顧客
第222回 顧客に学び、現地・現場で対応する
日本の大手の企業では、本社部門で「計画」を策定し、それが「現場」が実行されたかどうかをウォッチする「管理」中心の経営が行われているところが多いです。
基本方針は別として「私、企画する人、あなた、やる人」という発想に大いに疑問を感じ、私は新しい経営方法を主張しています。「農耕型企業風土づくりの経営」スタイルです。これは、顧客の要望などをじっくり観察した上で購買に至る仮説を立てる、その仮説に想定できない変化が発生することに備えて、計画の管理でなく「現地・現場」で柔軟に対応する経営発想を持ち込むものです。私が標榜している「三現主義」、すなわち、「顧客第一主義」、「現地現場主義」、「対話による解決」の第一、第二番目に関係することです。
過去のピラミッド型組織に見られた「本社の計画企画中心型」から「顧客と現地・現場中心型」への発想と組織の在り方に転換を伴うものです。
1.経営スピードのメリット
このメリットはまず、現地・現場の社員が顧客に対応することで、いろいろなことを観察(オブザベーション)ができ、生きた情報を収集できることです。本社中心の場合、この部分を軽視しがちになります。
現場で収集した情報を基にして、顧客がどうやったら喜ぶか、評価してくれるかを洞察でき、施策の方向付け(オリエンテーション)につなげることができます。地に足のついた洞察力を発揮できます。「農耕型企業風土づくりの経営」スタイルでは社員が自立している組織なので、本社や上司の指示を待たなくても自分や自分でコントロールできる組織内で決断(デシジョン)できる。すぐ適正な行動(アクション)に移せます。
「現地・現場」に最大限の裁量を与えて、スピード感をもって仕事に取り組むことを要請する体制で、経営にスピード感をもたらすメリットがあります。
2.自立、自律型の人材と風土
このためには、前提として「自分事」として捉える自立型、自律型の社員で構成されていなければなりません。すべてを「自分事」として自分が率先して受け止め、対応する風土が必要です。
そのような風土では、魚市場を豊洲に移転する件で、東京都庁で起きたと報道されるような事態は全く起こりえません。大きな予算を伴う決断を、誰が何時、どこでしたのか分からないなどという不可解なことは発生する余地がない。「自分がやりました。・・・の判断基準で」と、手を上げる人がすぐ出てくるはず。その結果の評価は別としても、事実関係が数週間経ても判明しないなど、都庁という組織としてありえない。すべて「他人事」の姿勢が蔓延する組織や風土とは大違いです。
3.失敗の経験コストの組み込み
組織として「主体的に動く」社員を作る努力が不可欠です。
社員が自主的に行動できるようになるために彼らに経験を積ませること。
すなわち、失敗の経験コストを組織の仕組みにビルトインさせる。多少の失敗代も織り込み済みとする。彼らが顧客に対する鋭い観察眼をもって考え、行動できるよう現場の社員を中心に据えて発想する。その過程で、万一失敗してもその失敗から学ばせる組織とすることです。
従って、現場のリーダーの役目も「自主的に動く」社員が「自主的に動ける環境」を整備することに主眼を置くことになります。「管理」ではありません。
4.「ミッション」のおろし方
「現地・現場」が主体的に動くには、その部門への「ミッション」へのおろし方が明確でなければなりません。
これを事業の計画策定時で言えば、部門のメンバーへの「ミッション」のおろし方に関係してきます。
-何のために(Why)、
-どんな理由でその仕事(Job)をするか,
-どんな成果(What)を目指す、期待するのか、
-結果をどう評価するか(Valuation)を明確にし、
-そのうえで部下にやるべき方法(How)は任せるためです。
このおろし方が下手なために不要な混乱をきたしている組織、現場のモラールが維持されていない組織を見るのは残念です。
5.現地・現場のサポート方法
「現地・現場」のサポートも重要です。組織によって違いがあると思いますが、人材の供給に加えて、一つはインテリジェンスの供与です。「現地・現場」の仕事に役立つインテリジェンスの武器を本社は提供しなければならない。
「ミッション」の遂行を強力にサポートする影の主役が「情報」です。しかも単なるデータ(インフォメーション)でなく、現地・現場の判断と行動に結び付くインテリジェンスです。現場が顧客を知り、その顧客に役立つ情報は何か、どうやって顧客に自分の会社を向いてもらえるか、どのボールにするかの選択と投げ方、タイミングに工夫が必要です。現場の情報と会社全体の情報を織り交ぜることを目指します。ましてや本社からの一律な情報の提供では、現地・現場は良いボールが来てありがたいとは思わない。
以上のことが作動すると、顧客の反応を観察しながら自立して動きながら考え行動する社員と組織ができる。組織が一段と活性化し経営のスピードが増すことにつながります。
実のある戦略を樹てていますか?(2)
経営戦略の策定に当たっての留意点で、前回のつづきです。
4.マーケットの総論を煌びやかに表現しない
一般的なマーケットの流れを記述しているのみで、自社にとっての重大な課題には取り組んでいない戦略も危険です。つまり総論の披瀝のみです。
しかもどこの評論家も指摘している客観的な事実情報を、さも大事の事実として指摘するもので、それと自社の事業が具体的にどうリンクして自社がどう影響を受けるのかの一番重要な接点部分にほとんど触れられていないことが多いのです。
したがって、このような戦略は本質的なことが本当にわかっている人には、「それでどうなの?」「それで当社にとってどんな特色あるビジネスモデルになるの?」との指摘を受けるのは日の目を見るより明らかです。
5.寄木集め的なものにしない
さらに、およそ戦略という代物とは似て非なるものもあります。おそらく、戦略策定者の主体的な意思が明確でないか、全体構造が描けなかった帰結としてこうなるのかもしれません。
各部門からの計画を、表現を少し変えて網羅している状態で、部門計画の寄せ集めの「平面的寄木細工」です。部門の業績目標が名前を変えて戦略目標としてなりすますことが多くなり、会社として全く不幸なことになります。
どの策をどういう順序でどう講じると会社としての成長・発展に早く近づけるのかの道標ルートとつなぎが全くありません。全体構造に基づく戦略道標のルートを選択できるオプションも反映されていないのです。
6.専門用語で煙に巻かない
専門用語や業界用語を多用しているものを見受けます。内実を伴わないことが多いのに、立派に見せるためにドレスアップする方法です。一般の人が普段触れることが少ない用語で「煙に巻く」ものです。
私も何回もこのことを経験しました。
その時には、「立派なことを報告する人だな。」となんとなく思うこともあったのですが、じっくり考えてみると、その報告者はあまり本質的なことを言っているわけではなく、専門用語を散りばめて内容のないところをカモフラージュしているのみだと気づきました。
そのようなエセ戦略家が会社の経営ポジションにいるとしたら、その会社の社員にとっては非常に不幸なことなのに、皆それに気づいていないかもしれません。
経営者の立場で私はそのことに気づいていました。
「難しいことを丁寧な言葉でわかりやすく説明するのが、本当のプロです」と、事あるごとに報告者を戒めていました。子供に分かりやすく説明する時には、本質的なことを相当詳しく知っていないことには理解されないのとほぼ同じことです。
実のある戦略を樹てていますか?(1)
私自身、一番経営の中で得意とするところは経営戦略の策定です。
過去私が経営を任されていた会社の成長の要因の一つは的確な経営戦略を樹てたことだと自負しています。もちろんこの戦略はひとりでできるわけではありません。たくさんの社員をヒアリングなどで巻き込んで策定するのですが、戦略策定の過程で見つけたことがあります。
裏を返せば、本質から外れているにもかかわらず、戦略案を一般の人の目を引きやすく、かつ、もっともらしく見せるテクニックがあるので、経営者には、以下のポイントに留意して戦略のエセ部分を見抜く力が必要です。
1.戦略の基本構造を立体的に描く
基本的な構造項目すべてを網羅した教科書的な戦略なものになることを回避したいです。教科書的な戦略は一見綺麗で合理的に見えますが、構成が平面的になりやすく、実践にあたって実効性に疑問を持ちます。
- 顧客(現在顧客と潜在顧客)と社員(正社員、契約社員全て)を最上位に置き、
- 顧客の満足と社員の働きやすさと幸せを実現する仕組みや仕掛けに重点を置き、
- それを実現する組織や制度等の全体を組み立てる戦略構造にすれば良いのです。
すべてをなんとかしたいという思いはわかりますが、スピードが求められるので現実にはそれほどのリソースと期間はないはずです。
2.優先課題を設定する
先述のように顧客と社員を優先課題の第一義に設定し、置かれた現状が何故(Why)そうなるのかを冷静に分析し、具体策を策定して、一貫性をもってそれを一体的に実行することになります。
私は、その戦略を実行に移すことまでを含めて責任を持たなければ本物とは言えない、という考えを持っています。「私は戦略を作る人です」、「あなたがそれを実行する人です」と、戦略の中で実践プロセスを分離すると、単なる評論家的な戦略で責任感の欠如した形骸作品に成り下がってしまいかねないからです。
私の経験でも、この陥りやすい失敗について自分自身が立てた戦略経験で明確に分かります。私が過去に経営を託されていた会社でも、「第x次中期計画」などと称して、約3~5年ごとに戦略を策定していましたが、その中でも、最初に立案した戦略が基本構造は一番明確でした。姿形は少し幼稚ですが、顧客と社員のことを明確に最上位に置いて作を練っています。
会社が実質倒産の憂き目に瀕していたので、会社がどう生き延びようかと必死に顧客に焦点を当てで現状を分析し、生活も含めて社員を安心させるための将来像を本気で立案し、現実との乖離をそのあとの行動で埋めていったからです。
生きるか死ぬかの瀬戸際でしたので、顧客と社員のこと以外はある意味で捨てた戦略でした。
その後の中期の戦略も会社の成長・発展に貢献する道標になったことは事実ですが、「何となく、恰好をつけている」部分が多くなってきているのが自分では分かります。銀行や投資家の外部の目などいろいろなことを気にしてドレスアップしだしたからかも知れません。
皆さんは、こうならないようにご留意ください。
3.現実的な綺麗な姿を描く
戦略の見栄えを気にしすぎて、数年後の会社の絵姿をあまりに理想形にしすぎると、どこかの本からの切り抜きではないかと思われるようなものになりかねません。私の経験では現場の知恵から乖離した博識な社員のみに戦略を策定させると、よくあることです。
戦略目標として目指すものがあまりに非現実的な目標になっていても、絵姿は人目を魅きます。本の知識を基にした思い込みが前に出て、自分の会社の諸事情を見ずに、綺麗な絵姿のみを描いているものです。イメージ先行で、現状との乖離も、描けば何とかなるだろうという安易すぎる考え方からきている場合です。
イメージだけでは決してうまく展開できません。
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