折々の言葉
本物の人間力
私は沢山の本物の人物に恵まれました。
一般的な言葉で言う「著名な人」ではありませんが、市井の中に本物の人物がたくさんいることを体験しました。ある会社の経営を託され、その経営に尽力する過程でたくさんの人と出会い観察する機会が多かったことが幸いしたかもしれません。
「真金不鍍」
本物は「真金不鍍」と言われる通り錆びません。
しかし本物と偽物の区別は結構難しく、個別の現象を一定期間累積して見るしかありません。
義務ではないのに人が集まる、その人から人が離れない、人が指導を乞ってくる、このような人に出会いました。
他の言葉で言い表せば、対価や役職を要求せず相手を扶助する精神があり共感性が豊かで、厳しさの中にも優しさがあり、誠実で約束を破らない肝が据わっている人と、表現できるかもしれません。
集団を引っ張る力
私が経営を託されていた会社の福岡の支店に、清水和仁君という人がいました。今も他の会社で活躍・チャレンジしています。
彼の集団を引っ張る力は他の追随を許さないほど力強いもので、多くの人との接点、つながりを大事にしていました。おまけに、彼の業務能力も抜群でした。
集団に不利なカードが回ってきた時の対処法や、並行的に複数のことに同時に対応して集団のリスクを分散することも常に考え、最後は自ら集団のリスクを取る用意がある人で、根は楽観的で魅力的な男でした。
その一方で集団が調子に乗りすぎずないように引き際をわきまえ、どこかで集団のツキが落ちることを前提に、早めにゲームを切り上げる判断力もわきまえている男でした。
顧客の声を聴く力
また消費者の声を会社としてどう活かしていくかに、彼ほど熱心な人物はいませんでした。
企業活動の中でまずその企業が顧客に何を約束するか、この約束履行に対して誠心誠意、心から実行する意思がまず顧客に見え、かつ伝わることが肝心です。
私の言う「サービスデザイン」と関係してきます。
形のみが整備されていても、この意思と実践力が顧客に見えない時には、顧客対応の仕組みが形骸化してしまいます。」これを回避するために顧客訪問などを通じて会社の約束事を守ろうとする清水君の誠心誠意な行動には、本当に頭が下がりました。
約束の履行に対する反応として、顧客からいろいろな意見が会社に寄せられます。手紙、電話、メール、ソーシャルメディアなど、方法はいろいろあります。問題は、この顧客の声(Voice of Customer)を吸い上げる努力にかかる知恵とエネルギーを惜しまず、顧客の声の表面だけでなく、言葉の背後に潜むインサイトをどう掴むかです。
経営者であった時、私はこの視点を一番大事にしていました。
分析手法もいろいろありますが、ポイントは顧客にどう喜んでもらえるかという視点で顧客を観察することです。清水君はそれを一番わかり実践していた人の一人で、非常に優れていました。
彼はインサイトを何とか見つけたいと、顧客と日常的に接点を持っている人々を通じて、彼らが顧客との接点で「一番嬉しかった」ことを口頭や紙面に述べてもらう「場」を持つことを頻繁に実践していました。顧客に喜んでもらった個別事象から、さらに顧客に喜んでもらう知恵の塊、インサイトを現場の社員から発掘し、ファン層も含む顧客の口コミなどの醸成、拡大で顧客と一緒にさらに良いものを創るためです。
幹部を育成する場所
福岡にあったこの支店を、私は次の経営幹部を育成する「場」と位置づけしていました。明示的ではありませんが、次の幹部候補の人材はこの支店の長を経験させることにしていました。
それは、清水君などが中心となって石城君、鶴田さん、丸山さん、河津さん、角田くんなどあげたらキリがありませんがこの支店が、集団の状態を効果的に特定の目的に引っ張り仕事を遂行する能力を組織として持っており、会社全体の良き企業風土を伝承していると認識していたからです。この支店には清水君のような人物が沢山いるので、どんな幹部候補者が赴任してきても、良い経験と企業風土を体験し、確実に成長してくれるからです。
人間力の評価
人を評価するのに人事考課という制度があります。
この制度は会社の目的、目標を踏まえて、個人の目標の遂行度に対する上司の評価として客観的に数字に表れるものと、主観的だが数字や度数に換算し直したものの構成要素を総合集計するのが一般的です。
人を評価するのに、人事的には給与の上下と連動させるために、その総合点で評価するのが一般的ですが、私は、評価項目の個別の内容を見ることも重視していました。
個別の内容を業務遂行のスキル力、構想を練る力、人間力などに分けて評点づけがなされるとすれば、先ほどの清水君の例では、彼の人間力が最上位に位置付けられる人物でした。人生と同様、組織としていろいろな難局があろうとも、彼はその人間力で、集団を無手自在に良い方向に引っ張ってくれる人物の一人です。
そろそろ金(カネ)中心の発想を転換すべき時期と思いませんか?
アメリカでも数か月前に、中央銀行が国債引き受けという「禁じ手」を実施したのは、皆様のご記憶に新しいと思います。
しかし、その施策以後もマーケットは安心できるとは言えない状態が続いています。
また、格付会社のスタンダード&プアーズがアメリカ国債をAAAからAAプラスに下げたのも衝撃的な事実でした。アメリカに頑張ってもらわねばなりませんが、私は、かつてのドル機軸の経済通念が、ここにきて完全に揺らいでいる印象を持ちます。
かたや、ギリシャの財政危機に端を発して、EU圏を中心にヨーロッパでも金融危機がなかば恒常化しています。スペインの財政危機もとりざたされ、救済措置が講じられる報道が発表されていますが、どう具体化するのかが何となく見えてきません。あわせて、EU内では国民や国の間の所得格差が大きくなり、社会での二極化現象がでてきている報道があります。
実態として経済は、非常に不安定な状態が続いていると私自身は認識しています。
こうした中で我々は、特にアメリカという国をどうとらえたら良いのでしょうか。
行き過ぎた金融資本主義と「人間中心の経営」
大学で「需要と供給の一致で最適解を見つけられる」ことを市場論理として教わってきました。確かに、この論理でわれわれの物理的生活水準が上がってきたのも事実ですが、一部の金融機関を中心にした昨今の行き過ぎた金融資本主義、すなわち、実物取引とは乖離した実質資産の裏付けのない投機的な取引がマーケットを凌駕しているのは如何なものでしょうか。非常に憂慮すべきことだと、私は考えます。
私は、「農耕型企業風土」づくりを通じて継続的に企業が発展するには、このようにカネを中心に物事を考える習慣を今や大きく軌道修正し、「人間中心の経営」発想をすべきではないかと警鐘を鳴らしている一人です。
なぜこのようにカネ中心の発想をするようにことになったのでしょうか。
それは、アメリカ人が本源的に持っている考え方と関係しているかもしれません。私は1961年、AFS留学生として、ニューメキシコ州というアメリカ西部の高校に留学して、彼らの考え方に強烈な印象をもちました。
19世紀後半までのアメリカでは、カリフォルニア、テキサス、ニューメキシコ州やこの近辺で西部開拓が行われました。新しい市場を開拓して、そこから富を探して得ることが、彼らの考え方の根底に染みついていると思います。ところが20世紀後半頃、西部が開拓しつくされました。
そこでアメリカは、新しい市場を求めて海外に進出しようとしましたが、その途端にそれらの地域はすでにヨーロッパ列強が押さえている、即ち海外にも開拓するところが亡くなったという事実に直面したのです。一部地域では、アメリカは武力で奪う方法も取り入れました。しかしアメリカは、武力で彼らのテリトリーを奪う戦略より、むしろ金融の力で市場を開拓し、最終的に支配できることに着目したのです。
アメリカの頭の良い仕組みと日本の対応
アメリカは賢いシステムを構築したものだと、批判的な立場から私は感心しています。
アメリカは米国債をどんどん刷り、米国の借金を増やし世界の金(カネ)をアメリカに流入させたのです。アメリカはこの金を上手く使い、経済発展を実現させました。アメリカが外国からの安い輸入品を購入するので、アメリカに物を売る立場の相手国も輸出でメリットを受けハッピーです。かつての日本や中国などのように、輸出でメリットを受けた相手国が、儲けた金でまた米国債を買います。そしてアメリカでは需要に合わせてさらに国債を刷る、というアメリカにとっての善循環になるのです。債券を刷り現金をばらまく作戦で自国が繁栄を享受する方式です。モノとは関係なくカネがカネを生むアメリカにとっては好都合なシステムなのです。
その考え方は今も根底で踏襲されているのではないかと思います。こう考えると、最近のアメリカの戦略の裏側が見え透いてくるようです。
ここ数年で、世界のGDPの3~4割を占めるといわれるアジアの市場にアメリカが深く関与・開拓し、多少極論すると、そこから富を奪う作戦ともみえます。それを実現するために、アメリカは市場開拓のためのルールを、時に簡単に変えてきます。
彼らはまずカネをばらまきます。相手国が喜ぶのも束の間、次にそれ以上のカネが自国に流入する論理を前面に出して、いろいろな経済交渉をしてくると思います。
日本も参加するか否かで国論が統一されるところまでは至っていませんが、TPP交渉も含めてアジアの舞台でアメリカがこの様な姿勢で臨んでくるのは、彼らの論理からすると全く不自然ではなさそうです。
問題は、これに日本を含むアジア各国がアメリカの論理にどういう戦略で臨むのかという、こちら側の問題となります。政治に、このような認識と交渉力量を望むのは私だけでしょうか。
今、日本の政治は何の戦略も打ち出せず、停滞しているように私には見えます。スピード感と、アメリカ的手法でない我が国独自の戦略構想が見えません。「これからの日本」の発展のために夢のある将来像を打ち出してもらいたいと望みます。
継続的に伸びる会社は何が違うと思いますか?(2)
私の著書「これからの課長の仕事」、「これからの社長の仕事」の中で「農耕型企業風土」づくりで会社を成長させるための「フォーミュラ」について述べ、2012年10月12日の本コラムで継続的に伸びる会社のポイントを違う側面から言及しましたが、今回はその続きを述べます。
社会のために「人つくり」の視点
よく「儲かる会社」、「儲かる事業」などと表現されます。この表現は、会社としての最大の目的が沢山の顧客を発掘して結果として利益をあげることだとすれば当然で、所期の利益を上げて株主に還元するためにも最小限必要なことです。
しかしながら、もっと大事なことがあると私は考えます。
それは、その会社が業界の中で社会にためにどんな橋頭堡を築いたか、築いていこうとしているのかということです。長い事業スパンで考えると、それこそが、その会社の価値を決める違いになるのではないでしょうか。
社会のために何を築くのかは、その企業が置かれた立場や業界の特色によって違いがあります。
しかし、多少の違いはあるとしても、「人つくり」という仕事はどの会社にとっても競争上で一番の橋頭堡になるものと私は考えています。その意味で、多少コストがかかっても「人つくり」を重要なターゲットとすることは、非常に多くの意義があるのではないでしょうか。
Whyを考える「人つくり」
この「人つくり」でも「How to」にたけている人よりも、「Why」を考える人こそ重要だと思います。
細かい情報が沢山氾濫している現在、ある問題に対して解答を得るためのHow toを教える人やその機会が沢山あると思いますが、思考のルートやヒントを与えてくれる人や機会が少なくなってきてはいませんか。
人間がレベルアップしていくには、起こりうるいろいろな事象に対して、それを克服するための応用問題を解く能力が要請されます。
また、応用問題を解くアプローチも沢山あるという理解が重要です。選んだそのルートは、その応用問題のみは早く解けるが違う応用問題では限界があって苦労するようなルートかもしれません。ルートの選択で思考するクセもつきます。そのような素養を持つ「人つくり」を心がけたいものです。
「仕掛け」造りの工夫
継続的に儲かる会社には、「仕掛け」があります。
週間報告書(週報)や月間報告書で対話をするのも、私が取り入れていた「仕掛け」の一つです。この「仕掛け」を習慣化していました。
本来は報告書のファーマットで学習させレベルアップすることが目的です(その詳細は先述の本に譲る)が、一定期間に実行したこと、できなかったこと、人間関係を含めて悩んでいること、会社への提案など何でも記載結構です。
何でも記載可能な形にしていましたので、上司と部下のある種の交換日記的役割も全うしていました。報告書の中に「隣のAさんが最近沈んでいるようです」などの一言の記載から、実はAさんでなく本人が沈んでいることを表現したものと察し、必要なサポートをタイムリーに差し伸べることに成功したこともありました。
上司を通じて私も週報を読み、コメントを手書きで返すことで「対話」を継続的に実施することにしていました。
また、イベントも大きな「仕掛け」として年2回大規模に実施、習慣化していました。
このイベントで社員、同期社員、家族、従業員と会社の一体感を醸成するのです。日頃の労苦に会社が感謝の意を込めて開催するこの収穫祭のイベントを、皆楽しみにしていました。「その一瞬で半年の苦労も吹っ飛び、また新たな気持ちで頑張ろうという意欲が湧いてきた」という感想を聞いていました。
メンターと言う制度も一時期作ったことがありました。新しく入社した新人は右も左もわかりません。そこでいわば本人の「里兄、里姉」的に「里子」である新人をサポートするものです。皆から信頼される社員をメンターに充てることで、その新人の以後の成長度に大きな違いがあることに気づきました。新人のサポートをすることで、メンター自身も成長することにつながりました。
決裁の承認の関門をなるべく少なくしました。
組織をフラット化して稟議の関門を少なくすし、やりたい人が自己の才能や思いをなるべく障害なく実行出来る「仕掛け」にしました。特に、新しいことにチャレンジするような案件には前例がないが故に、提案者にとっては稟議承認で消極的な関門が多くなりやすいものですが、そこを省力化して若手のやる気を応援するためでした。もちろんコンプライアンス上のレビューは当然必要なことですが、会社が大きくなると自分の存在感を主張するために、何かに意見や文句を言う人が多くなる傾向がありますので、これを回避してチャレンジする心を応援する「仕掛け」です。
クオリティー改革など、いろいろなアイデア・コンテストも実施しましたが、これはなるべくたくさんの社員をこの企画に巻き込み、隠れた才能を持った人を発掘するためでした。優れた考えを持った社員が沢山いました。良い企画には褒美のみならず、それを実行に移すことを会社として担保し、単なるショウに終わらせない工夫もしました。
その会社の置かれた事情で「仕掛け」の内容は異なると思いますが、この「仕掛け」を習慣化して、継続的に会社の仕組みの中に組み込むことが不可欠です。
オープンなコミュニケーションができる土壌
継続的に儲かる会社には、円滑なコミュニケーションがあります。
組織に「甘えの構造」がみられる場合には、限られた閉鎖的なメンバー間でのコミュニケーションのみで満足していることが多いものですが、これでは限界があります。組織内に全員がオープンにコミュニケーションできる「場」が欠落していることで、会社として本来持っているエネルギーが失われてしまいます。
特に幹部社員には「マネジメントの定石(参考:「これからの社長の仕事」)」として、オープンなコミュニケーションを実行させる習慣を身につけさせることです。簡単そうですが、これには結構努力が必要です。一度はできても継続的に実行することが危うくなることもあります。
また、幹部社員が忙しいこととオープンなコミュニケ-ションが無いこととは、全く無関係です。多忙は隠れ蓑で言い訳以外の何物でもありません。一方的な上意下達の話のみで、部下の立場に立ったコミュニケ-ションができていないかもしれません。
コミュニケーションをよくしようとする本心があれば、どんなに忙しくてもコミュニケ-ションの工夫によって閉鎖的な部分をけん制・打破でき、素晴らしい企業風土をつくることにつながります。
継続的に伸びる会社は何が違うと思いますか?
私が経営にとって重要なポイントと日頃考えるところがあります。
「これからの課長の仕事」、「これからの社長の仕事」(ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりで会社を成長させるための「フォーミュラ」について述べ、そこでポイントを説明しましたが、今回は継続的に伸びる会社のポイントを違う側面から言及します。
チームの中で活きる個々人の能力アップ
第一に、社員一人一人が自主性と能力を持ち、それぞれが機関車の機能を全うできることです。個々の社員がエンジンを持ち、部隊を引っ張っていける能力を持つことです。
その為には、詳細は前述の本に譲りますが、個人の能力をチームとして発揮できるようにする「企業風土」づくりが必要です。
スピードある行動力の維持
第二に、組織風土としての駆動力、行動力が必要です。環境、技術革新やマーケットの変化への、企業の迅速な対応力と言ってもよいかもしれません。
経営戦略を描くことも肝要なことですが、オペレーション上齟齬がなく実行(行動)できるということが担保されない限り、利用者への訴求力は弱まります。企画が実行された段階ではじめて様々な顧客のリアクションが出てくるからです。
時に、企画自体の変更や、サービスプロセスの高いレベルの変更を余儀なくさせることになるかもしれません。スピードをもった行動力で変化対応する柔軟な組織風土が企業を救うことにつながるのです。
特色ある仕組みをプラットフォーム化
第三に、すばらしい特色ある「仕組み」をつくることです。システムも含めたいろいろな仕掛けを仕組みにすることです。
自社のサービス商品提供のためこの仕組みを最初につくるとしても、ゆくゆくは自社以外の他社を含めて共同で利用できるプラットフォームにすると、更に会社の持続的な発展につながる考え方もあります。小さい会社にとっては非常に難しいことですが、第三者が魅力を感じるほどの仕組みやプラットフォームでない限り、その会社の差異化につながらないという意味で難しいことなのです。
その仕組みには通常経営理念やノウハウを具現化する自社の企業風土を映したノウハウや特色が鮮明にでてくるはずです。手の内を開示するわけですから、ここで自社のノウハウをオープンにして第三者の共同利用に供するか否かの経営判断の岐路に立ちます。したがって、自社の企業風土やノウハウを背景としたプラットフォーム(仕組み)を共同の利用に供する判断は、相当な自信がないとできない相談で、そう簡単ではありません。
要は、それぐらい素晴らしい仕組みでない限りその企業の持続的成長を支えることができないので、「仕組み」に大きな特色をだすことが重要です。
「個」より「全体」を売るサービスのデザイン
第四は、サービスのデザインを設計し、商・製品をその中のサービスの一部としてとらえるべきことです。デザインの中にサービス重視の考え方を活かすことです。
企業が売りたい商・製品を押し付けがましく店に並べるのでなく、顧客がその商・製品を手に取り、自分の生活空間の中での利用シーンを思い浮かべるような、利用シーンの各フェーズで利用者の願望や要望をどうサービスのデザインの中でどのように実現していくかを念頭に置いたサービス・デザインにすべきです。
こうするとサービス導線全体の中で、その商・製品の持つ個の価値より、さらに付加価値のついた全体を利用者に提供できるものになります。すなわち、経営の中に需要側のデマンド・オリエンテッドの視点を積極的に取り込むことにつながります。
iPodなどは、楽曲、店舗、第三者のアプリ、電子書籍などのサービス全体をデザインすることで単なる単体商品より、全体として付加価値の高いサービス商品を利用者に提供することを、初めから戦略として狙っていたかもしれません。
今は、小が大より魅力的な時代ではないでしょうか?
世の中には「中小企業」という分類がありますが、これは明らかに、会社の強さなどを規模のみで判断した分類ではないでしょうか。1960年代の高度成長時代ならいざしらず、既にこの分類は、マーケットの流れや企業の特性にそぐわないのではないでしょうか。
むしろ「小さいこと」にこだわってこそ、会社の強みを発揮できる場合が多いのではないかと私は考えます。
個の主張の時代
今の時代背景を考えると、
① 日本の社会が段々成熟し、物理的にはほとんどの生活者が満たされています。あくまで物理的に、です。私の場合も今、本心で「買いたい」と思うものが少なくなりました。
② 都会砂漠の言葉に代表されるように、隣の人や家族との縁が疎になっている中で、日常の生活に何となく不安や不満を持っている人が多くいます。私が主宰する「わくわく元気会」のある分科会での議論の中でも、これに類似した指摘がありました。また、私の経営での体験でも、一部の社員にこのような認識があることを感じていました。
③ そんな中で、人々は個性を主張したがっています。個性を主張する「場」を欲しています。ソーシャルネットワーク(SNS)のツールを利用した主張も「場」で個性を表現したい傾向の表現かもしれません。私もSNSを利用していてそう感じます。個々人が表現や主張の「場」をこれまで以上に欲しているのです。
こんな時代の中で、生活者は何を求め、何に魅力を感じているのでしょうか。私がかつて経営を預かっていた会社では顧客サービスを専門にやっていた関係上、肌感覚で以下の点が分かります。
何に魅力を感じますか?
① 物理的には満たされた中でも、これまでの量や数で満たされた現状は、何となく模造品の集合体に見え、皆がもっと、本物を欲しています。年代層により違いがあるとしても、ショッピングセンターで本物を探している顧客層が増えていると、ある流通業の役員をしている甲正彦君からも聞きました。
② 大公約数的な商品やサービスが多い中で、自分、即ち「個」に対応した商品特性の深さやサービス特性が如実にでてくるようなものを、皆が欲しています。
③ その商品やサービスを通じて、疎になった関係性(Relationship)を密にできるきっかけを、皆が欲しています。私も時々遭遇します。ハーレー・ダビッドソンの購入者が、集団で箱根の十国峠越えのツーリングを楽しんでいる「一行」に。関係性を持つ機会の一例です。「・・・クラブ」と名のつくサークル活動などへの参加を志向する人がふえている現象も、このことの表れかもしれません。
④ これらが満たされれば、多少高くても個性的で専門的な商品やサービスには、私など購入意欲が湧いてきます。ここでポイントは「これが満たされれば」ということを企業が本気で実現しているかです。
「本物の魅力」を示す
この現実を踏まえると、会社の規模は例え小さくても「強さ」を発揮するにはどうすれば良いのでしょうか。
第一に、「本物」をつくることです。「本物のサービス」を提供することです。「本物」を見つけるには、いろいろな商品群から引き算をして、残った商品にこだわることです。他の商品群には一切見向きもせず、その商品にこだわりつづけることです。PCやスマホ等向けの動画の企画・製作にこだわり顧客を増やし続けている会社もあります。
第二に、生活者との人間関係性をつくれる仕掛けにすることです。コミュニティーの仲間として、人と人との関係性をつくることです。その中でも、まず今の顧客を大事にすることです。先述、ハーレー・ダビッドソンの例をだしましたが、このようなコミュニティーに、会社が多少のサポートをしながら今の顧客を大切にすれば、その人たちの「口コミ」パワーの効果が期待できることになるかもしれません。
第三に、そのような顧客に常にメッセージを発信して、その人にのみ役立つ最新の情報を提供し、「あなただけ」を、「いかに個別に大事にしているか」を示す仕掛けをつくることです。「何が欲しいかが分からない」顧客がなかにはいるかもしれません。そのような顧客に対しては、彼らが欲しいものを探す方向に上手く導くような行為も望まれます。これを実現する為には、私が主張する自社の商品のサービス導線全体のデザイニング(他の稿に譲る)が不可欠です。




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