折々の言葉
方丈記―今流の読み方(1)
「ゆく河の流れは・・・」
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しく止まりたるためしなし。世の中にある人と住家と、またかくの如し。」で始まる方丈記は、現在の世の中にも非常に含蓄に富んだ内容を持った随筆だと思います。
今の時代の生き方として参考になるところがあるかもしれませんので、私流の読み取り方をここに紹介します。ご存知、方丈記の紹介です。
四畳半の栖に住むにいたった鴨長明の人となり
「方丈記」は平安時代の末期、800年前に鴨長明によって彼の晩年に書かれたものです。彼は中世の知識人とでもいえば良いでしょうか?歌人で神主の息子でした。筝、しちりき,笛、琵琶、琴など音楽も得意としていたようです。
ところが福原遷都の2年前に父を亡くし、職もなく今流に言うと失業状態が一生のほとんどで続いた人のようで、当時かなり高い競争率であった神社の禰宜の職につこうと後鳥羽院の紹介をもらい就職活動をしたのですが、これも上手くいかなかったそうです。
結局、彼は晩年に世を捨て僧侶となり、山の中の方丈(四畳半)の移動式でコンパクトに組立可能な小庵で隠遁生活をするようになりますが、今の時代と言わず当時にあっても少し想像を超えた居住状態の中でこの随筆を書いたといえるのではないでしょうか。
方丈の庵を造るに至る経緯を次のように方丈記で記載しています。
父方の祖母の家を引き継ぎ住んでいたが、これを持ちこたえられず30歳の時にその家を出て十分の一ぐらいの大きさの庵を造る。しかし、その庵は賀茂の河原付近にあり水害や盗賊回避のため引越し。40歳を過ぎた頃から自分の悪運を悟り、長明は元神主の家系なのに50歳でなんと僧侶に転向。
出家して僧侶になる。家族もなし俸禄もなく大原山に小さな庵を作り5年住む。牛車2台でいつでも移動ができたぐらいの家財道具しかない身で、その後日野山に先ほど述べた移動式組立住宅の方丈(4.5畳)の庵を造ったと記載しています。多分バラックのような小屋ではなかったかと想像します。
ご存知の通りこれが方丈記の題名の由来です。晩年、京から鎌倉を訪問した後、数年後この日野山の庵で方丈記を一気に書いたようです。かなり山の中ですが、春には藤の花を見、夏にはホトトギスを聞き、秋にはひぐらしの声を聞く。冬には雪を憐れむと書くほど、この草庵では風流な生活を送っていたようです。
厳しい時代背景の中で生きる人の気持ち
「方丈記」の中で私が注目していることがあります。第一に、時代の変化に対する彼の観察眼の鋭さです。現場に密着して取材をする記者風の彼の観察眼から素晴らしい景色が浮かびます。
23歳頃に大火災に遭い、25才頃には平重盛の治世下、世が乱れ、28歳の時に京都が竜巻に会い、29歳の時に大飢饉。世の中も京都から福原への遷都騒ぎ、33歳の時に京都に大地震が頻発、という平安時代末期の大変な時代に生きた人物です。
皆様が生きてきた今の年代と比較してみでください。
なんでこんなにと思うほど世の中が乱れています。自分が生きることが精いっぱいで、とても他人の不幸に対して救いの手を差し伸べられる余裕すらほとんどの人に無かったのではないかと思える無常観あふれる時代背景です。
「方丈記」には、平安時代という400年続いたひとつの時代がガラガラと音を立てて崩壊していく様を目の当たりにし、また数々の天変地異などを経験した描写を通じてこの時代が象徴的に描かれています。個人は不安を横目で見ながらも、体制や歴史は本人と全く無関係に変な方向にどんどん動いていく様を彼自ら体で感じていることが読み取れます。まさに時代の変わり目を鋭く観察・描写しています。
この描写を読んだ時、私にはここ10年間余のいわゆる「失われた時代」に育った最近の若者の残念な境遇や時代認識とダブって見えました
彼らは物心ついた頃から物価が下がる、給料が下がる時代を生きてきました。時代そのものがデフレです。職がない、今日より明日が悪い、親の時代より時代がどんどん悪くなっていく、鴨長明が生きた時代は、今の時代背景の認識と共通なところがありそうです。自分を守ることすら大変な状態で、他人のことに対して主体的な責任を持ちたくても持てない、残念な時代に置かれた今の若者とダブリます。
「変革」のためにどのようなリーダーシップを発揮していますか?(3)
前回からの続きです。
多様なキャリアディベロップメントへの対応
社員の多様性にいかに対応するかが今後の「変革」にとって重要です。経営者やリーダーは、このことを発想しておかなければなりません。
私が経営を任されていた時代でも、社員の価値観や要望が多様化していました。しかし現在は、さらにその速度が増してきているのではないでしょうか。
例えば、アルバイト層の会社への入社動機です。以前はほとんどのアルバイト社員がある限られた目的を持って入社したと推測されるのに、最近は、必ずしもこの前提が当たっていないかもしれません。
だとするとそのような人には「十把一絡げ」的な対応をすると感謝されないアンマッチとなることが多くなります。人事施策はこの状況に追いついていかなければなりません。
複雑なことですが、顧客のサービス導線が多様化するのと軌を一にしていると理解した方が得策です。人が財産である限り、経営上の出口のみでなく、入口のことへの対応が遅れるわけにはいきません。
他方、入社するアルバイト層へも世の中の状況を理解させるような指導をすべきです。今がどういう時代になっているかの客観的傾向を洞察してもらうことです。
まず、高度成長の右肩上がりの時代はあまり期待できないことです。右肩上がりの成長の過程でいろいろなことが解決したこともあるかもしれませんが、今は、自己のキャリアディベロップメントは右肩上がりを前提にしないことが得策です。
さらに、仕事の内容が専門細分化する傾向にますます拍車がかかっていくことを認識することがプロになるための生き方であることを彼らに学んでもらう必要があります。つまり彼らに、自己の専門分野に他の領域から他の知識を持った人が参入してくる競争リスクを最初から抱えていることを前提にした契約をさせるということです。
より専門性の高い人に自分が代替されるのは当然のことと理解させ、理論など普遍性のあることを仕事の中で学んで、自分のプロレベルを上げていかざるを得ない仕事観を彼らが持つよう普段から指導することも「変革」のためのリーダーの仕事の一つです。
心を動かすメッセージの伝え方
変革のためリーダーシップの発揮でいろいろなタイプの経営者がいますが、Why(理由)からHow(手法)へ、さらに、What(何を)の順に考え、行動する人が多いと言われています。Why(何故)からの発想です。
私も期せずして、この形の発想を重要視して行動に起こしていました。
「マーケティング・コミュニケーションサービスを提供するNo.1カンパニーになります。なぜならば、・・・」と、社員に具体的な個別の商品をアピールするのでなく、まずこの理由(Why)の「・・・」の部分から情報発信していきました。
私は、志の内容を経営理念で明確に表現していました。
理念実現のため戦略絵図と具体的作戦を示し、理解を得ながら組織を束ね、全社員に作戦を浸透させました。Whyを現実にするために、How(実現方法)を述べました。
What(何を)するかは、あらゆる機会や場を利用して言葉で表現し、幸い、「6つの約束」(社長就任後のコミットメント項目です。詳細は、『これからの課長の仕事』に譲ります)を実現できました。
経営を取り巻くこの行動原理が人間の脳の構造と関係することを、私は『WHYから始めよ!』(サイモン・シネック著、栗原さつき訳)から知りました。
脳の外側の新皮質はWhatの部分に相当し、合理的で分析的な思考や言語機能をつかさどるといわれています。脳の内側の大脳辺緑系はWhyとHowに関係し、感情や行動、意思決定機能をつかさどっており、言語をつかさどる機能はないと記載されていますので、Why(理由)、How(手法)、What(何を)の順序で発信することが経営上も大事です。
コミュニケーション方法として内から外に、つまり最初に相手の意思決定をつかさどる脳の内側の部位に訴えかけ、その後に言語をつかさどる脳の外側の部位に情報を伝えれば、感情による決定が合理的なものになっていく、プロセスを踏んだやり方となるという記載もあります。
いろいろな会社のメッセージの伝え方を比較してみてください。変革のための社員に心を動かすメッセージの伝え方の参考になると思います。メッセージのWhyの部分で、その会社の理念に共感する顧客もいるかもしれません。
Whyの連鎖で考える
いろいろな課題が発生してくると、その課題の原因よりもどうしても結果に焦点を当てやすくなります。結果はよく見えて誤魔化しようがありません。
しかし、この結果は何らかの原因があって初めて出るものです。
そこでWhyの連鎖で疑問を突き詰めていくと、その原因が少しずつ浮き彫りになります。この原因をベースに課題解決へ進むと、会社にとって生産的な議論ができることになるはずですが、実行を急ぐがために、このプロセスが尻切れトンボ状態になりがちです。素早く課題に反応することと原因をベースにした課題解決は、全く次元の違うものです。Whyの連鎖で変革を志向し、物事を根源から正す方が結果として早く終点に到達すると考えます。
「変革」のためにどのようなリーダーシップを発揮していますか?(2)
前回からの続きです。
仮説をたて、とにかく早期に実行
「仮説をたて、その結論を出して早く実行に移す」習慣を社員に身に着けさせることは大変重要なことです。時間が収益を生むことを実践で徹底することです。
私の20年間の経営体験から言えば、時間と時限の概念が徹底されないところに、企業の発展は望めません。
スピードが猛烈に早い時代、「今すぐやる」ことが競争に勝つ方法です。出した結果をできる限りスピードをもって実行に移し、それを検証することです。
情報が十分集まっていない場合もあるかもしれませんが、その状況下でもとにかく最善の結論を出して走り出すことがポイントです。
競合各社と競争をしていることを忘れているのではないかと感じる会社に時々遭遇するのは残念です。
もちろん、人事施策等、後戻りできないことはしっかり考えた上での走り出しが必要ですが、大半の施策は、行動、検証分析のプロセスによってより良いものに修正可能です。スピードが無い限り、競合に先を越され負けるリスクがあることを、リーダーは社内に周知徹底しなければ「変革」につながりません。
仮説をたて、結論を早くだし、時限を設けて実行し、必要な修正を加える習慣を全社で徹底することが、商売のチャンスを失わないことにつながりますし、アクションに結びつく結論をだす戦略策定の過程で、結論を導く理由や成果が出るメカニズムが以前より明確にもなります。こうすることで、社員が自主性を持った「戦う集団」に少しずつ変わってくるはずです。
現場に近いところに権限を与えることでスピードと機敏さを大事にし、まず結論を出して進んでいくのはいかがでしょう。
また、企業が人と組織で動いている限り、中間層を活性化する策を講じることが必要です。活性化と甘えとは相いれない思考です。中間層には過去の成功体験が少ない社員が多いのですが、彼らの姿勢は新しいことを実現したくてウズウズしています。この層に企業変革の牽引車になってもらうのです。特に、影響力のあるトンガリ人間に。
また、今はデジタルで物が製造できます。誰でもどこでも作れる状態になっていますので、外注や企業内部の組織や体制もデジタル製造の環境変化に対応して、優秀な外部組織を上手く利用するように変革することです。競争条件を働かせて、利益を上げるためにあらゆる資産を利用して、とにかく仮説を早く実行に移し検証する組織にすることが必要です。
「捨てる」ことと「捨てない」ことの峻別
会社が新しい時代にマッチして成長していくためには、脱皮が不可欠なことは論を俟ちません。ただ、脱皮しても従前と同じ形で現れるのでなく、できれば過去を捨てて違う形で表れてほしいものです。「捨てる」ことは怖いのですが、その決断が必要です。
「会社の財産だからこれは捨てがたい」という言い分をよく聞きますが、他方で、たくさんの社員がもし退職しているとすれば、「会社の財産」の内容をどう考えればよいのでしょうか。
会社がここまで成長してきたのは会社の財産たる強みがあるからです。強み、すなわち、「頭の中に潜んでいる知恵」があるからです。社員の心の中にも沢山の「潜んでいる知恵」があるはずです。
大事な社員を捨てることは「潜んでいる知恵」を一部捨てることにつながる相当な決断です。会社にとって社員と社員を含む組織が一番大事なはずですから、同じ「捨てる」でも、本当の財産は捨てない経営が必要です。それぞれの会社で違う事情があると思いますが、社員が退職する本当の原因がどこに起因するかを、深く考えて必要な修正を加えるのも大事なことです。
酷なようですが、経営陣やリーダーの鏡が社員だとすると、社員に映る経営陣の姿は原因を探る糸口で、意外に単純な所にあるかもしれません。仮に人材という財産を大事にしているにも拘わらず社員に甘えの構造があるとすれば、リーダーシップをとる側の甘えや不備が鏡である社員に反映しているのかもしれません。将来の発展のために真摯に考える必要があります。
「変革」のためにどのようなリーダーシップを発揮していますか?(1)
社員を大事にし、社員とともに成長するという基本的な考え方
経営者やリーダーが自己の志を実現していく過程で、社員の支持を継続的に得ながら会社を変革させていくためには、常に社員を安心させ幸せにしていく基本的なスタンスを持ちつつ、しかも、いろいろな場面で変革のための施策を確実に実践していくことが肝要だと私は20年の経営体験で分かりました。
逆に社員のことに余り配慮せず、社員が経営者などリーダーの志に協力しがたい雰囲気の中で成長している企業は稀有だということも分かりました。
幸せの概念は多様です。
成長できる環境、人間関係など個人の価値観によって幸せの概念には違いがあると思います。しかし、少なくとも概念の構成要素として、会社の置かれた状況を踏まえた上で、社員個々人が安心感を持ちながら成長している実感があることが不可欠ではないでしょうか。
社員が成長を感じるのは?
では社員はどのような時に十分な成長を実感出来るのでしょうか。
私の経験では次のとおりだと思います。
- 仕事の裁量を与えられ、日々の仕事に主体的に取り組んでいる時です。
- 成長プレッシャーを感じつつも挑戦的な仕事ができ、結果に対する成果意欲が湧く時です。
- 必要な時に適正な返事が返ってくる良き上司に恵まれている時です。
- やりたい仕事につけた時です。
- お互いに教えあい、協力できるチームワークのある職場である時です。
- チームとしてのコミュニケーションが円滑に実施されている職場環境がある時です。
経営者やリーダーは、上記の点を踏まえた上で変革のためのリーダーシップを発揮してはいかがでしょうか。
変革へのリーダーの心構え
変革のリーダーシップを発揮することはそう難しいことではありません。ただ最低限、次のような心構えがあったほうが、成長意欲を持つ社員をうまく巻き込めると思います。
いろいろな所で引用されていますが、William Arthur Wardという著名な作家で教育者が言っている言葉を思い起こします。
凡庸な教師は、指示(tell)をする、
良い教師は、説明(explain)をする、
優れた教師は、模範(demonstrate)を示す、
そして、偉大な教師は心に火をつける(inspire)。
この最後の言葉に気をつけたいものです。
第一に新しい夢や目標を自分の言葉で語り火をつけることです。
リーダーたる人は、部下の心に火をつけ(inspire)なければなりません。火のつけ方にはいろいろあると思いますが、新しい夢を語るのも一つの方法です。
夢のない人に部下を任せると、部下の信頼を勝ちとって人の集団をまとめるのが厳しくなり、結果として部下の心に火がつかないどころか、逆に部下の心に火がつく前に彼らの心が萎えてしまうからです。またリーダーが、新しい夢を語る相手の人間に興味を持つことが大切になってきます。
第二に、正しい指示と報告をする習慣をもつことです。
指示と報告は対ですが、まずリーダーの正しい指示が適切なタイミングで出されることが大事です。
そのためにはエンドのところを洞察したリーダーの深い考えが前提となります。
結論の先を見越さない指示は、プロの指示ではありません。方向性が全く定まらない議論のみで、出たとこ勝負の判断をしやすいからです。
しかも、指示は相手に伝わってナンボの世界ですから、相手の言葉で相手を尊重して正しく伝えることが不可欠です。エンドを想定して、一人一人との対話を通じて個人の性格や人間性を観察して指示をだしていくことが前提です。個別対応です。併せてその指示が部下の末端まで通じたかを見るために、要点をリーダーが質問するなどして、指示が正確に末端まで浸透したかのチェックすることも必要です。
自分の体験でも、この通りにはならないことが多いのですが、「忍耐力」を持って努力をし続けるしかありません。
まず考えること
リーダーとして変革のために「考える」ことに一番時間を費やしたいものです。
「限られた時間」の中で会社の発展のために時間を有効に使うことが大事ですが、重要なことに時間が使えないのは、リーダーのスケジュールの立て方と部下への仕事の指示の仕方に原因があることも想定すべきです。
代替できそうなことは他の人に任せて、あえてスケジュールを入れないことです。私の場合、ある時期スケジュールが詰まっていないと安心できないこともありましたが、今振り返ればその時期はただ忙しいだけで、本質的なことに時間を費やせていたかを疑問に思うほどです。
特に最近の企業間の競争では、商品の性能に加えて商品のコンセプトやサービスのデザイン次第で顧客に受け入れられるかどうかの価値が決まると思います。この傾向に対応するためリーダーが、会社の変革のための新商品や新プロセスを考えることに時間を費やすことの重要性は論を待ちません。
「ゼロベース」思考の奨励
またリーダーとして「ゼロベース」で考え、さらに奨励される風土に変革することが必要となります。
新しいことを考え発想することが、評価される企業風土です。環境変化が激しいので、その変化に追いついていくために組織として新しいことへの挑戦は不可欠で、競争上にもプラスに働きます。
ゼロベース思考とは「それをやると、必ず失敗する」などといった、新しい発想を排除する既存の発想に凝り固まった論理思考と真逆の思考で、時間を前向きに使うことにもなります。
リーダーは「それをやると、必ず失敗するよ」というような物知り先輩のコメントをやめて、「少しでも上手くそれを実行ためには、何をどうしたら良い?」といった問いかけを、部下に投げかける習慣にしてはいかがでしょう。リーダーが「顧客に今よりさらに当社の商品を選択してもらうには、サービス導線をどうしたら良いか?」など顧客視点を前面に出した質問を、部下に投げかけるのも方法です。「ゼロベース」思考から少しはなれられますが、これに応えるためには、社員自身が結構勉強し「考える」ことが必要になるはずです。
このような質問をしても、すぐネガティブな方向に議論をむかわせるクセを持っている人がどの組織にもいるのが事実です。これは本人が悪いのでなく、これまでの経営のやり方からの蓄積で、そのような風土がなっていると考えるべきです。
「ゼロベース」思考があらゆるところで芽をだし根付く風土に変革するきっかけをリーダーがつくることです。
マーケテイングの概念を少しでも先取りしていますか?
私が推進してきた経営をマーケテイングの潮流と重ねあわせてみると、ある意味で1990年代のマーケテイングの流れを、上手く先取りしていたことに気づきます。経営に携わる方々はご自身の経営の参考になれば幸いです。
人間臭い経営とマーケテイング潮流の変化への洞察
1980年代に入り、マイケル・ポーターなどによって競争戦略が経営的マーケテイングとして主張されだし、ROI(投下資本利益率)の尺度やミドル層のマネジメント技法が盛んに議論され始めました。
私も、経営をするために「4P」の原則やマイケル・ポーターの競争戦略を勉強しました。新しいマーケテイングの概念をタイムリーに勉強することができました。
しかし、何となくこれらの論理に馴染みませんでした。経営している企業の発展のためには、これらの理論が少し実態にそぐわないと感じたのです。
数字先行のテクニカルな議論に終始し、社員という人間の「心の部分」を忘れている印象を何となく持ったのです。私自身は社員の心や顧客の心をどう掴み、彼らと一緒に成長することが経営上必要で、それがマーケットの流れの変化であると感じていました。
ちょうどこの頃、私はある会社の経営を託されました。
実質倒産状態の会社を建て直すために志をたて、これを経営理念に定め、関係するあらゆる対境者を顧客とみなし、顧客とのより良い関係性をいかに実現するかの視点で、顧客のファン化のため「人間臭い経営」を意図的に進めていきました。
具体的には、事業のコンセプトの「軸」をぶらすことなく、賑わいの「場」をつくり、社員との垣根のない良好な「湿り気のある人間関係」をつくる一方、中・長期的な利益をあげることを目指しました。特に経営上、私は「社員をどう幸せにするか」を最優先に発想していました。社会の構成員としての義務を全うし、会社の品格を磨く努力をした結果、世間から一定の評価を得る会社になることができました。
マーケットの変化をいかに洞察するかは経営のセンスによるところが多いとは思いますが、懸命に生き残る、競争に勝つことを考えれば、自ずとその方向性を見いだせるものと思います。
顧客の声を聴くこと
1989年にアメリカは、自国の企業の優位性を保持するため、「マルコム・ボールドリッジ賞」という国家的制度を制定しました。
私は、顧客に焦点をあてた「マルコム・ボールドリッジ賞」のコンセプトがより体系的であることに気づき、当時幹部社員であった江頭さんとともに、とにかくその内容について勉強しました。米国で行われたセミナーに出席し、あるいは、デイスカッションに参加し、われわれ日本流の経営手法を紹介する機会も持ちました。
このマーケテイングの流れが、私の経営の流れと上手く同期していたのです。
ビジョナリーカンパニーの概念もこの頃言い出されてきましたが、ある意味で、既に私はこのような考え方を会社経営に取り入れていましたので、私にとっては特に目新しい考え方ではありませんでした。ハリーハンセンも顧客主義の重要性を主張してきましが、それまで私が経営上最重要と考えていた、「顧客の声を聞け」とほぼ同一の考え方であると自信をもちました。
当時私は既に、年令や性別などといった人口統計的特性で「売りたい人」を特定化してターゲットを想定するよりも、顧客の考え方や価値観から「買いたい人」が「その商品やサービスの何に魅かれているか」の「顧客の声」を大事にした施策を打ち出していました。
このようにみると、マーケテイングの流れを先取りしていたことになるかもしれません。
その結果として顧客主義を日本的に独自に展開し、「農耕型企業風土」づくりを徹底して進めたことが、以後の会社の成功につながった一つの要因だと今でも考えています。
その後、「1:1マーケテイング」(個別対応)が重要視されてき、これに対応すべく組織も「小さな商店とその経営者」の発想を取り入れ、少しでも個別対応を目指そうといろいろな方策もうちだしました。
マーケテイングの流れを少し先読みして経営を展開することがいかに企業の成長につながるかを実体験した次第です。




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