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主義主張

第226回 トランプ大統領のアメリカ雑感

Posted on 2016-11-17

 米国の大統領候補トランプ氏がなぜアメリカで旋風や雑音を巻き起こしているのか、日本への影響はと、いろいろなところで議論されています。

 私は彼の出番の根源には、これまでのアメリカの政治、これまでのオバマ大統領やクリントン氏の政治に対する根強い不満があると考えます。

 政治は専門家でないので、この問題を今回私流の経営的視点を絡めて雑感的に見てみます。

 

既成の政治への不満――建国の精神

 オバマ大統領は、保険政策に代表される福祉政策を推し進め、共和党の反対を押し切って大統領特別権限で法律を通してしまいました。また、詳細は確認していませんが、連邦準備制度理事会の理事全員を大統領が属する民主党系にしてしまったようです。彼は独善的な政治をしてきた、大方はこのように見ているのではないでしょうか。

 経営者の経営のかじ取りとの関係で興味がある部分です。

 アメリカ独立以来、移民を主体とする彼らは,どちらかと言えばリベラルな考え方を尊重し、議論を戦わせて最後は結論に従う。このような良きリベラル像を抱き、この層が政治的にも大きな集団を形成してきました。私がアメリカに留学していたころ、リベラル層の絶頂期であったと思います。ところが、民主党のオバマ政権になってから、アメリカのこの基盤になる思想が失われ、リベラルから逆回転しつつある。

 仕事をする上で、自由な環境が経営にイノベーションをもたらすという視点とオーバーラップさせながら、アメリカの政治の変調を見ています。

 

実績と主義主張の一貫性

 民主党候補のクリントン氏の支持率は高かったと思います。初の女性の大統領候補という引きもあったのでしょう。しかし、彼女は国務長官時代に何の実績を残していないというのが一般的な見方です。近隣の国から多くの献金をもらって外交に偏りがでるとの危惧を抱いていたアメリカの知識人も多くいたようです。

 万一、彼女が大統領になったらオバマ政権のやり方を引き継ぐだけで、「彼女には哲学も思想もない」とも言われていました。もともと彼女は自由貿易主義者だったのに、労働組合などの政治票を気にしてキャンペーン中にTPPに反対の立場に宗旨替えをしていることが、この見方の証左です。

 経営者としての実績のなさと主義主張のブレが招く危険性との関連で彼女のリーダーとしての資質を見ています。

 

国民感情の発露

 トランプ氏の人気の背景には、オバマ氏とクリントン氏の二人に代表される、米国民の現政治への不満があると見ています。

 メキシコとの間に彼らの費用で壁を作り不法移民を排除するという発言は、アメリカ自体が移民の国で成り立っていることを考えれば、これも常識的にはおかしい。しかし、アメリカ人の仕事を彼らに奪われていると誰もが思っている。正しいか、正しくないかは別にして、建前が蔓延るアメリカでも、ここには米国民感情の本音が出ていると感じます。

 また、かつて世界の覇権国家を築いたと自負する大多数のアメリカ人は、中東戦略で全く成果を上げていないことでオバマ氏の外交政策に「何故そうなんだ」といらだっていたとも捉えられます。本音は分かりませんが、ISを徹底的につぶして「シリアを石器時代に戻す」というトランプ氏の過激な発言も、この背景が言わせたものとみることができます。

 この意味でトランプの登場を促してしまったのは、オバマ氏に代表される既成の政治集団の責任であるとも言えます。

 結果、オバマ氏はアメリカ国内に政治的な対立のみならず、既成の政治に飽き飽きしていた国民の間に、今度は深刻な分裂までももたらしてしまいました。

 経営的視点では、戦略の間違いで取り返しがつかないことになる、この重要性と関係して見ています。

 

国民の分裂と世界のリーダーシッの欠如

 アメリカの国内分裂はもっと重要な影響を及ぼします。アメリカのリーダーシップの欠如、すなわち、世界の民主的秩序維持の戦略に黄色信号を点したことになるからです。

 アメリカは第二次世界大戦後、IMFの世界金融体制づくり、NATOの軍事同盟の結成、日本との関係では日米安保条約の締結など、世界の民主的秩序維持に努力してきました。価値観は別としても、誰がなんと言おうがこのことはアメリカの世界への貢献だったと思います。

 しかし、ソ連との冷戦が終わってからは、世界のリーダーとしてのアメリカは、新しい世界情勢に対する戦略や組織作りに顕著なものがみられません。特に最近は、台頭する中国やロシアを相手にして、世界戦略を展開する能力がないのではないかと思われる国家に成り下がってしまっているとも捉えられます。

 このような状況下で、世界の覇権を維持する極と国内の政治に専念する極とのにらみ合いの中で、我が国近隣のアジアや中近東、東欧での政治、軍事の対応が遅れてしまわないか。これまでの構造を前提とする日本の安全保障どころの騒ぎではなくなるのではないか。このような危惧が日本で現実のものとなることを予測し、平和ボケの安眠から覚めて、国家の安全保障に対して政治の場でもっと現実的な議論をやってもらいたい。こう思うのは私だけでしょうか。

 経営者に対する不満は、結局組織に内部対立を引き起こして会社のエネルギーを削ぐ、新規事業への取り組みが遅れる、結果としてリーダーシップをとれなくなり、会社としてのあるべき組織をすべてぶち壊してしまう危険性に極似していると見ます。