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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第186回 今の日本には「農耕型企業風土づくり」の経営が必要とされる(4)

Posted on 2015-12-31

先週からの続きです。

 

e) 一言で言い表せる「企業風土」

 他の会社に無い企業文化を持つことで、「違い」を実感させ、自らその違いを営業現場などで体験させることです。

 ある時期から、一言で自社の「企業風土」を言い表せる社員が多くなりました。

 これにはいろいろな努力の結果です。経営をしていた私自身は、自社の企業風土の特徴を皆が簡単に顧客や他の人びとに言い表せると、自信を持っていましたが、実はそうではないことにある時気づきました。それならと当時、会社の企業文化を「SOSFCCQ」の言葉で具体的に表現したところ、一気にこれが社員の間、更に外部に向かって情報発信できることになったことを覚えています。会社の思想がより深く浸透する契機になりました。

 

・Sはスピードです。

・Oはオープンで会社の情報などを全て公開するものです。

・Sはシンプルです。複雑なことに嘘があり、単純、且つ、簡潔明瞭にすることです。

・Fはフリ-です。自由闊達に仕事をする環境をつくることです。

・Cはチャレンジです。すべての社員が新しいことに挑戦する義務を負うことです。

・Cはクリエイティブです。創造性をとにかく重視していました。

・Qはクオリテーです。以上の中で相互矛盾をきたす時は、クオリテーを最優先に考えることです。

 

 このように自社の目指す企業文化を明示的に表現して、日常の仕事、教育訓練、採用等すべての活動局面で、会社の全構成員がこのことを頭から一刻も離なさず、実践することに決めたのです。

 このようなことは経営体験を通じより深く味わるので、彼らが営業、現場のサービス提供局面、企画等全体を経験して、なるべく早くグループ長として経営者に育つ訓練を、ローテーションを通じて計画的に実施していました。

 このことが、冒頭や飲み会に書いた、かつての社員からのいろいろなメッセージになったのではないかと思います。

 

f) 仕組、仕掛け

 社員には自分を鍛える訓練が出来る「仕組」や「仕掛け」をつくりました。

 年間計画、月間報告、週間報告を義務付け、しかも、これを自分の言葉で「書き表す」習慣を付させました。書き表すことで自己の考えや将来像を固めさせるためでした。勿論それが、会社が目指す目標と重なることを経営層としては望んでいましたが、それにこだわることは社員個々人の価値観を強制することになるので、それはしませんでした。

 しかし、社会も受けいれられる戦略目標を会社が定めることで、社員の価値観との同心円で重なる部分が大きくなることも分かりました。

 自分でやるべきことをリストアップしその達成状況を週間報告で記述させました。手書きで書かせることで、テクノロジーの支配から解放させ、自分で考える時間をつくるようにさせました。社員の心の揺れも文字から分かるようになりました。しっかり考え、計画し、優先順位を自分自身で考えていくことで、自分が合意した計画目標を、切迫感を持って実行させるためでした。

 このことで、社員個人が重点的に取り組まなければならないことを意識し、結果として自分の時間を有効に使う知恵を学ぶようになったと思います。一度に一つだけ実行させ、次月にそれを質問し報告させることにしていました。重要なことを後回しにすることで結果として約80%の仕事が後々影響を受けるのを避けるためでした。彼らはそれで自分の自由にできる時間をつくる工夫を学び、「すぐやる」ことが如何に重要なことかを学ぶ機会にさせました。

 

g) 対話

 最後に重要なことは、「対話」です。

 これは上司、部下という立場を抜きに、人間対人間が話し合うことを意味しています。

 上司と部下との会話で悪い例は、上司が部下の話の途中で、「それはこうだよね。あなたの言いたいことはこうだよね。」と部下の話を「括る」ことです。これでは、部下の意見を吸い上げることにならず、上司が考えていたことを部下の前で披瀝することにすぎません。

 実は、ほとんどのビジネスでの会話がこのパターンです。忙しいことを理由として、話を「括る」のです。建前上は、「何でも君の考えを話してよ。」としながらも、実は一方的です。「対話」になっていません。

 これを避けるには、上司の我慢意外に方法はありません。部下の話は、時にまとまりがなく、時に冗長です。しかし、我慢しながら聴いていくと、彼らの本心が何かに行き当たります。こうなるとしめたもので、次の正確な対策につながります。また、部下からの貴重な意見を得ることにもなります。

 こうなって初めて、上司と部下との信頼関係の糸口がつかめるのです。

 

結論

 以上のような「ソフト面」を経営上充実する結果として、私が主張する「農耕型企業風土づくりの経営モデル」は、一旦この企業風土を作り上げると、極めて強固な組織になります。詳細は、『これからの課長の仕事』,『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)『礼節と誠実は最強のリーダーシップです』(クロスメディア・パブリッシング)に譲りますが、私はこのことを約20年間の経営で実証してきました。

 アメリカ流のマネジメントにもたくさん学ぶところがあります。しかし、このスタイルのマネジメント経営だと、万一、経営リーダー機能が不全になった場合、全組織が多大な影響を被るというネガティブ面のリスクが大きいのではないかと考えます。

 日本に於いては、私の主張する「農耕型企業風土づくりの経営」のほうが企業の中・長期的な発展には適していると確信しています。

 極端な例ですが、リーダーは善で「社員はこのリーダーに従え」的な一元的発想による経営の場合、経営においてリーダーの機能に狂いがで出ると、たとえ法規制や諸制度の保護があったとしても、ミドル・マネジメントを中心としたチームワークによる自主的補完機能がないために経営上芳しからざる結果を招くことが多いのです。

 特に、「資本の論理」を全面に出す資本家的経営リーダーが経営者としてアサインされたときは、このリスクを大いに警戒せざるを得ません。

 社員の知恵が仕組として生かされる「農耕型企業風土」のような経営組織が、そのようなマネジメントには組み込まれていないからです。「農耕型企業風土」に根差した組織では、現場の経験の集積が知恵の塊として存在しこれを生かす仕組があるので、万一の場合にも経営リーダー機能の一部をカバーする力があり、この点でも組織を強固にしています。

 人間が作り出すシステムで利益を追求する組織ではある以上、「効率」を重視するのは当然のことです。経営システムも然りです。

 しかし、これが行き過ぎると経営システム全体が一部の特権的リーダー中心の単純化した仕組になりやすい、と私は考えます。

 効率がキーワードで、この言葉自体に論理的に大義名分があるので、なかなか正面を切って異を唱えるのが難しくなります。「効率」をキーワードにどんどん経営が単純化され、いわゆる経営の「遊び」の部分を無くしていくことこそが「良い経営」と株主からは賞讃されることになるかもしれません。

 実は、ここに「落とし穴」が潜んでいます。単純であればあるほど、これが上手く作動している場合は良しとして、何か経営のリーダーシップに狂いが生じた場合、経営システム全体が作動しなくなるリスクが大となる傾向があります。

 私は経営に故意に「遊び」や「効率を阻害する」仕掛けを組みこませる努力をしました。それらの仕掛けが「人間の心」や「仕事と生きがい」の観点から本来人間という生命体が持っている自然な姿に近いものであると信じ、「遊び」や「効率を度外視した」仕掛けも併存的に組みこませていました。

 組織として生きた状態、活性化した状態を永く維持するには、このことが必要不可欠なことだと約20年間の経営で学びました。

 そろそろ除夜の鐘が鳴りそうです。

 皆様、良い新年をお迎えください!!

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