなど、目に見えないモノも含めた総体です。蛇足ですが、アンケート調査などを行う本来の趣旨は、顧客が自社の何を評価しているかを知ること、それを価値に引き直す作業に活かすためです。

 ここでいろいろな価値をお金に換算しなおす作業が必要となります。この価値を生み出すお金の総量で決めることになります。利益が増えてもキャッシュフローが増えないと、会社の価値は増えない。値引きで直近の売り上げがたっても将来のキャッシュフローを見ると大きくならない場合、この判断は間違いとなります。

 このアプローチは将来の稼ぎも現時点に割り戻して計算しますので、金利がポイントです。

 金利とはリスクへの見返りです。投資判断の計算では内部収益率(IRR)に相当します。

 ここで評価とリスクとの関係が出てきます。

 

リスク

 どの判断方法をとるにしても、リスクを伴います。

 ここでいうリスクとは、危険のことではありません。金利はリスクへの見返りですが、一般の議論で勘違いがあります。事象の変動が不確実なことをリスクといいます。

 危険が起こる可能性を指しているわけではないことです。この可能性に対して最大限事前に防止策をとっても、前提の事象が変動するかわからないことを言います。したがって、望ましいリスク(アップサイド)や望ましくないリスク(ダウンサイド)もあることを勘案して選択しなければなりません。経営戦略上の投資評価でアップサイドとダウンサイドを必ず吟味するのはこのためです。

 参考になりましたでしょうか。

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第278回 マーケティング上のインサイトについて

Posted on 2018-04-05

 そもそもインサイトという言葉は、マーケティング上の言葉というより心理学上の言葉だと思います。それを証拠に、この定義は、「人を動かす隠れた心理」と言われます。

 定義上から明らかな通り、

(1)本人も通常意識していない隠れたもの、

(2)それが本人を動かしているというポイントです。

 隠れた心理のところに、隠れた不満、欲求などがあります。商売上は、できればこれを察知してその不満を解決し、欲求を満足させるような企画やアイデアを出すことにつながります。

 

インサイトの中味

 いろいろな教科書で説明されていますが、インサイトの中味を解析すると、一般的に次の要素から構成されています。これらは、

・まず、その人の「感情が生まれた場面や、行動」です。

 例えば、1か月前から体の調子が悪い。普段目にしている疾患関連の症状に似ている。

このような場面です。これは本人もインサイトと認識していないかもしれません。

日時や場所、どんな時かなどの情報が絡んでいます。

 

・次に、ドライバーというか、上記の「感情を生み出す基となった要因」です。

 例えば、診療機関での検査値が異常だった。

 これは事実として隠しようもないことですが、その人は、それ以外の診療所では違う検査値を得たとすると、益々不安の感情が拡大することになります。

 

・さらに、「感情や気持ち、情緒」が要素となります。

 例えば、先の例で言えば、万一、入院となったら生計をどう営もう、就業や就職は大丈夫だろうか、自分がやりたいことが出来なくなるなどと、普通の人は感情が高ぶります。

 

・最後に、不満や充足されない「背景」です。

 自分が万一入院したら、家族が大変だ。何としても早く治療を受けて回復したい。それにはどうしたら良いかと、また新たな未充足な状態が発生する、という循環も普通に見られる背景です。

 

インサイトを探し出す方法

 このインサイトは、本人も明白には分かっていない。

 それを第三者がどう見つけるか、事業を営む企業のマーケティング担当者としては何とかしたいところです。

 本人自身にも隠れていますので、インサイトの発見方法は、そう簡単なことではありません。

 現在、行われている一般的な方法は、文章に穴をあけ、それを埋めさせる文章完成法とパネル参加者の行動を観察する行動観察法です。

 前者は、例えば、「もし、私が入院したら・・・が心配です」の「・・・」に何を入れるか。それによって、隠れた不満や欲求が表現され、インサイトが顕示的に表現されると見る方法です。

 後者は、パネラーの行動を観察することで、その人の一挙手一投足の非言語的情報から、その人の隠れた不満や欲求を察知する方法です。

 どちらが良い悪いということでなく、むしろそこからの情報をどう読み取るかが問われることになります。参加する人の声(ヴォイス)とインサイトの4要素をどう組み合わせ(コンバイン)て、隠れた部分をいかに解読するかです。

 

ひとつのヒント

 全体を先ほどの例で言えば、

 最近体の調子が悪い「状況」がある。

 そこで診療をうけたら、ある検査値が異常であることが明確になる「ドライバー」により、

 自分が入院することになるのだろうかという「感情や情緒」の不安が生じている、

 その背景は、入院や手術代の経済負担に自分が耐えられないのではないか、なんとしても治療を成功裡に終えることのできるドクターや薬を探したい。そこまで分かれば大躍進です。

 このような筋書きになるとすれば、その人のインサイトがなんとなく浮き彫りとなり、企業として新しいアイデアや企画、新規事業のヒントになる。

 それがうまく実現すれば、その企業にとっての救世主となるかもしれないので、世のマーケティング関係者が血眼でインサイトを探し求めているのがお分かりになると思います。

 世の悩めるマーケティング担当者の方々、4つの要素に分解して考え直すと、企画やアイデア出しが少しは前進するかもしれません。乞う、朗報。