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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第254回 戦略の策定の大前提—環境認識(8)

Posted on 2017-09-14

前回からの続きです。

4) 富の分配と貧富の格差が世界的に拡大するという認識が不可欠です

 

a) 富の偏在が世界的に拡大している

 国際貢献のための南スーダンへの自衛隊の派遣後、安保法制による「駆けつけ警護」撤退のタイミングが平和五原則に違反しているのではないか等と、散々国会で問われていました。どういう言葉を使おうが、私からするとこの地は明らかに戦争・戦闘状態であったと考えます。このようにアフリカでも、また、シリアなどの中東地域でも沢山の紛争が勃発しています。

 他の場所で述べた如く、この根源は経済問題、貧しいことにあると考えますが、現在富の偏在による格差が拡大しているのではないでしょうか。

 ピケティ氏が資本収益率と給与所得と関係する経済成長率の議論から出発する『21世紀の資本』によれば1700年から1820年まではあまり格差がなかったようです。19世紀の産業革命後、西欧各国が新しいマーケットと原材料を目指して、インド、東南アジアやアフリカで植民地政策を開始し、これが欧米に膨大な金や富という資産をもたらしたのは、学校で学んだ通りです。蓄積された資産が子に相続され、労働者には分配されず、貧富の格差が拡大し、20世紀の初頭のフランスでは、上位1%が6割の資産を所有していたと書かれています。

 その後20世紀に入り、西欧の植民地支配から脱した国々では、国民が建国に燃え、人口の増加と生産力の強化が図られました。その過程で国民は富の偏在に気づき、富の再配分を要求する中でいろいろな紛争や動乱が発生し既存の社会構造自体に変化をもたらしています。

 一握りに富裕層に金と権力が集中し、大多数の人々が貧乏な生活を強いられる。これで良いのかと国民が疑問を抱くのは当然のことです。

 イスラムの弱体化は植民地支配により富を奪われたことにある。だからイスラムの価値体系やイスラム世界の復興を目指すとの思想潮流の流れをくむイスラム各派の抵抗運動もこの一端と見るべきです。

 このような運動があっても現実には、富の偏在と格差、すなわち、資本収益と給与所得の差が拡大していることがピケティ氏によって明快に説明されています。我々庶民の実感もこの通りではないでしょうか。

 

b) 市場原理のルールを政治で一部変える選択もある 

 これに対して、所得格差や貧困は「市場原理」によって起きているから仕方ない、避けがたいとの見方があるのも事実です。しかし、これが是とされるのは、市場原理の前提条件が満足いくものである限りです。はたして、その前提条件が満たされているのでしょうか?

 我々は発達した文明社会の中で一定の「ルール」によって生きていることに誰も疑問がないはずです。ルールに基づいて取引が成立しマーケットが形成され円滑な経済活動をおこなっていますが、そのルールは最終的に国の政府が定めるものであるとすれば、時代により変更可能なものである筈です。

 誰か一方を利するルールで富の不平等や格差が生じているとすれば、このルールは中立的ではないことになります。また、人が作ったルールは普遍的でもないということに気づかなければなりません。必要なら民主主義のルールに従って、富の偏在や屋格差の拡大の根源となっているルール自体を修正しなければなりません。

 

c) どの層を戦略的に狙うのか? 

 日本も格差社会に直面しているように感じます。

 日本の一億総中流と言われる時代は既に終わったのではないでしょうか。

 アルバイトや非正規社員が現場の主流を占め、安定した雇用の下で仕事をできる人が少なくなってきています。本来この層が日本の中流階層を築いていましたが、これが今や内部崩壊しつつあります。この層が消費を支えていましたが、支える人が崩壊したのでは、経済の成長と物価の上昇等が理論的に無理な時代になってきていないでしょうか。

 しばらくは先代の遺産でなんとか生活できるとしても、人口オーナス期に突入する頃からそれも厳しくなり、市場原理を一部修正しない限り富の偏在と貧富の格差は修正できなくなるほどにならないかと危惧しています。

 この状況を、一事業経営者が簡単にコントロールできるものではありません。これはむしろ政治の世界での解決に負うところ大です。

 そのような状況下でビジネス戦略を考える時、ある種の視点が必要になります。

 格差社会の中での大衆は誰でしょうか?数パーセントの富裕層ではありません。経済的に余裕はないが、一所懸命生活を楽しんでいる層です。その大衆はどんな価値を求めているか、その価値を一定の中期的スパンで提供できる方法はないのか等、富裕層の消費者を相手にする視点と明らかに違う戦略視点を真剣に考えると解が見つかるはずです。

 

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