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折々の言葉 / 政治と国民

第174回 多極化時代の世界とアメリカの現状から学ぶこと(4)

Posted on 2015-10-01

前回の続きです。

 前回で記載したアメリカが、今、大きく変わりつつあります。所得格差が拡大しており、中間層も減ってきています。

 

臨時雇用

 労働者の賃金は上昇していないようです。アメリカを代表するようなメーカーでも、新しく雇用される人の賃金は10年前より大きく減っているとのデータがあります。これでは消費が伸びていく余地がありません。

 こうなったのは、2007年頃住宅バブルがはじけて大問題になった時、アメリカ政府は労働者への失業保険の適用や転職支援などの対策でなく、真逆な策を講じてっしまったのも一因です。規制緩和や民営化、最高税率の引き下げなど、言葉の上では一見もっともらしい策を講じました。一部の経済学者も推した政策です。この政策は、一般的に富裕層が一番恩恵をうける優遇策で、他方、大半の労働者はその恩恵を直接は受けにくい政策でした。

 多分、政策決定に関わる政治家へ政治献金をしている企業や富裕層などからの圧力によりこの策になったとも思われますが、雇用と需要を産む策とは言えません。富む人々が益々富み、貧しい人々の貧しさが是正されにくい政策だと、私は理解します。

 この結果、現在アメリカの労働力の20%以上が臨時雇用の状態だと言われています。今回日本の国会で議論されている労働者派遣法の改正が、沢山の臨時雇用を生む構造をつくらなければ良いと祈るばかりです。この背景にどのような圧力があるのか不明ですが、何故、アメリカの悪い部分を日本に導入しようとするのか、私には疑問です。アメリカでのこの層は社会保険の受給を受けにくい人々です。IT化で生産性が上がったと称しています。しかし、雇用が削減され、非正規雇用が増えました。この結果、企業の利益は増えても、その大半は金融業にもたらされた利益であるとのデータがあります。

 アメリカは外国から優秀な人材を受け入れて金融も含めた革新的なことをさせて国の活力を維持しようとしていますが、このことが格差の拡大につながったというこの皮肉を、我々は学ばなければなりません。

 

中間層の崩壊

 税金に関しても、いろいろな控除後、上位1%の富裕層でも実効所得税率は26%、最も裕福な400人が下位層1.5億人の所得合計より多い富を保有し、この層の税率は平均17%との報告もあります。この富裕層では金融取引から得た収入の比率が高いからです。すなわち、アメリカの富裕層の税の負担が、中間層より低いという現象が起きている状態です。

 この結果、1960年代の「パクス・アメリカーナ」の時代に増加した中間層が、ここにきて崩壊しています。女性の進出で一時家計も潤った時期もありますが、今や女性が進出しても十分な収入が得られず、借金のみ増加している状況のようです。富が上位と金融機関に集中する構造となっているようです。

 私が留学していた時代の1960年~1970年代では、富裕層の上位1%でGDPの9~10%だったとの統計がありますが、2007年になんと、これが23.5%になっている状態です。 これでは、アメリカでは富と権力を手にした人々に有利になるように、ゲームが操作されていると感じる国民が多くなっていて当然です。

 富が上位から下へ流れ、結果として、景気が良くなるという一部の経済学者の理論は当てはまっていません。「アベノミクス」で、日本の政治家もこれらしきことを主張していましたが、もって他山の石とすべきです。

 アメリカンドリ-ムの世界から、真面目にやっても報われない社会になりつつあると感じる国民が多くなっているとすれば、残念です。

 

何故中間層が崩壊したか

 アメリカの中間層が崩壊した原因の一部は、アメリカ社会が直面している金融業の肥大化が影響しているのではないでしょうか。

 私は1944年生まれの団塊の世代ですが、アメリカの国内でも私と同様に1946年~64に生まれたベビーブーマーが、大きな集団を構成していました。この層がちょうど働き盛りで退職年金をどんどん積み立てることができたのが、1974年以降です。この年に「個人退職所得保障法」が成立し、金融機関が個人の退職年金資産を大量に株式市場に吸い上げることが出来たのです。多額の退職年金資産の運用を株式市場に頼ったのです。当然、金融が大変忙しくなった時代です。

 2007年には米国全体の企業利益の40%以上を金融機関が占める状態になったとの報告があります。先ほど述べた「個人退職所得保障法」が成立した1974年までの30年間は、10%に過ぎなかったのが、その後の30年間でこんなに増加しました。金融機関の就業人口は6~7%なのに、利益シェアで40%以上で驚かされます。私も2008年頃、あるファンドに苦い体験を味わされましたが、冷静に考えると、金融機関の餌食になるのも自然の成り行きだったかなとも思うほど金融肥大化を示す数字です。

 

金融の肥大化がもたらしたもの

 金融業の肥大化がもたらしたものとして、経済の構造変化が挙げられます。

 消費需要が増える構造になっていないのです。すなわち、モノをつくる、それを使うために購入する、結果として消費需要が増える構造になりにくいのです。もっと直截的に金融の肥大化がもたらしたものは、先に述べた非正規雇用の増加、中間層の崩壊などで、貧困が構造化しているのではないかとの危惧です。生まれた時から構造的に貧困が決まっている状態です。これは政府の施策に関連して金融業が余りに肥大化してしまった結果ではないでしょうか。

 極論すれば、カネ本位の社会となりモノを地道につくることで稼ぐ習慣が無くなってきています。公的なポジションも含めてあらゆるものがカネを稼ぐ手段化してしまっていないでしょうか。我々も大いに他山の石とすべき部分です。

 

 

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