折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第190回 企業が生き残るために(4)
前回の続きです。
組織や環境を考える
では、経営者はどうしたら良いでしょうか?
どの経営者も自社の現存の事業に不満を持っています。当然のことです。何か新しい事業を立ち上げて、既存事業による成長の壁を破りたいからです。
ところが、その思いとは別に、果たして自社からブレークスルーが生まれやすい組織や環境になっているかを自問自答する必要があるかもしれません。
構成する社員のモラールは、組織や環境と深い関係があることに世の中の経営者は意外と無頓着です。他の課題が多くて、これに配慮する余裕がないのが実態かもしれません。
イノベーションに関して言えば、私の経験では、誰か一人で新たなイノベーションをもたらしたケースは稀で、集団によって生み出されていることが多いのに、意外に、これへの配慮も足りません。
ここで新規事業を成功させるため、イノベーションが出来やすい組織や環境について述べることにいたします。
1.どのような価値を創造するかを、組織としてまず明確にすること。
企業が目指す価値は、事業目的やトップの感心、あるいは欲望によって質を変えてきます。これが本来価値の本質です。
その価値を、トップの独善的なものでなく、できれば衆目賛同するような目的や関心、欲望にし、社員の共感を得やすいものに出来るかは、トップたる経営者の力量にかかります。
いずれにしろ、この考えを組織の下部に落としこむに当たり、最初に、イノベーションの目的、理念、ビジョンを明確にしているつもりでも、意外にそうなっていないケースが多いです。リーダーは組織の目的を達成した暁に何が実現するのか、それが構成する個々人にどう関係していくのかを含めて、ビジョン(将来像)を伝えなければなりません。ビジョンは、その組織が目指すべき将来像の下書きと考えればよいでしょう。従って、注意深く明文化することが望ましいです。そうしないとチームの目指す方向性が定まらず、また、コラボレーションに支障をきたします。
2.コラボレーションが出来やすい組織を作ること。
イノベーションには、どれだけ創造的な人材を見つけるかから始まります。外からの創造的な人材と既存のトンガリ人材を上手く組み合わせることで、イノベーションにつながることが多いのです。
プロと違う経歴やの専門プロの集団の組み合わせです。従って、コラボレーションの精神が醸成され、彼らが意見交換し協同しあえる組織をつくることが、イノベーションに不可欠です。
3.発見型の学習を育むため「遊び」を許容する組織とすること。
試行の過程で、長期にわたって実験や修正を繰り返し実行して問題の解決策を練るのが一般的です。いろいろな実験を繰り返すので、新しいものを生み出すには時間がかかります。他方、成果も求められますが、あまり厳格な計画にしたがって進むのでなく、実験を繰り返しつつ余裕をもって前に進むことが大事です。
突然性急に何か新しいことが生まれることを期待してはいけません。
試し、学び、修正し、再び試すこの姿勢の連続で初めてイノベーションにつながりますので、組織としては、ある種の「遊び」を許容する姿勢が不可欠です。
4.決定と参加者の貢献をリーダーが支える組織とすること。
チーム内で出た異なるアイデアを「組み合わせる」ことで、より優れた新たなアイデアが作り出せます。従って、決して、リーダー一人の発想に無理に統合させないことが、継続的なイノベーションにとって重要なことです。
意見を戦わせると、個人と集団の軋轢が生じることになります。
そこでリーダーは全体に重点を置きつつも、個々人の貢献を忘れずに彼らを励ます方法を取らなければなりません。他方、メンバーには自分が全体の一部であることを自覚させ、他の人も貢献していることを理解させることも重要です。
新しいアイデア出しに向けてリーダーが彼らを支え、彼らの良いアイデアを組み合わせていく力量が必要となります。
5.異質人材でブレークスルーを手助けしてもう組織とすること。
上記2で述べた通り、既存のメンバーのみでやるよりは、異質な人間を加えることがイノベーションにつながりやすいです。均質な人材である程度は成長できても、壁を破るには異質性や多様性が絶対的に重要となります。
ところが、これらの人材は、結構マネジメントしにくいのが事実です。「とんがっている」からです。このために、世の経営者や組織はすぐ、そういう人材を特定のラベルを貼って排除しやすいのですが、組織がこのことに慎重で我慢が出来るか否かが勝負の分かれ目です。
しかも、そのようの人材が一人で何かを達成できると考えてはいけません。やはり既存のメンバーとのチームプレーなのです。多様な知識や知恵を混合させるためのチームプレーです。異質人材の参加で初めはいろいろな不協和音を耳にすることになります。しかし、ここも我慢です。
そのために必要なことは、ここでも経営者の力量です。
6.顧客の論理を見いだせる組織とすること。
イノベーションに関してメンバー全員で討議すべきことは、自らの会社の論理でなく、どんな顧客が何に困っていてそれを如何に助けてあげれらるかのニーズを明確にすることです。
大半の議論でここが不明確なるが故に、時間ばかり無駄にしていることに気づきます。顧客の不満や解決したいことが何かは、顧客に聞かないと分かりません。その意味で顧客の声(Voice of Customers)程大切なものはありません。これを組織として意識的に集め、分析するために時間を惜しまない組織が望まれます。
これが分かった上でそれぞれの顧客に即した企画提案が可能です。商品を沢山売りつけ顧客が腹いっぱいの状態にするのは、中期的には得策ではないことも分かります。一元さんに売りつけ、いざとなったら逃げるという手法も論外で長続きしませんが、実体としてこれらのことをやっていることになる企業が多いのが残念です。ロイヤルな顧客からの継続的な利益の機会を失っているからです。
基本は、顧客と一緒に自社も育っていく発想が必要です。
7.チームに参加するメンバーの「興味」と「関心」を持続できる組織とすること。
イノベーション・プロジェクトに参加する全ての人は、自分の興味を満たしたい、自分の「関心」を満たしていきたいと思っています。
勿論、関心は人により違います。しかも、それが移ろいます。このうつろいゆく参加者の興味や感心と彼の能力とプロジェクトの課題のバランスを見定めて参加メンバー間の調整をするのが、一番難しいところです。このバランス取りを、組織としてやらなければなりません。この時、参加者の能力の点からだけ判断すると失敗します。誠実さのレベルも十分考慮して役割決めをリーダーがしなければなりません。
8.事業選択を適切に出来る組織とすること。
企業としては、ある段階で沢山の新規事業やプロジェクトの候補の中から事業選択をしなければなりません。一旦拡げた企画群の候補の中から企業の状況を総合的に考えて、優先順位をつけてどれに資源を集中するかの選択です。
この時、採択されない案件も出てきます。実は、その理由や事情説明を納得いく形でやらないと、組織として次の企画群の発掘に支障をきたすことになります。
優先順位の高い企画が選択されて走り出しても、選択した事業が利益を出すには時間がかかります。しかし、企業として予算や日程の縛りもあります。
リーダーは時間をかけてアイデアを煮詰めつつも、次へ進むタイミングを逸しないように根気を持ちつつ予算と日程に配慮しなければならない矛盾を克服していく難行をひきうけなければならない運命にあります。
以上、4回に分けて「企業が生き残るために」のタイトルで。成功する企業の特徴、大きく拡大する新規事業、そのための組織や環境について述べました。
皆様の参考になれば幸いです。
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