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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第255回 戦略の策定の大前提—環境認識(9)

Posted on 2017-09-21

前回からの続きです。

 

5) 政府は国民に正しい事実を伝えないこともあるという認識が不可欠です

 政府の言うことを真に受けて、そのまま戦略策定の環境分析に入れると大変な事にもなりうるという認識が、時には必要ではないでしょうか。

 もちろん先のことは私にも分かりません。しかし、どう考えても政府の公約する施策には実現性が乏しそうだというものもあるはずです。

 にも拘わらず、国民や事業経営者が政府の言うことを真に受けて騙される場合もありうる。中・長期的に大きな戦略を考える場合には、このリスクの認識も不可欠です。

 例えば、国の財政とその処理に対する認識です。

 政府が今推し進めている施策でデフレを脱却し緩やかなインフレと日本経済の成長が、本当に実現できるのでしょうか。その実現を前提にした戦略を立てて本当に大丈夫でしょうか。

 

a) 借金大国で、国の財政破たんが現実となる?

 日本の財政は、異次元量的緩和策とマイナス金利政策により悪化の一途を辿っていると、私は思います。

 最近、黒田日銀総裁が、2013年4月に約束した「2年でインフレ率2%」達成時期を、本年7月に6度目の延期修正をして、今や2019年ごろにターゲットをずらしました。

 全く異常です。施策が誤っているとしか思えません。ビジネスの世界で社長が一番の公約を6度も修正できるでしょうか。とっくに株主からその施策に「No!」が出て社長職は解任です。

 「アベノミクス」の一環の異次元緩和で、日銀は国債を年間80兆円購入し続けていると言われています。

 話を簡略化すると、2015年度末時点での国債総額は1000兆円。2016年7月時点で既に400兆円日銀が保有しているとのことですので、残りは600兆円しかありません。年間80兆円くらい買い入れし続けるとすると、新たな国債を発行しない限り10年弱で日銀が買う国債がなくなってしまいます。異次元緩和の供給源が途絶えてしまう計算になります。したがって、彼の言う方法では物価の上昇、ゆるやかなインフレは厳しいことになります。しかも、この国債は明らかに国の借金です。これを誰がどうやって返済できるのでしょうか。

 財政は厳しいと見ます。国債を簡単に返済できません。誇張でなく財政再建計画が完全に崩壊してしまうのではないでしょうか。以前、他の項で取り上げましたが、日本は世界一の借金大国です。大雑把に言えば、既にGDPの200%の借金を抱えている国です。

 この状態で財政再建目標が明示されました。

 「骨太方針2015」です。プライマリーバランス(借金からの収入やその金利負担などを除いた基礎的財政収支のバランス)を2018年度の赤字幅をGDP比1%程度として、2020年度までに黒字化を目指すというものです。しかし、2017年4月の予定されていた消費税の増税も2019年10月に延期されました。今後景気がどうなるかわかりません。2019年夏の参議院選挙の影響もわかりません。こんな状態では、誰が見ても再建どころか赤字幅が膨らむのではないかと言われるほどです。

 支出面からみても、2020年から25年度頃に団塊の世代が75才以上となり医療・介護費も急増します。2015年度には医療・介護費が約50兆円だったのが、2025年度には75兆円に膨らむと予想している識者もいるほどです。

 こうなると、基礎的財政収支のバランスは赤字幅が拡大する要因に抜本的に手を打たない限り、日本の財政破たんは現実のものとなります。

 

b) 財政再建のために政府はどういう手段を講じるのだろうか

 理論的に、財政を立て直すには、収入の増と支出の削減しかありません。経済成長、増税、歳出削減です。

i) これまでの議論の通り、人口の減少などで経済成長は望めません。2016年1~3月の実質GDP成長率は年率換算で7%。人口減、生産性低迷で2040年以降成長率は0%前後で横ばいになるとの識者の計算もあるほどです。

ii) 増税もそう簡単ではありません。2017年4月の消費税率の引き上げですら政治力学で延期されてしまいました。

iii) 公務員の削減などでの歳出の削減も抵抗されます。ギリシャほどではないにしても公務員天国の素地を持っている国です。

 思い起こせば、終戦直後の日本も莫大な借金を抱えていました。朝鮮戦争の勃発で好景気となり一時的には税収が得られましたが、焼け石に水。預金封鎖や財産税も導入しましたが効果が上がらずじまいでした。

 結局、激しいインフレで政府は難を逃れたのです。「インフレ」にして半強制的に所得の移転をはかり、政府が難を逃れる策でした。個人的には私の家族も国から強制的に所得の移転を図られたとの家族の会話がうろ覚えに記憶に残っています。

 今後もこれが想定されるのではないかと危惧しています。これをやると、もちろん通貨としての円は崩壊します。しかし、国の借金を国民が返済したことになります。

 理論的には、上記のことが起こりそうなのに、政府は時々欺瞞に満ちたことを国民に言うので、注意しなければなりません。曰く、「国債のほとんどを日本国内で消化(日本の銀行が購入)しているので、借金があっても心配不要です」と。

 戦前も大量の国債を発行し、その時も政府は同様なことを言っていたとある本に書いてありました。しかし、結局政府の莫大な借金は、国民が上のように「インフレ税」の形で背負うことになったのです。国債が国内で消化できたとしても国民は安心ではなかった証左です。

 中・長期的な戦略立案にあたり、国の政策という環境の妥当性、実現の蓋然性も正確に分析しなければなりません。

 

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