


折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第207回 今、リーダーに求められている経営の視座(2)
前号からの続きです。
時代の変化に対応する経営の中でも重要なこと
今、ものすごい勢いで時代が変化しています。特に、技術革新のスピードがただならぬ勢いで進んでいます。この結果、産業や社会の構造自体が変革をきたしているのを、皆さま目の当たりにしておられると思います。まさに情報を中心とした新しい産業革命の真っただ中にいると、私は認識しています。
しかし、この変化の中でも、変わる経営と変わらない、若しくは、変えない所を明確にしたいのが私の持論です。
何故なら、時代の変化に対応した経営をしなければ生き残れない、しかし、変えないことこそ長く生き残る秘訣でもあるからです。
変わるもの--時代の流れ
まず、変わる部分です。情報を中心とした産業革命の主役はコンピューターとネットワークです。最新のコンピューターで人工知能まで組み込み、生産活動を自動化・AI化、IoT化を図ることで生産や流通の最適化、省力化を図る流れがすごい勢いで来ています。
ご存知の通り、生産面のネットワーク化はもともとドイツが政府主導で始め、現場をネットワークで結び国中の工場を結び付けようとしたのが始まりです。工場現場のデジタル化とスマート化を図るものでした。
ところがアメリカでは、国防省を源とするインターネット技術の促進で、更に進めて工場のみならず、産業全体をスマート化しようとする壮大な構想を実現し、今やアメリカのみならず世界を巻き込んだ取り組みが行われています。まさに産業革命真っただ中です。
この潮流は止めようがありません。それどころか、我々の生活に沢山のメリットをもたらしてくれているのも事実です。
自分独自の趣味や嗜好に合ったものを単品で速やかに届けてもらうメリットを、誰でも享受できる時代になりました。数十年前には、これを実現しようとすると大変な時間とコストがかかり、特定の人しか利用できませんでした。大規模生産の経済性からまさに多品種少量生産の中での経済性に移りつつある段階です。
しかも、このようなネットワーク化の傾向は、過去の技術の蓄積を現象的には無にすることも出てきます。卑近な例で言えば、デジタル革命により、アナログの電話網に関わる財産とそれまで蓄積してきたノウハウが、一瞬にしてその価値が失せる事態が発生してしまいました。
また、世界の工場立地や労働力供給の流れを変えてきています。安い労働力の供給源だった国が、一変してネットワークを介した知恵の供給源と化し労働力を含めた生産資源の供給源も激変することにもなります。高い技術力で世界の拠点をネットワークで連結、コントロールし、海外に進出していた工場の生産も日本国内に呼び戻す最近の傾向に拍車をかけることにもなります。単純に労働賃金の比較によるよりも、ITの技術力が世界の産業構造を変えて、しかもリードすることにつながるほどの時代になりました。このように技術の革新が生産や工場立地、雇用などを含む経営の在り方自体を変えることにつながります。
変わらないもの――モチベーションを高めること
ビジネスモデルが上記のように変わるとしても、人間が働きたくなる動機や生産性を上がるために高いモラールを如何に持続していくかなど、人間の心に関係する部分は不変だということが、実は極めて重要なことです。
私が提唱する「農耕型企業風土づくりを通じた経営モデル」の「内臓部」、すなわち、「ソフト部分」の重要さが、逆説的ですが、今後経営上かえって増すことになると確信しているほどです。
このことを考えると、経営トップ・リーダーの仕事は、IT革新の中でも、社員のモラールを高める心の部分を重視する経営をすることが重要課題であることを忘れてはなりません。そのため、ビジョンを提示し、社員を一つの方向に持っていくビジョン型の新しいリーダーシップが求められることになります。
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