折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第189回 企業が生き残るために(3)
前回の続きです。
大きく拡大する発想で新規事業を
そうは言っても、生き残るためにやはり、何かを付け加えたいという思いは、どの経営者にもあります。新規事業がその代表選手ですが、このことは企業が生き残るためのイノベーションを図ることと通じています。
新規事業となると、つい今ある技術や資源から小金を儲ける発想をしがちな経営者が多いのですが、本来は経営者が抱いている大きな夢や理想を実現すべく、最初から大風呂敷で大きな構想を持つことが望ましいです。それでも現実の着地は意外とこじんまりとしたものになることが多いのです。皆が熾烈な競争をしているので、ある意味で当たり前のことです。
そんな中でも大きく発想するためのポイントは、
1.業界や業態をまたぎ、物事を「つなげる」ことです。
自社のみの資源で新しいことを発想するよりも、世の中に存在し利用できるものが周辺にないかを考える発想です。
違う言葉で言えば、構想の中で足りない機能などを認識し、これを他社の協力で補い連携することです。自社と他社を「つなげる」戦略を立て、連携する、ルールを作る、実行するというステップを踏むことになります。
簡単に出来ることから始めるのでなく、法螺でも良い、大風呂敷を拡げて小さくたためば良いくらいの発想を持って業界や業態を超えた「つながり」で大きくマーケットに影響を及ぼすプロジェクトとして頂きたいのです。業界の間、業際にビジネスがあるからです。
2.新しい事業は、既存のオペレーション構造とは全く違うことの認識を持つことです。
逆に、新しい事業を経営者が既存のオペレーション構造と同じ土俵で考えることは、最大の失敗につながります。
既存の延長線上の新規事業は既存のやり方を少し変えれば済むかもしれませんが、構想が大きくなればなるほど、違うオペレーション・インフラを発想しなければなりません。
それは自社の資源には無いかもしれません。このため他社の資源と「つなげる」ことの発想が必要かもしれません。
構想の大きな新規事業ほど、オペレーションの構成要素が一見似ていても、実は相当違うので自社にない資源を他の会社と手を組むことで補わなければならないことが多いのです。
3.試行錯誤の連続である覚悟をもって我慢することです。
構想が大きい場合、予期せぬいろいろな事態が発生します。それは戦略を大きく変えなければならない事態かもしれません。それは単なる変化のレベルでなく、構想自体の組み直しになるかもしれません。この事態を、事業構想を進化させ、より良い方向に向かうプロセスと考えたいものです。
このように事業創造には困難がありますが、臨機応変に変更を繰り返しトライしていくことです。構想を常に修正しながら進化させることです。壁の内側の論理でなく壁を越えた論理につながります。
壁を超えるには、現実にある社会的な課題、すなわち、少子化、高齢化、医療問題、環境問題、あるいは業界などの掟や商慣習を変更させる新しいルールを作ることなどになります。この場合、自社の力のみでなく友軍や連合軍で解決できないかの発想が望まれます。
ここに他社との連携を上手く継続できるかは、構想の良し悪しは勿論ですが、同時に、連携する企業群に「自分たちにも参加のメリットがる」と常に思わせ、特にキーとなる連合パートナーには絶対に不満を抱かせないことが肝要です。
4.また、きっかけを基にしたいろいろな試行の過程で、回収エンジンのことも考えなければなりません。
構想が大きくなると試行の連続です。何らかのきっかけで新たな試行に入り、実験することになりますが、私企業である以上、回収期間との勝負であることも忘れるわけにはいきません。このために厳格な回収計算を想定しなければなりません。
それでも私は、かねてより短期的な利益最大化や株主価値のみの最大化を目指し、早期の回収のみを念頭に置く経営は、結局企業の中期的発展のためにはマイナスな点が多いと考えています。私が主張する「農耕型企業風土づくり」を通じた経営の視点こそが、イノベーションを積極化でき中期的な発展をもたらすのに、逆説的ですが、近道だと確信しています。
金(カネ)中心の合理的な経営からは、リスクや時に大きな出費を伴うイノベーション的な発想は排除されることが多く、企業の成長のために次の大きな糧を得ることには遠くなると考えています。
むしろ非合理で人間中心の経営に視点を置くことこそ重要な発想の一つと考えています。今の経営が数字優先で短期的な回収計算を考えすぎ、組織を構成する働く人間に光をあてる傾向が弱くなっていることを、反省する機会だと思っています。
Related Posts