園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

サービス、サービス・デザイニング、顧客、コストの一部負担

顧客サービスに関わる原則の理解(2)

Posted on 2014-09-11

前回の続きです。

3.すべての部分で最高のサービスを提供することは、経営的に無理があると理解すること

 経済原則上、全ての部分で最高のサービスを提供できる会社は、世界を見渡してもごく限られています。私も経営者の頃は、可能な限りすべての部分で最高のサービスを提供しようと努力をしましたが、経済原則上無理がありました。それでも、顧客が一番重視していると思える部分のサービスの質は、コストがかかっても競合より徹底して高める努力をしてきました。他方、顧客がそれほどまでと思っていない部分においては、競合と同位の質を維持していくのが、経営上現実的解決策でした。

 例えば、銀行では支店での営業時間の長さに重点を置く経営法方針を貫くとすれば、一部のコストを金利で吸収していかなければ、経営は成り立ちません。もし、銀行の窓口接客の人材の質の点を重視する経営方針を貫くとすれば、窓口現場人材のコミュニケーション能力、特に共感性に徹底的に重点を置くことに経営資源を投資することになります。

 要は、最高のサービスをすべての部分で提供することが経営上厳しければ、最高のサービスを提供する部分をどこに置くかのトレードオフを、経営上事前に決定しておくことです。

 

4.サービスのコストを、誰かが負担しなければならないこと

 事業を始めるかぎり、顧客へのサービスは継続しなければなりません。短期的に、サービスを充実することは可能です。顧客獲得のキャンペーンがこの例ですが、そのキャンペーンが終了した途端、顧客へのサービスのレベルが激変した会社の例を沢山見てきました。

そうならないため、サービスは継続されて初めて意味があることを皆が理解した上、サービスの継続のために予算自体を安定的に賄うメカニズムが仕組みの中に組み込まれなければなりません。

 例えば、損害保険会社の例では、いつ発生するかわからない事故が起きた時にいち早く現場に赴くサービス体制を、関連する会社を巻き込んで構築しておくことに投資をすることになります。内部留保で賄えなければ、このことでかかるコストの一部を保険の料率に一部反映させ、消費者がコストの一部を負担する場合も発生します。この原則を、サービスの提供側の身ならず、消費者も理解しなければなりません。

 

5.顧客の訓練、顧客のマネジメントが重要であること

 飛行機の搭乗で皆様も経験されていると思いますが、一人の顧客の遅れで全員が迷惑を蒙ることに顧客をどう訓練するかです。クイックランチの店で一人のランチ選択の遅れが、行列の後ろの人に影響を与えるとするとすれば、顧客自身を指導訓練する必要があります。この例だと、事前に、搭乗時間を守らせるいろいろな指導、顧客がメニューを選択しやすくする指導など、いろいろなマネジメントの工夫があると思います。

 クレームが重大な事件に発展するのも、顧客の心理的なクセから複雑になるものは例外として、その会社が普段から顧客との良いコミュニケーションを保ち、彼らをどう訓練・マネジメントできているかに相当かかっています。これで大部分は円満に解決します。

 

6.顧客との長い付き合いを前提とすること

 私がサービス会社の経営を託されていた頃、ある会社の経営にどうしても理解できないことがありました。

 この会社では、新規の顧客獲得に沢山の投資をする割に、そこで獲得した顧客が去るのを普通の出来事のごとく、その会社の経営者が見做しているように私には映りました。データベースのメインテナンスが甘く、結果としてそうならざるを得ないところもあったかもしれません。しかし、これは、そこの経営者が経営計算をしてシステム投資と顧客獲得でのキャンペーンの投資の効果比較をすれば、すぐに分かるはずです。にもかかわらずこの会社は、事業の継続のために当然また新たな顧客獲得キャンペーンを実施する羽目になり、この連続でした。このことがどうしても私には理解不能でした。

 顧客との長い付き合いに費やすコストが新規顧客獲得への投資の三分の一以下だと考えます。その顧客のファン化が出来れば収益に更に大きな貢献をし、この比率が更に改善することにもなります。コストの観点のみならず、獲得した顧客を垂れ流し状態にして、毎度新規顧客獲得のキャンペーンをやる現場の社員のモーチベーションこそが心配になりました。

 こう記載すると、この原則を良く理解していると豪語する経営者が多いのですが、実態は、会社機能が細分化されデータベースに統一性が無く、現場部門間の垣根が存在することで、これに類似した事態が発生していることが多いのです。結果として、一人の顧客への継続的なサービスの提供が妨げられている現実が多くみられるのが残念です。

 顧客との長い付き合いを維持するためにどうしたら良いのかを今一度考え直し、具体策を実践してみるべき時期と考えます。

 以上、顧客サービスに関わる原則を6点紹介しました。

 

顧客サービスに関わる原則の理解(1)

Posted on 2014-09-04

 先進国と言われる国々では最近、GDPに占めるサービス産業の比率が増加傾向にあります。ある報告によれば、アメリカでは広い意味でのサービス産業が80%を占めていると言われるほどです。

 サービス産業の定義自体に不明確なところがありますが、今後、日本でもGDPに占めるサービス産業の比率が増大する傾向にあるのは確実です。今回は、顧客との接点を抜きにしては考えられないこのサービス産業の中で、顧客サービスについてふれてみます。

 私もサービス産業の当事者の一人でした。過去にサービス関係の経営に関わっていた経験から、良いサービスを提供するには、ある種の原則があること、しかもこのことを社員全員が認識しなければならないことが良く分かりました。また、サービスを提供する側、受ける側の双方がこのことを理解して初めて良いサービスが成立することも分かりました。

 サービス関連のビジネスが重視される中で、顧客サービスに関わる原則を以下紹介します。

 

1.エンド・ユーザーはサービスも含めた全体に対して商品・製品を評価する傾向があること

 自社の商品自体の品質の優秀さのみを誇る時代は過ぎました。消費者は商品・製品自体の品質のみならず、消費者がそれを利用するにあたって関係するサービスも含めた、全体を評価している傾向が大です。

 最終消費者に自社の商品・製品が届くまで、いろいろなサービスが関与するのが現実です。顧客サービス自体をメインの営業商品としていた会社の経営を託されていた私は、サービスも含めた全体のことで気づくことが多くありました。

 メーカーの経営者に多いのが、自社の商品・製品に絶対的な信頼を置くことです。それは良いとしても、それに付随するサービスの部分を軽視する姿勢が言葉の端々に出てくることでした。消費者はメーカーの名前を買うのでなく、それを利用してどれだけ満足するかに評価ポイントを置いていることを忘れがちになっていることです。

 何かトラブルが生じた時に、その企業がどう迅速に対応してくれるか、クレームに対して、いかに消費者の立場を尊重して対応してくれるか等の、総合的なポイントを消費者は重視しています。これらのことが、彼らの友人同士での口コミに影響を及ぼし、結局その企業のブランドを形成していくことになります。

 したがって、商品・製品が生まれて、顧客の利用に供する時までの全体のシーンに、企業がいかに知恵をめぐらせ配慮するかで、顧客の評価が激変してくるという原則を、サービスの提供側がまず理解しなければなりません。

 

2.全体のサービス・デザインニング(設計すること)がキーであること

 上記の関連で言えば、サービスも含めた全体の設計、特に、サービス・デザインニングが重要になります。サービス全体の設計です。

 最終的に人が関与するとすれば、その人、顧客と接点を持つ最前線の人々の意欲や能力をどう高めるかの仕組み・仕掛けがデザインの中に組み込まれていることが肝要です。

 一般にデザインと言うと、どうしても人間を排除したシステムが優先されますが、私は、人間のモラールを除くデザインニングはほとんど無意味だと思うほど、人が関与する部分を重視しています。

 人のモラールを高める一つの方法として、顧客と接点を持つ現場に最大級の権限を付与して、現場社員の判断と裁量を重視することで彼らの意欲を高めることを薦めたいです。自由裁量を与えられた人々の行動パターンをつぶさに観察していくと、彼らの頭の中に知恵のカタマリがあることに気づきます。この知恵を自由に開花させる環境を与えることが、いかに企業の生産性に関係するかが良く分かりました。

 ただしこの時には、裁量を与えられた現場からの報告が詳細でかつ的を射たものになるような報告書の形態を、デザイニングの中でしっかり考えること、および、報告書に基づいた会社としての迅速な対応の仕組みも、設計(サービスデザイン)の段階でしっかり押さえておく必要があります。